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熱海女子旅2日目~MOA美術館~。

9月の末に行ってきた熱海女子旅について綴った文章。エッセイというより、どちらかというと印象深かったことを徒然なるままに筆をとった、日記より。

ちなみに1日目はこちら↓

「朝は早起きして、朝ごはん前に温泉に入ろう。」
「朝風呂って最高だよね~。」
「そして早めにチェックアウトしよっか~!」
なんて言い合っていた、予定は雲散霧消。

前の晩、喋り散らかし各々が布団にくるまったのは、結局2時過ぎだった。

朝食前に、朝風呂に入れるような時間に設定したアラームは空しく鳴り響く…。

「今、何時…?」
「7時…すぎ。」
「寝よか……。」
「寝よう。」
掠れた声でそう確認し合い、それぞれがまたまどろみの中に落ちた。

さて、この日の予定は、MOA美術館と、お昼は美術館の敷地内にある鎧塚俊彦プロデュースのスイーツ店、そして秘宝館、レンタカーを返却し熱海駅前を散策して早めの晩御飯、といった予定だった。 

タイムスケジュール的に結構タイトなので、MOA美術館、秘宝館それぞれの滞在時間は、1.5時間ずつと目論んでいた。

しかし結論から言うと、早めのチェックアウトが叶わなかったことと、MOA美術館がめちゃくちゃ良かったことの二点で、昨晩あれだけわきゃわきゃと騒いだ、エロスと幻想のパビリオン、「秘宝館」には行けていない。


ちなみに、MOA美術館は、とあるアンケートで「映える美術館ランキング 1位」という称号を獲得しているらしいという情報を手に入れた。

なんでもかんでも「映え」というワードを使ったら、消費者が喜ぶと思うなよ、なんて斜に構えつつも、SNSの普及に伴い「映えとは」真っ盛りの時代にもろに足をつっこんでいるわたしたち。
そう言われたら、どんなものなのか気になってしまうのも、また悲しき習性なのだ。

映えの言葉が用いられている要因として、きっと天井に映し出される、巨大万華鏡を指していると思われる。

青森県立美術館ならあの巨大な犬、金沢21世紀美術館ならプール底、といったようないわゆるあの美術館とえばあれ、みたいなランドマーク的な立ち位置なんだろう。

エムオーエー?モア?
なんて呼ぶのが正解なのか…。


入り口をくぐり、長いエレベーターをずんずん登ってゆく。

ちょっと特別感のある空間にどきどき。

そして、すぐに万華鏡のある円形ホールがわたしたちを出迎えた。
天井に投影されるのは、日本を代表する万華鏡作家の依田満・百合子夫妻による世界最大級の万華鏡。

たくさんの色が、形が、混ざり合う瞬間が刻々と姿を変え、幻想的に移ろってゆく。

ゆらぐ青と緑。散らばる薄橙。
広がるレモン色。

あ、宇宙、花盛りの春、秋の終わり、夏の山、海……。
色彩や模様とは不思議なもので、はっきりしたものが映し出されていないにも関わらず、その彩りや、その具合により、様々なものを思い起こさせる。

これは、庭先の可憐な花のイメージ。
これは、晩秋っぽいイメージ。


それぞれの瞬間から、希望とか、喜びとか、哀愁とかもっと抽象度の高いものも連想することも出来そうだ。

人によって思い起こすものは、微妙に異なるのだろうし、あるいは逆に、あたかも共通言語のように目にしたもの同士、その感覚が共有できるものもあるかもしれない。

幅の広いソファーに背をつけて、見上げてみると、視界一面に不思議な光と模様が広がってゆく。
他のお客さんたちもそうやって半ば寝転ぶような形で、見上げている人も多い。
幅の広いソファは、ただ座るだけではなく、そうやって寝ながら見上げられるように意図されているのだと感心した。

そのホールで流れている心地良いピアノの音楽に耳を傾け、ぼーっと移りゆく色を眺めていると、なんだかふっと身体の力が抜けていく心地がした。
後から知ったのだが、なんでも、この流れている曲もこの万華鏡のためにピアニストが作曲したものらしい。

心地よい浮遊感に身を委ねながら、ここでひと眠りしたら気持ちいいだろうなあ、なんてぼんやり考える。
美術とは、目と心を存分に研ぎ澄ませて向き合うものだという先入観があったが、こうやって心を空っぽにして楽しむことも出来る、ヒーリング効果があるものもあるんだなあ。

確かにこれは、ぱしゃりとどの瞬間を切り取っても美しく「映える」のかもしれない。
しかし、気になった人は写真を見て「ああ、こんな感じね。」と判断するのではなく、ぜひ実際に目の前で移りゆく色を見て何を思うのか、感じて欲しい。

わたしはきらきら光る川の流れのような、この瞬間の色合いがすき。


写真という切り取られた瞬間ではなく、変わってゆく過程にこそ面白みがある作品だと思う。

開放的な海を望むロビーがあったり、桃山時代の文献資料に基づき再現された豊臣秀吉ゆかりの茶室があったり、国宝である仁清作の「色絵藤花文茶壷」が展示されていたりと、美しいものがたくさんあり、それぞれのエリアを楽しめた。

