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音楽とラジオの素敵な関係性〈11月毎日投稿〉

毎週木曜深夜0時から、TBSラジオで放送している『ハライチのターン!』。フジテレビのお昼の顔でもあるお笑いコンビ、ハライチの澤部佑さんと岩井勇気さんによるラジオです。

『ハライチのターン!』の前身番組である『デブッタンテ』時代からハライチのラジオをずっと聞き続けている筋金入りのハライチョフの私。あれ、ごめんなさい今はハライチョフじゃなくてタンタミンか(2023年10月現在)。

ラジオ番組には、リスナーに独自の総称を付けているものがよくあります。ニッポン放送の『オードリーのオールナイトニッポン』は「リトルトゥース」。TOKYO FMの『SCHOOL OF LOCK!』は「ラジオの中の学校」という設定なので「生徒」(パーソナリティは校長と教頭)。

『ハライチのターン!』でも、そういう総称が一応あるにはあるのですが、岩井さんが意味不明なリスナーの総称を突然言い出し、強引に変える回が定期的にあるので、今自分たちがなんと呼ばれているのか、もはや覚えられない状態になっています。

一見意味不明なくだりではあるけれど『ハライチのターン!』の一番の魅力はそういうところなのではないかと思っています。決まりきったくだりやワードに固執せず、内輪ネタに走り過ぎず、だからどの週から聞き始めても楽しめる。そしてずっと聞き続けているリスナーにとっては1週も聞き逃せない。

番組の大まかな構成は変わりませんが、番組内のコーナーが本当に頻繁にコロコロ変わります。番組開始時から続く、冒頭の「ネコちゃんニュース」を除き、10週続いたものは一つもありません。

「これについてメール送って下さい」と2人からリスナーに対してリクエストがある場合もあるけれど、前回までの番組の内容を踏まえて、リスナーが勝手に送ってきたメールをもとに、自然発生的に生まれたコーナーが非常に多い。

そして「面白くなくなってきた」とか「こんなのもうやめよう」みたいなふんわりした理由で、容赦なく次々とコーナーが終わっていきます。ハライチのお2人は、リスナーとのそんな自由奔放なコミュニケーションを楽しんでいる印象があるし、私もそんなやりとりを聞いて楽しんでいる1人です。

番組を続けていくうち、リスナーとの関係性が築かれていく面はもちろんあります。前回までの内容を踏まえて話が進んだりするときには、必ず前回を聴いていない人にも分かりやすいよう、それまでのくだりを簡潔に説明してくれます。

ラジオでは、コーナーの企画説明を早口で形式的な感じで説明する番組もあったりします。常連リスナーが多いことを想定して、毎回言うのは野暮だけど、でも初めて聞く人向けに、一応やらなきゃいけないからやってる、という感じ。それがカッコよかったり、心地よかったりもします。

でも『ハライチのターン!』では、毎回はっきり抑揚をつけて説明してくれます。コーナーがすぐ終わるからというのもあるでしょうが、いつも聞いているリスナーとの関係性を大切にしながらも、新規リスナーが入りやすいようにしている印象です。

お決まりのパターンが出来て来たり、セオリーができてきたり、定石に迎合しすぎそうになったら、容赦なくそれまでの積み重ねをぶち壊す。

そしてこれはきっと、やろうとして出来るものではなく、ハライチの人柄や実力がなければ成立しないことなんだろうな~と、毎週聴き終わったあとに、素人ながらしみじみ感動したりしています。

幼稚園からの幼なじみである2人の、息が合ったトーク。どんなボールを投げてもちゃんと投げ返してくれるだろうと、お互いの実力を誰よりも信頼している感じ。

2人しか知らない跳ね方をするボールを、2人しか知らない球種で投げ合っている。私はそれをラジオの向こうで眺めて、たくさんのボールが、見たことのない跳ね方をするのを見て楽しんでいる。

トークの中で出てきたボケに、強くはツッコまず、ひたすらボケ続けているようなときもあります。ツッコんじゃったら話が進まないから。そのままで話を進めないと、たどり着けない景色があるから。

ときには、1つの話の中でボールをいくつも同時に投げているようなときもあります(いわゆる「ボケが渋滞している」みたいな状態)。

それを、良いところまで泳がせたあと、ボケが何個あろうとキレイに全部拾って投げ返す。ハライチのノリボケ漫才のスタイルが、ラジオにも生きているんだなと思います。

そしてそんな番組の雰囲気と、スーパーボールがぽんぽん飛び回っているような「夜のライン」の組み合わせが天才的で「よく思い付いたな!」と思っています。初回放送でこの曲を初めて耳にしたとき「2人の雰囲気をまさにぴったり言い当てている最高の曲だ!」と感動したのを覚えています。

この「夜のライン」を番組のテーマ曲に選んだのは、プロデューサーの宮嵜守史さん。TBSラジオ「JUNK」の統括プロデューサーでもあり、人気番組を数多く担当しています。

宮嵜さんは自身の著書『ラジオじゃないと届かない』に収録されているハライチとの対談の中で、『ハライチのターン!』を「とにかく全部深夜ラジオのカウンターにしたかった」と話しています。

この本にも書かれているように、ラジオに正解はないし、常連リスナーとの関係性を築くことで、多くのリスナーに強く愛されている番組もやっぱり面白い。それに、そういうある種閉鎖的な雰囲気が、ラジオの強みでもあるのかもしれません。

そんな中で『ハライチのターン!』は、様々な”ラジオの定石”に対して「すべて反対のことをやりたい」、そんな宮嵜さんの思いを詰め込んだ番組だといいます。構成やコーナーのあり方、リスナーとの関係性の築き方など、定石とは違うやり方を意識的に取り入れているとのこと。

そして「反対のこと」の1つが、番組のテーマ曲「夜のライン」。芸人の深夜ラジオのテーマ曲として日本語の曲が使われるのは珍しく、インストや洋楽の、勢いのある曲が用いられることが多いそう。

でもそんなイレギュラーさを軽く吹っ飛ばすくらい「夜のライン」は『ハライチのターン!』にぴったりだと思うのです。

「夜のライン」は、ヒップホップやハウスをフィールドとしながら、ポップスバンドとして活動している(((さらうんど)))による楽曲。イルリメこと鴨田潤さんがボーカルを務めています。

ちなみに、他の(((さらうんど)))の曲が『ハライチのターン!』番組内のジングルとして使われていたりします。(「Hibiscus」、「乙zz姫(Sleeping Beauty Part3)」、「Signal Signal」、「Swan Song's Story」)

1つ1つの文字をはっきり置いていくような、ラッパーでもある鴨田さんの特徴的な歌い方とメロディーが、お互いの歩みを気にしながら、階段を駆け上がっていくよう。

何か起きそうで、何が起きるかは分からない。何か起きたところで日常が劇的に変化することはなさそうな、それでも確実に何か変わりそうな。そんな予感を持たせる歌詞。

明るくもないけど暗くもない、落ち着いた印象のサウンドでありながら、何層にも折り重なった軽快なリズムに、自然と体が動いてしまう。

ハライチのトークの雰囲気をそのまま曲にしているような感じがして、めちゃくちゃ天才的な組み合わせだと思うのです。

それだけでなく、週一回の番組を楽しみにしている気持ち。落ち込んだとき気晴らしにラジオを付けた気持ち。ラジオを聞きに来たいろいろな気持ちに寄り添ってくれ、リスナーを温かく迎えてくれるような曲でもあります。


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