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就職活動:JICAと開発コンサルタント

国際協力業界に興味のある就活生に向けて

最近就職活動をしている学生からタイトルのとおり、国際協力業界への就職を考えているが、JICAと開発コンサルタントはどう違うか、自分にはどちらが合っていそうか、という質問が増えてきました。 実際には国際協力の分野といっても様々で、国際機関やNGOなど関わり方は多岐に渡るのですが、私が就職相談を受ける学生はJICAと開発コンサルタントの2つで悩んでいる方が多かったので、この2つについて違いや特徴などを書いてみたいと思います。 もう一つ前提条件として、学生が理系院卒ということも書いておきたいと思います。というのは、私のバックグラウンドがそれであること、及びそれ以外の場合に開発コンサルタントという選択肢がJICAとは同列に出てくるわけではないことが主な理由です。

仕事内容:開発コンサルタント

開発コンサルタントは主にJICAを始めとした政府機関を顧客としたコンサルタント業務を行います。理系院卒の場合、修士で専攻や研究内容が固まっているので、多くの場合、それを考慮した部署への配属となります。例えば、上下水道を専攻していた場合は、水資源分野、上下水道計画・設計、もう少し広く捉えて衛生分野全般(廃棄物、環境管理等)や流域防災といった部署に配属になることが考えられます。
部署に配属になると、最初はチームリーダーと先輩、そして自分という形で仕事をすることが多いです。その組み合わせは案件ごとに変わり、かつ案件は複数担当しますので、リーダーA・先輩Bとやる案件、リーダーC・先輩Dと仕事をするということになります(A・Dの組み合わせなどもある)。そのため、いろんな先輩の仕事の仕方を見ながら自分なりに技術力を高めていくことになります。
開発コンサルタントでは、主として土木分野での仕事が多くなるので、目下の目標は技術士の取得となります。院卒の場合、4年間上司の下で鍛錬をすれば、当該分野での受験資格が得られるので、そこを目指して技術力を研鑽していきます。技術士は早いうちにさっさととってしまうのが精神衛生上良いのですが、合格率1割未満の難関ではあるため、それなりに取得までに時間がかかるかもしれません。資格取得のための勉強のコツもあるので、そのうちまとめてみたいと思います。
実際の仕事では大きく2つの関わり方があります。一つは自分の技術力を相手国の政府担当者(カウンターパート)に伝える仕事。もう一つは自分の技術力で課題を解決する仕事。
一つ目は「技術協力プロジェクト」と呼んでおり、相手国政府のなかに開発コンサルタントのオフィスを配置します。そしてコンサルタントは期間中、そこに出勤し、カウンターパートと共に調査に行ったり、会議をしたり、二人三脚でプロジェクトを進めていきます。そのため、「技術協力プロジェクト」ではカウンターパートの能力の向上を評価することで、その結果がプロジェクトの評価となります。
後者は「無償/有償資金協力プロジェクト」と呼ばれるもので、相手国政府からこれ(学校、処分場、道路等)が欲しい、と言われ、それを実際に計画、設計する仕事です。この業務を通じてカウンターパートに技術移転が進む場合もありますが、コンサルタントの成果は設計図書や報告書といったものになります。

仕事内容:JICA

JICAは開発コンサルタントに対し、業務を発注することで相手国との協力を進めていきます。コンサルタントがいわば協力の実施を担うのに対し、JICAは協力の計画を担うことになります。相手国の課題を解決するためにはどのようなプロジェクトが必要になるのか、それはどのようなスキームが適切なのか、といった問題解決の枠組みを相手国と決めていくことになります。そして、決めたスキームに従って、仕様書を作成、コンサルタントに業務を発注します。
発注後は、コンサルタントの選定にあたり、その技術提案を評価した上で選定することになります。しかし、JICAに入構した直後に、コンサルタントの提出する技術提案書の良し悪しを評価することは困難でしょう。そのため、実際には、これらの仕様書の作成や提案書の評価にあたっては、社内に配置されている国際協力専門員のアドバイスを頼りにしていくことになります。国際協力専門員とはコンサルタントや省庁等を退職したシニアの技術アドバイザーのことで、彼らのアドバイスを基に、同分野の類似する仕様書を参考に担当案件の仕様書を作成します。
そのほか、実施中の案件については、予算が適切に使用されているか、各プロジェクトにおいて育成されたカウンターパートはどの程度いるか、JICAが行う研修への国別の参加登録、出張時の手続き、完了業務の報告書の図書館への納品といった管理・報告・事務業務を行います。

ではどっちを選ぶ?

