私は大学生のとき左膝靱帯断裂で約３ヶ月入院した。
左膝靱帯４本のうち３本を切り、繋ぎ合わせる大手術だった。その後、約９ヶ月間リハビリを続けたが、正座は今日に至るまで出来ないでいる。以降、左脚を庇う右脚に相当の負担をおかけしている。
結婚し、長女、次女を授かり、長女が高校生だった時、父兄リレーに駆り出された私は１回目の肉離れを経験した。右ふくらはぎだ。
プチっと音がした。
ただただ父としての役割を全うするため父兄リレーに出場して、１回目のプチっ！となった。
その後約１ヶ月間、「日にち薬」でようやく痛みは回復し、松葉杖からも解放された。

古傷は身体であれ、心であれ、再発しやすい。
２度目の「プチっ！」は、それから２０年後の２０１６年５月５日にやってきた。
すでにその頃の私は子供会の綱を担当していたので、子供会が散会する１５時を過ぎて、ようやく地車に触れることができるという有様。５月５日も１５時からようやく地車に触れられて、私は神に出会うため、物我一体（もつがいったい。仏教語で他の人と自分が一つになり、他者も自分もない境地のこと）化に専念していた。ポジションは地車前方の右端。靭帯損傷の左足に負担をかけたくないので、右足の踏ん張りが効くように無意識にここに陣取ってしまう。したがって、肉離れを経験した右ふくろはぎに負担をかけているのは言うまでもない。
地車が左に曲がる折、グイッっと脚を踏ん張ったとき、その右ふくらはぎが音を立てた。

プチっ。

音と共に、ふくらはぎの足首側から膝方向に筋肉がアコーディオンカーテンの如く巻き上がる感覚に襲われた。二度目の肉離れ、古傷降臨！

もはやこれまで。
地車から一人離れ、それでも未練タラタラで地車後方から負傷兵はついていく。恥ずかしくて、ビッコもひけない。法被の中は痛みで冷や汗ダラダラ。
年齢も考えず、普段、酒浸りの体で急に動くとこうなってしまう。
私の母は祭りのたびに「もういい歳なのにいつまでテンゴしてるのよ」と毒を吐くが、肉離れは母には言えない。断じて黙秘権行使、治ってから実家に行き、笑い話の武勇伝にするべし！
仕事や役職を考えると、ケガや病気は避けなければならない。にもかかわらず危険な場所に行ってしまう。「祭りに出るな」と言われれば言われるほど出たくなるのが”祭りバカ”だ。日本全国津々浦々、祭りのある所に”祭りバカ”は生息する。
皆さん、ご安全に！

こうしてビッコを引きながら、初めて地車の後ろにくっついて宮入りし、地車のほん側で宮入りを見た。まるで自分のために宮入りをしてくれているような錯覚に陥る。美しい、空區の宮入りは美しい。実に美しい。
でも曳きたかった。

余談になるが、この年の５月、私は２００７年第２８回日本BtoB広告賞・PRの部・金賞に続き、２度目の受賞となる第３７回日本BtoB広告賞・製品カタログの部・金賞を受賞し、その知らせは、だんじり祭り直後にきた。会社生活終盤での最後の花道と思いきや、受賞の喜びを感じぬほど痛かった。今回は針治療も行なう重症だ。痛い！とにかく、痛い！松葉杖は鍼灸院から渡されたが、歩くのも億劫だ。
６月７日、東京都千代田区にあるホテルグランドパレスで表彰式が行なわれる。しかし、松葉杖では表彰式会場の東京までどころか、新大阪駅でさえタクシーでないと行けない。
代役はデザイナー兼助監督の若手に任せて鍼療法に専念した。針が内出血の奥底に入っていく。グググッ・・・ギャ～。いま思い出しただけでも痛い。しかし、肉離れは「日にち薬」しか無いってどーいうこと。ただひたすら待つのみ。

この時、なぜか表彰式欠席よりも、宮入りできないココロの痛み、不幸を恨んだものだ。毎年祭りに出るのが掟と信じてやまない私にとって痛恨の極み。今年は宮入りで神に出会えなかったばかりか、恐らく罰当たりな日頃のオコナイによる肉離れの刑の執行。
この時、私は悟った。傷ついた身体もココロも、癒すのは優しい言葉ではなく、時の流れなのだと。
こうして私の２度目のプチっは、約１ヶ月間の「日にち薬」を経て、回復した。

余談だが体力維持のために始めたヨガで、２０２２年１２月今度は古傷の左膝靭帯そのものを傷めた。曲げの許容量を超えて曲げたための痛みだ。あれから１年、２０２３年１２月になってようやく痛みが取れてきた。しかし、相変わらず正座はできない。ちなみに２０２２年の祭りは、右足も左足も庇いながらの出陣、満身創痍の祭りバカだ！
傷ついた身体もココロも、癒すのは優しい言葉ではなく、時の流れ。２４年の祭りにも必ず出る。絶対に出る。
早く完治させなければ・・・くそっ、「日にち薬」しか無いんかーえ!?