私の文体練習(9)
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no. 1 ひな形「蛾」
譜面立てに、美しい蛾が一匹、翅を広げてとまっていた。「私を弾いてごらん」そう言われた気がして、僕はピアノの前に座り指を構えた。一方、お母さんは殺虫剤を構えていた。
no. 81 濁音の多用
五月の午後、段ボール箱から取り出した音楽道具に、美貌の蛾が行儀良く一匹、屏風のごとき翅を広げてとまっていた。「ぐずぐずしないで、私をどんどん弾いてごらん」冗談めいて饒舌にそう言われた気がして、自分は頑張んべ、とだんだん気分上々で、バンジョーでもボンゴでもない鍵盤楽器の前に座し十の指を構え、万全の状態になった。十五秒後、どんでん返し。御母堂が「言語道断」とばかりに、殺虫剤を構えて断罪。
no. 82 半濁音の多用
ポンペイから遠く離れたニッポンで、譜面立てに、ポップな蛾が一匹、パねぇ翅を広げてとまっていた。「私をプレイしてごらん」いっぺんそう言われた気がして、一般ピープルの僕は、あっぷあっぷしながら、逸品のピアノの前に座り指を構えた。ピンポン!正解だった。一方、パパのプロポーズ相手は、ピリピリして殺虫剤を構えていて、後はぺんぺん草も生えない。
no. 83 数式
1×1+1=2
no. 84 ギョーカイ人
メンフーテーターに、オツなチャンガーがピンで、ネーハーロゲヒーで板付きだった。「シーワタテーヒー」そうベシャられた気がして、僕はアノピーの前にリワスーでビーユーをスタンバった。ポーイツ、ママさんはイーザーチューサツスタンバってた。
no. 85 漢字之加使和奈以
譜面立天仁、美之以蛾我一匹、翅遠広下天止末州天以太。「私遠弾以天御良无」曾宇言和礼太気我之天、僕波洋琴乃前仁座利指遠構衣太。一方、御母左无波殺虫剤遠構衣天以太。
no. 86 アナグラム
糞に溜めて、餓鬼がピクシィ一通、禿げと寝てヒロを待ってたい。「以後皮脂を縦割らん」令和歌が手組織、久保のピノはVistaを湯割り釜耐え間に合え。鵜っぽいあかん長はTHE・甲冑様を耐えていい。
no. 87 校歌
ああ 盤石なる譜面台
麗しき翅の蛾がとまり
私を弾いてと告げし朝
誉れは高くいざ弾かん
遙かなる理想を目指して
指を構えしピアノの前
ああ そこへ母なる人が
現れふりまく殺虫剤
ああ 殺虫剤 殺虫剤
殺虫剤よ
no. 88 図鑑
譜面立てに一匹でとまる美しい蛾。「私を弾いてごらん」と言うことがある。その時は、ピアノの前に座り指を構えてみよう。ご両親の殺虫剤には注意だ。
no. 89 ソネット
ある夜の譜面立て
蛾一匹 翅広げ
とまってる 派手色ね
楽譜には付箋だらけ
窓の外 うねる風
蛾が放つ叫び声
「我を弾け」「影に問え」
言葉って不便だね
ピアノの前 座る僕
指構え 深呼吸
胸の中 昴燃ゆ
振り返ると母がいて
部屋の中 しんとする
殺虫剤 ばら撒いて
no. 90 自由詩
蛾
一匹
譜面台
僕に言う
私を弾いて
僕は座る
ピアノ
の前
が
母
母……
◆
(殺虫剤は虫を殺す道具です。)
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