どうでしょうか?ご自身の進みたい方向性として、どちらに適性がありそうでしょうか。以下では、個人的な見解も交えながら新卒での就職のみならず、もう少し長期的なキャリア構築といった観点からも深掘りしてみることを試みます。

開発コンサルタント

開発コンサルタントに、新卒で入社する場合、事前に自分の中で天秤にかけておくべきことがあると思います。それは、専門性が主か、海外で働くことに重きを置くか、という点です。なぜこれが重要な観点になるかというと、会社によって、開発コンサルタントへのルート設定が異なるからです。つまり、もし基本的には専門性を磨いた技術者になりたくて、いつか海外で働くことができたらいいな、という考え方であれば、入るべきは海外事業部を有する総合建設コンサルタントになるとおもいます。そうすれば多くの場合、国内事業部で一定の技術力を身につけた後、海外事業部門へ異動し、晴れて開発コンサルタントになることができるでしょう。一方で、どうしても海外に行きたい、ということであれば、開発コンサルタント事業のみを収入基盤としている会社を選ぶことになります。
この両者にはメリットもデメリットもあります。例えば、前者の総合建設コンサルタントの場合、国交省等を顧客とした案件の経験を通じてしっかりと技術力の研鑽を積むことができますが、人事異動は自身のコントロールの効かないところなので、いつ開発コンサルタント業務に携わることができるか確約することができません。人によっては思った通りのキャリアにならない可能性も孕んでいます。他方、開発コンサルタント事業のみを行う会社の場合、必ず海外業務に携わることが可能ですが、ほとんどが中小企業となるので、新卒採用を行っている会社が多くない点、入社のハードルが上がります。また、新人教育のための資金体力も潤沢ではないし、上司、先輩のバリエーションは多くない、JICA業務しか行っていない場合には国内の最新技術の活用に関する知識の更新がされていない等、中小企業ならではのデメリットに直面する可能性もあります。
開発コンサルタント企業を選ぶ際には上記の点も考慮に入れつつ自身の優先順位を検討することが大事になると思います。

JICA

JICAはコンサルタントに比べて上流の案件形成に携わることができることが特徴と言えます。そのため、コンサルかJICAかと考えた場合には、自分は現場に近いところで仕事をしたいのか、案件を作るところで仕事をしたいのか、を考えることが重要になります。また、JICAではそういった上流の仕事に若いうちから関わることができることは魅力の一つと言えると思います。ただし、中には専門知識がない状態で案件の良し悪しを判断するというのはプレッシャーと感じる人もいるかもしれませんので、この点、自身の志向性を踏まえて検討する必要があると思います。
また、JICAはコンサルタントと違い、先輩から見よう見まねで学ぶということはほとんどありません。配属後担当案件が渡され、自分を管理するのは課長となります。また、基本的な作業はマニュアルに沿って行うことになるので、先輩や上司に学ぶよりもマニュアルをどれだけ探せるか、読めるかということが勝負となります。非常にむだな競争が行われているのですが、改善の兆しは一向に見えず、それが独特の企業文化であることには留意が必要でしょう。このマニュアル地獄を経た先の余剰時間に案件形成について考えたりする、というイメージを持ってもらうとわかりやすいと思います。
マニュアル文化に加えて、技術的な判断は前述の国際協力専門員に一任してしまうことも多く、自分の手を動かして技術的な検討作業を行うことはないため、よっぽどの自律心がない限り、他に比して抜きん出た技術力を持つことは難しいと思います。これも相まって、新しいアイデアを自分から生み出すことが困難になっている側面もあると思われます。
ただし、福利厚生はしっかりしているので、産休、育休は必ずとれますし長期的な安定性を考えると魅力的な就職先と言えそうです。
もう一点付け加えると、JICAは新卒に加えて、中途採用も毎年30名ほど行っています。この点も考慮して、長期的なキャリアを考えてみるのも有用かもしれません。

まとめ

いかがでしたでしょうか。一点追加するとすれば、中途採用も踏まえてキャリアを考えた際、コンサル→JICAはあり得ますが、JICA→コンサルはほとんどない、という点は新卒採用で入社する時に留意しておいても良い点かと思います。それは前述したように、技術力の有無が大きな要因です。コンサルタントでは技術力がつき、それをJICA職員としての業務に活かすことができますが、JICAではコンサルタントで必要とされる技術力を涵養することはできません。もちろんコンサルタント会社がJICA職員を技術力以外の点で評価し採用するのであれば話は別です。
以上、実際の仕事をイメージしてもらい、自分に合っているところを見つけることができる一助になれば幸いです。


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