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最近読んだアレやコレ(2021.06.30)

 皆さんは最近いかがお過ごしですか? 私は近頃、空(くう)を買って本棚に並べるのにハマっています。

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 というわけで引っ越しでどたばたしています。引っ越し……形而上の手続きは面倒臭いことこの上ないのですが、形而下の手続きは非日常感があって好きですね。自身の生活が段ボールのグリッド線によって、直方体に区切られてゆくのは奇妙な心地になります。私の日常が、定量化されてゆく。服を着ることよりも料理を作ることの方が体積が3倍大きく、料理を作ることより本を読むことの方が体積が11倍大きい。電子世界のアバターが転送されるとき、バラバラのドットに分割されてささささと移動するという古典的SFイメージがありますけれど、私はそれを手作業でやっている。私が汗水流して詰め込み運びしている処理が、画面上にはそうやって翻訳されて表示されているのだなと実感すると何とも愉快です。

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ミステリー・オーバードーズ/白井智之

 露悪と醜悪、執着と執拗に満ち満ちた異形小説がたっぷり5編詰め込まれ、嘔吐寸前、オーバードーズ待ったなしのグルメミステリ短編集。吐瀉物・糞尿を中心に生理的嫌悪感を催すピースを用いて精度の高いハジケたパズルを組み立てて見せるハレの白井ミステリと、過剰なまでに執拗な推理により人間と物語をバラバラに解体して殺してしまうケの白井ミステリ。うんこちんこではしゃぐ様と人間を殺して真顔でたたずむ様が順ぐりに襲い掛かってくる交互浴っぷりは、読む者の酩酊度と満腹感をめきめき上げてゆき……それによって薄れる意識に反して、収録作の迫力はどこまでも高まり……もしかしたら……今夜って、彼のベストアクトなんじゃないのか……? 肛門から飯を食い口から排泄する異世界という狂った設定を必然性を持って使い倒す「げりがげろ、げろがげり」など、最悪すぎる内容を過剰な完成度を持って成り立たせてゆく様は圧巻。中でも、個人的な白眉は事実上の表題作「ディテクティブ・オーバードーズ」。ラリった名探偵の推理にキャリブレーションをかけてゆくという趣向がとにかく凄まじく、作品から全ての装飾をはぎ取った後で、過剰なまでに『ミステリ』自身を飾り付けたような、自家中毒めいた傑作です。ミステリ短編集のオールタイムベストを決める際に、考慮されるべき珠玉のアルバムでした。無茶苦茶おもしろかった。

 

卒業したら教室で/似鳥鶏

 憧れの先輩・柳瀬さんの卒業を前にして、例によって新たな事件に巻き込まれる葉山くん。八番目の七不思議『兼坂さん』の裏に隠された真相とは? なんだかんだで14年、地味にニンジャスレイヤーよりも長い付き合いになっている〈市立高校シリーズ〉の最新作。ユーモラスかつ朴訥な語り口調によって、ぽくぽくと語られてゆくシリーズであり、劇的な演出こそなされないものの……やはり14年見守った主人公・葉山くんとヒロイン・柳瀬さんの恋の決着には、感慨深いものがあります。そして、明確な区切りでありながらも、これでシリーズ完結とならないのが素敵です。本シリーズは、作中時間がしっかり進行し、探偵役やヒロインが舞台である学校から卒業していなくなってしまうのですが、それでも彼ら彼女らの話が終わることがないんですね。別れも成長も飲み込んで、青春ミステリは継続する。唐突に異世界の魔道学院や本編12年後の描写が挟まれるトリッキーな構成も相変わらずの似鳥節で愉快痛快。好青年なフェイスの裏にしっかり爆弾を抱え込んでいる、不敵さよ。あと、『氷菓』や『退出ゲーム』がアニメになったのだから、次はこのシリーズだろうと個人的に思ってるんですが……どうなんでしょうか。


聖アウスラ修道院の惨劇/二階堂黎人

 格調高き聖アウスラ修道院に跋扈するおぞましき怪人!女学生は塔より落ちて無惨死し!首を切り落とされた神父は桜に逆さに吊るされる!酸鼻極まる黙示録殺人の背景に隠れるのは神か悪魔か!?密室!暗号!首切り!見立て!怪人!ゴア死!ヒィ~!クラシックな推理小説は最高だぜ! 外連味とハッタリが凄すぎて、一周回って最早ギャグみたいになっている二階堂ミステリの真髄をしゃぶりつくせる、文句なしのマスターピース。とにもかくにも、『今、ここを最高におもしろく』を詰め込みまくった結果、密室トリックの内容や推理の妥当性が基本どこかに吹っ飛んでしまっている様はまさにエンタメ・ミステリの最高潮としか言いようがありません。そしてそれでいて、最後の謎「修道院に隠された秘密」において、自ら上げまくったハードルを余裕綽々飛び越えるとんでもない奇想を花火のごとくぶち上げてくる。まさに、『今、ここが最高におもしろい』、つまりは『最後が一番おもしろい』を成立させた堂々たる実作。ロジックもトリックも、全ては『おもしろい』のためにあり、故におもしろければ全てが許される。爆笑してしまったので私の負けです。めちゃおもしろかった。『悪霊の館』も読む。


鉄鍋のジャン(1~13巻)/西条真二、おやまけいこ

 最近、個人的に開催している、「名前だけはよく知ってる有名タイトル漫画を実際に読もうキャンペーン」の第3弾です。感想は書いてませんが、これより前にGANTZと宇宙兄弟を読んだりしてました。私はアニメ版ミスター味っ子が大好きであり、DVDを全巻所有しているほどのファンなのですが、その弊害として対決ものの料理漫画を読むと「対決なんてしょうもないことをしてないで、真面目に料理を作れ」となる悪癖があります。本作はまさにそのドンピシャと言えるのですが……いやあ、凄いですねこの漫画。「ジャン人類は全員カスなので、考える必要はない。殺せ」という狂った前提の前では、味っ子で培われた私の倫理など紙屑程度の重さしかない。マジでカスみたいな奴と狂人しか出てこねえ。こんな奴らのことを考える必要は確かにねえ。「『料理は勝負』を押し通すためには、結局は対戦相手や食べる人のことを考えなければならない。よって、『心の料理』と行き着く先は同じ」……みたいな小理屈に一切流れず、最後まで暴力をやり通しているのが清々しくてかっこいい。個人的には、対戦相手の指と腕をへし折る狂人が、指と腕をへし折っただけでフェードアウトして退場したので、ただ指と腕をへし折るだけの狂人で終わったのが最高でした。料理の腕ではなく関節技の腕を披露して帰っていった。嘘だろ。


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