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空區地車の力学50.裏方さん②食料運搬役 ~世の中は籠に乗る人、担ぐ人、そのまた草履を作る人~

前号で紹介した「まかないさん」が作ってくれた食べ物や飲み物、さらに子供会のためのアイスクリームやジュースなどを運んでくれるのがトランスポーター=食料運搬役だ。

次代に地車を継ぐのは子供たちだ

運搬役は、軽トラックで休憩場所に運ばなければならないので、基本的には運転免許証を持つ男性が担当する。少なくとも私が子供会の担当をしてからは、毎年決まって大野さんが担当してくれている。私よりも年配の方だ。
運搬役は、空地区会館で軽トラックに荷物を積込み、時間までに休憩場所まで運び、皆んなに配布して、ゴミを回収して会館まで持ち帰り、捨てるというかなりの重労働だ。
しかし、同じ若中の中でもその存在を知る人は少ない。運搬役の正式名称もない。よって感謝の声を聞くことも少ない。まさに「やっとれるかー」の正真正銘・裏方さんのい中の裏方さんだ。

運搬役には大野さん以外に補助者が2〜3人つく。この人たちは厄の若中が受け持つことが多い。例えば身内が亡くなられた場合、一年間祭りには出ない。そこで運搬役をかって出る。しかし、翌年には厄明けするので運搬役から若中に戻っていく。
結局、大野さんだけが運搬役を続けている。「何が楽しくて運搬役をしているのか?」私は今もって不思議だ。
しかし大野さんは、ニコニコと献身的に運搬役に徹している。
祭りが好きなんだとはいえばそれまでだが、感謝に絶えない。

私は子供会担当なので、子供たちの水分補給には相当気を使う。補給部隊が遅れれば子供会は干上がってしまう。そして地車は寸分たりとも動かない。
一度「もっと早く来てくださいよ」と言ったことがあるが、全くの言いがかりであることは言うまでもない。そもそも運搬役は人数も少なく、かといって成り手もなく、存在さえ知られていないのだから人員補充もない。
それでも中高生の若中が、ゴミの回収は自主的に手伝っているから、よく出来た子たちだ。

祭りは、人への労わりも教えてくれる。
祭りには人が必要不可。しかし人には、その数だけ個性がある。ましてや給料を貰ってやっているのではなく、ただ参加したいという思いだけで集まっている。地元に古くからいる人だけでなく、引っ越して間の無い方や、地元民の友人知人などの一見さんも参加している。
それゆえ衝突もあるし、好き嫌いも出てしまう。その垣根を越えてひとつになった時、重さ4トンの地車はいとも簡単に動く。心がひとつにならない時の地車の重いこと、重いこと。

心をひとつにする方法として掛け声があるが、掛け声がひとつになり、効力を発揮するには「繋がりたい」という気持ちが必要だ。誰と?
もちろん若中全員とだが、「神さん」とも繋がるのかもしれない。いつも祭りには不思議なチカラが作用する。曳いた者なら誰もがそのチカラを感じ、信じている。「たまたま」や「まぐれ」ではなく、地車がイキに決まる時は必ず人は繫がり、そのチカラは神に届くのだ。

「世の中は籠に乗る人、担ぐ人、そのまた草履を作る人」という言葉がある。それぞれの立場の人の、持ちつ持たれつの関係で社会が成り立っていることのたとえだが、地車もまた様々な人によって巡行できる。誰が偉いかは問題ではない。プライドを持ってそのパートに注力できれば、あとは曳けることに感謝すればよい。

今年は3日間も地車が曳けたので、運搬さんやまかないさんが大変だったことは間違いない。
ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。