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種子鋏のはなし

気に入った鋏を見つけると少しずつ買って集めています。
年に1丁ぐらいのペースなのでコレクターと言えるほど集めているわけでもありませんし造詣が深いわけでもありません。
そんな緩やかな鋏好きとして気になる鋏の筆頭である国の”記録作成等の措置を講ずべき無形民俗文化財(民俗技術)”に指定されている博多鋏と種子鋏。


13世紀前半に宋からの帰化人が持ち込んだ鋏をルーツに持つ博多鋏と、1543年に種子島に漂着したポルトガル船の鉄砲鍛冶をルーツに持つ種子鋏。

鎌倉時代に南宋帰化人から持ち込まれた鋏をルーツに持つ博多鋏最後の継承者だった高柳利器製作所の髙桺晴一さんが2020年11月に癌により70歳で逝去され、新たな博多鋏の入手が困難となってしまいました(技術を学んだお弟子さんが一人おられますので博多鋏の火は消えていませんが)
そしてポルトガル船の鉄砲伝来によりもたらされた技術をルーツに持つもう一つの無形民俗文化財(民俗技術)である種子鋏は牧瀬種子鋏製作所さんが廃業してしまったことによりつけ鋼製法(鍛接)で1本1本手造りの鋏を製作する梅木本種子鋏製作所が最後の鋏鍛冶となってしまいました。
種子島は良質の砂鉄が取れることで有名であり、質の良い鉄を求め日本中から刀鍛冶が島へと移住しており、鍛工技術のすぐれた職人が多く住んで技術を競い合っていました。
こうして刀や鉄砲製造の傍ら鋏をつくり、廃刀令後は鋏を本業としやがて島の伝統産業となりました。

つけ鋼製法(鍛接)というのは柔らかい鉄(軟鉄)と炭素鋼(鋼)を鍛接材で接合・圧着する技術で、資源の少ない日本ならではの材料をより有効に使うために生まれた技術と言われています。
鍛接材(接着剤の役割)は主に硼砂と砂鉄を主成分として、鍛冶職人それぞれのレシピがあります。
熱く熱した鋼と熱した軟鉄との間に鍛接材を塗し鋼の表面に酸化鉄ができてしまう前に素早く均一に鎚で打ち接合する技法で英語ではforge weldingと呼ばれています。

梅木本種子鋏製作所さんの種子鋏は4寸から8寸までの5サイズあります。
4寸は全長12センチ、刃渡り4.5センチ(重量:28g)とかなり小さいので裁縫や細かい作業に適しています
5寸は全長15センチ、刃渡り5.5センチ(重量:48g)と小ぶりな鋏で細かい作業に適しています。
6寸は全長18センチ、刃渡り6.5センチ(重量:67g)で普段使いに丁度良いサイズです
7寸は全長21センチ、刃渡り8.5センチ(重量:111g)で刃厚があり重さを感じながらの安定した直線切りに向きます。
8寸は全長24センチ、刃渡り9.5センチ(重量:158g)で7寸よりもさらに重みがあります。

子供の頃に最初に出会う文具はクレヨンや色鉛筆だと思うのですが、最初に出会う危険な文具は鋏ではないかと思うのです。
鋏を持たせてもらえるようになるということは親からの独り立ちへの第一歩でした。
今から思えば、子供の頃の危険な文具を持つ喜びは背徳感にも似た後ろめたさと大人への憧れがあったからなのかもしれません。

そんな種子鋏ですが、10年ほど前からなんとか取り扱いができないかと思っていたのですが、この度ご縁あって梅木本種子鋏製作所さんの種子鋏のお取り扱いをさせて頂くこととなりました。
日本の伝統技術の火を消さないためにもより多くの方のお手元にお届けできればと思っています。

梅木本種子鋏製作所の鋏は下記urlでお買い求め頂けます
https://www.590and.co/categories/4447928


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