無題

祈りのごとく折る所

 警報が浅い眠りから私を引きはがす。高音三拍。敵県による〈中割り〉の合図。呼出に慣れた肉体は、覚醒前に制服への着替えを終えていた。廊下に飛び出し、第四祈紙防衛室に入る。指揮用祈机につきながら横目で人員を確認。正方型五名。蛙型二名。大型一基七名。夜勤班長のヒメノは優秀だ。既に迎撃用の人員配置と術紙配布を終えている。

「〈中割り〉の祈手はT県か?」
「恐らく。術紙の色・寸法傾向が一致。間違いないかと。祈目反応からして、蛙型七基と大型二基。蛙の多さがやや気になりますが、いつも通り〈鶴〉五〈蛙〉二の編成で問題ないかと。大型の完成形は現時点で全くの不明」
「こちらの大型は」
「〈飛翔 蟷螂〉」

 ほう、と感心する。祈目数千五百七。攻性祈紙の中でも群を抜いた大物だ。

「思い切った判断だな、ヒメノ」
「最近の〈中割り〉頻度は多すぎます。ここらで痛い目をみてもらいましょう」
「よし。だが、敵の大型完成に間に合うか?」
「祈っているのが目数五百級ならば無理かと。ただその程度なら〈鶴〉と〈蛙〉で迎撃できます」

 よし、と肯きかけた時、パン!と不吉な音がなった。破紙音。ヒメノが血相を変えて隊員祈机に走る。

「正方型、五名失神!」「祈りミスなし!」「〈中割り〉です!」

 防衛室に沈黙が降りる。理屈が合わない。確かに蛙型の基数は向こうが上。しかし七基全てを防性度外視の〈百合〉で揃えてもこの速度はありえなかった。ならば。答えが見つかり背筋が凍る。これはいつもの威嚇ではない。T県は本気だ。

「……敵の七基は〈お化け〉だ」

 馬鹿な、とヒメノがよろめく。完成に至る最後の一祈りで〈切れ目〉を入れる禁術祈紙。術が施された紙に、人の手による〈折る〉という術を重ね、もって祈りの威力を乗算する。祈紙は通常の手順ですら危険極まりない呪法であり、ましてや禁術ともなると……。

「〈ユニット〉だ。禁術には禁術。術紙を二枚用意しろ。私が〈手裏剣〉を祈る」

【続く】