未確認飛行

極太の油性ペンで真っ黒に
塗りつぶされた夜が明けていく
隙間が見えないほど濃密な
グラデーションが分解する

ぐしゃぐしゃと
ボールペンで書きなぐった
1mmと0.7mmと0.5mmと0.38mmの
線がほどけてそれぞれの居場所へ帰っていく

ぱつんぱつんのペンケース
靴箱の上のガラス瓶
鳥が鳴く部屋の引き出し
インクが染みた胸ポケット

そうしてすっかり白い空に
まっすぐ伸びた見えるか見えないか
一番細い線が1本だけ
取り残されたことも知らず
心地よさそうに漂っている

路地に面した36個の四角い窓
完成してから2年半
「臨時休業」と貼りだされたままだった
黒いビルに明かりが灯った

その中の右上の端っこで
一番小さくてほんの少しだけ青い
階段室の踊り場の窓
切り取られた小さな白い空に
浮かんでいる1本のか細い線

あわただしく上り下りする
午前と午後の境目に
リノリウムの段々に座り込んで

飛び交っていた何本もの線が
消費され擦り減った筋書き
いつのまにか残った最後の1本が
やっぱり、何にも知らない風に揺れている

ぽっかりと白い小さな窓を
胸ポケットから見上げた
昼休みの未確認飛行

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