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音楽で世界中を飛び回る飛行機〈11月毎日投稿〉

「Khruangbin(クルアンビン)」は、タイ語で「飛行機」という意味。アメリカはテキサス州、ヒューストンを中心に活動するバンドです。

古今東西の世界中の音楽を取り入れ、いや取り入れるなんて言葉じゃ生易しく感じてしまうくらいに、愛とリスペクトを持って自分達のものにし、私たちに届けてくれる。

「飛行機」という名の通り、世界中を飛行機で飛び回って旅をするように音楽を楽しませてくれるバンドです。

世界には素晴らしい音楽がたくさんあります。民族音楽とか、ワールドミュージックと呼ばれるようなもの。そこには、その土地の人々の価値観や身体性、その土地の風土や歴史が詰まっています。世界の多様な価値観や気候風土、文化を理解する糸口として、音楽は1つの手段になるのではないでしょうか。

これだけグローバリゼーションと言われる世の中、世界中の情報が簡単に手元に集まる時代を生きているのに、自分が生まれた国の音楽だけを聴いて生きるのもなんだか窮屈。

一方で、耳慣れないリズムや音階だと感じると、とっつきづらいと思ってしまうのも事実。自分が慣れ親しんだ音楽を心地よいと感じるのは、人間として自然な反応なのかもしれません。

もちろん、音楽に限らず文化や芸術は、国に関係なく、お互いに影響し合い、混ざり合って今の形になっているものも多いです。簡単に「その国の音楽」と分けることはできません。

だからこそ、縁もゆかりもない遠くの国の音楽なのに、今まで聞いてきた音楽ではどうにも形容できないような懐かしさを感じて、無性に大好きになる。そんな経験をすることもあります。

私が通っていた大学の近くに、旧歓楽街をルーツに持つレトロな飲み屋街がありました。旧歓楽街時代の建物はそのままに、新しい飲食店が軒を連ね、老若男女が楽しめる飲み屋街になっていて、雰囲気はさながらマーケットのよう。

その中でもお気に入りのタイ料理屋さんがありました。内装をDIYで増築したり改装したり、現地の雑貨がそこら中に飾られていたりと、エスニックな現地感の中で、本格的なタイ料理を楽しめます。

料理やお酒もとてもおいしく、使っている食器も現地のもの。旅行気分を味わえるのがお気に入りで、よく友達と飲みに行っていました。日本から出たことがない私にとっては、夢のような時間でした。

そのうち、そのお店でBGMとしてかかっていたタイの音楽が気になり始めます。ペケペケいうギターの音、小気味いい打楽器、日本の民謡にも通ずるような、東洋のソウルを感じさせる歌声。この感じ、たまらないなあ~。

ネットで調べてみて「タイファンク」というジャンルだということを知ります。しかし結局、当時はそこまでハマりませんでした。自分の部屋や電車の中で、日常的に聴いているとなぜかしっくりこなかったのです。

歌詞がわからない音楽を聴くたしなみが当時の私にはあまりなく、リズムや音階に独特のゆるさもあり、慣れ親しんだ音楽との違いに戸惑ったのもあるかもしれません。

ここではイメージしやすさのために「ゆるさ」と表現してしまったけれど、決して「自由奔放」「勝手気まま」という意味ではないのです。その音楽圏の中で共有され、受け継がれてきた一定の「ノリ」のようなものが、それぞれの音楽には存在しています。

ゆるく適当にやっているとか、未熟で不完全な音楽とか、そういうことを意味しているのでは決してありません。むしろ私は、タイファンクを気になりつつ、どっぷりハマれなかったことで、「もっと自分の耳の”視野”を広げたい」と思うようになりました。

それから数年後、FUJI ROCK FESTIVALに行くことになり「その日に出るアーティストを一通り予習しておこう」というところで、Khruangbinを知ります。

Khruangbinは、ベースのローラ・リー、ギターのマーク・スピアー、ドラムのドナルド”DJ"ジョンソンの3人組。ギターのマークとドラムのDJはもともと教会のゴスペルバンドで演奏していたこともあり、R&Bや黒人音楽にもルーツがあります。(アルバム『CON TODO EL MUNDO』ライナーノーツより)

タイファンクにハマれなかった私がKhruangbinにハマれたのは、無国籍に音楽を吸収していくバンドのスタイルに加え、DJの正確無比なドラムがあったからこそなのではないかと思っています。

私は生粋の日本人、ブラックミュージックの本場のあのクールな感じにはかなわない。それでも、ロックやポップスを通して欧米の音楽に馴染み、ピアノの上にメトロノーム置いて、均質なリズムを泣きべそかきながら叩き込まれた経験があります。

西洋音楽に肩まで浸かり切った私が、ちょっととっつきにくいと感じていたリズムも、DJの正確無比なドラムによって聴きやすいと感じることができる。

自分が慣れ親しんだ西洋音楽的なエッセンスを土台にして、ギターのペケペケ感、軽快で底抜けに明るいリズム、オリエンタルなソウルフル、「Khruangbinの音楽」というべきかもしれません。それでも、それを橋渡しとして世界の音楽に触れることができる。

その土地の空気や気候風土、雰囲気と一緒に音楽に触れることで、その音楽の本当の魅力を知ることができる、ということもあります。海外に行ったことがない私も、日本国内でその土地の民謡をその土地で聴いた時の、えも言われぬ感動を感じたことはあります。

そう考えると、Khruangbinはその逆をやってくれているのかもしれません。つまり、音楽の土台をR&Bに据えることで、世界各地の音楽が持つ本質的な美しさを、違う角度から見せてくれているということ。

世界中を飛行機で飛び回って、音楽で世界を橋渡ししていく。そんなバンドのスタイルそれ自体がもう大好きなので、1曲に決めるのはどだい無理な話です。

でもここでおすすめするなら、少しでも日本語話者の方に馴染みのあるものがいいのかな~と。YMOカバーの「Fire Cracker」を置いておきます。

コンビニでクエン酸の飲み物を買って飲みます