花の名前を知らないあなた

胸が痛くなる夕焼けの色の食べ物を
ブラッディ・オレンジと名付けたのは誰だろう
血液を絞って描いたような帰り途
答えの出ない疑問は足音の速度で循環する

見上げるとそこに星はなく
見下ろせば足元の無数の花を
踏みつけてぼくら歩いている

星が見えないのは月が明るすぎるから
花が枯れないのは土が強すぎるから
昨日降った雨は空を枯らして
明日の分の雨はもう
排水溝から流れ出して消えてしまう

星の名前を知らないきみと
花の名前を知らないわたし
一緒に歩いていると言葉が途切れないんだ
知っていることを喋り続けるだけで

道の先に放り投げたボールを
自分で拾ってときどき振り返るだけで
そこにあなたがいるだけで

腕が痛くなるまで手を振り続けた
バスが夜闇に溶けて
見えなくても咲き誇るのが彼岸花
星はなくてケータイの光る画面を頼りに
ここから先はそれぞれひとりきりの胸の音

骨が痛くなるほど寒さが染みる夜の道
目障りなくらい星がきれいだね
名前を知らない星々を
どこかで見上げているきみめがけて
届かないかもしれないボールを
小さく投げるふりをする

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