入口とは違うドアをくぐれば、日本庭園が見えた。
引き寄せられるように唐門をくぐる。

とても気持ちの良い、日本庭園。
9月の終わりだったので、夏の盛りのまばゆいばかりの緑はいくらか落ち着いた色合いになっているように見える。
もみじの木もたくさん植えられており、数か月経てばそれはそれは美しい紅葉へと姿を変えるのだろう。

光による濃淡が綺麗。

茶室が見えてきたので、そこで一休憩することに。

すっきりと爽やかな青空。
入道雲がもくもくと立ち上る夏の空が「高揚感」を体現したものだとすれば、薄い雲がたなびく秋のそれは、「穏やかさ」だと言える気がする。

景色を楽しめる外のお座席で、お抹茶と水ようかんをいただく。
優しい甘みとほろ苦さをゆっくり楽しみつつも、楽しい時間に終わりが近づいていることが頭の片隅によぎる。

何だって、始まれば終わりを迎える。
しかし、この女子旅がもうすぐ終わるさみしさよりも、一緒に来られて良かったな、という思いの方が勝っている。

白砂と空の色のコントラストが良き…


涼やかな風が首元を通り抜ける。
少し向こうで、木々がさわさわと風を受けて揺れているのが見える。
どうして、と理由を問われれば答えられないのだけど、木々が風に揺れている様を見るのが好きだと思った。

この二日間、お互いの仕事のことや、やりたいことについてたくさん話した。


ーわたし、どう生きたいんだろうか

揺れる木々と青空を眺めながら、一人ふと考える。
ここ最近のわたしは、仕事に関しての理不尽とか納得のいかないこととか、このままでいいのかと疑問に感じることが多かった。

定年まで公立の小学校の先生を全うすること。仕事としてそれ以外の道なんて考えたこともなかったし、わたしが歩んでゆく道は、それしか無いとさえ思っていた。

「こんなこと、やってみたいんだよね。」
「こんな仕事がしたい。」

けれど、いろんな可能性にチャレンジしようとする2人の話を聞いていると、無意識に無理だと諦めて葬りさろうとしていた、わたしが望んでいたこともあきらめなくていいんだ、って思えた。

わたしが思いの欠片を口にすれば、
「いいやん!」と真っすぐな笑顔と言葉で応援してくれる二人。

わたしも自分が好きなことや、得意なことが誰かの力になれたら。

そうかわたし、自分の中にある愛を言葉に変えて、誰かの背中を押したり、寄り添ったり出来る人間でありたいんだ。

今の仕事にも、書くことにも根底にこの想いがある。

そう腑に落ちた瞬間、二人が近くにいるのにも関わらず、なんだかちょっと目頭が熱くなった。

自分の中から生まれて、すとんと心に落ちた言葉は、誰かに共鳴した言葉よりもさらに強烈な光を放つことをわたしは知っている。

可能性をたくさん秘めた子どもたちと過ごす毎日は、とても楽しい。
しかし制度や働き方で、自分の可能性を諦めていることもあるのも事実だ。

小学校の先生として、まだまだやりたいこともあるし、すぐに辞めたいという気持ちがあるわけじゃない。

けれど、小学校の先生、という枠にとらわれずに自分のやりたいことや夢をきちんと抱いて生きていきたい。

このとき、そう強く思ったことと目の前の景色。わたしはしばらく忘れないだろう。


抹茶とお菓子で休憩した地点で予定時刻よりかなり経っていたので、秘宝館へ行くことは時間的に厳しそう、だと判断。

そこから少し歩くと、尾形光琳が晩年を過ごした屋敷が復元された屋敷があった。
一緒に行った友人の一人、Yちゃんはカメラ女子でもあるので、このあたりや軒先でお互い写真を撮り合う。

わたしはスマホというお手軽なカメラだけど、何を魅せたいのかを考えながら撮ったり、友だちの1番素敵な表情を切り取るように撮るのは、すごく楽しかった。

尾形光琳邸(復元)


その後は、日本画のエリア、そして特設展示である国宝展を回った。
日本画のエリアで誰が言い出したのか、目の前の女性画のどこにエロさを感じるか、という話になった。
「流し目がエロい。」
「耳元が、赤いのがエロい。」
「数本かかる、髪がエロい。」
「この子、タイプやわ。」
「いや、わたしはこっち派。」
秘宝館に行けないと分かったら、もうどこでも秘宝館にするわたしたち。
周りに迷惑にならない程度の声量でささやき合う。

…こんなシュールな絵の楽しみ方、初めてである。

色白の女の人のほんのり染まる頬と耳…
ぐっときません…?


熱海駅にレンタカーを返し、その周辺をぶらり。
熱海は、干物が有名らしいのでお家へのお土産に美味しそうなものを見繕う。

早めの晩御飯には、お寿司。
普段、あまり食べる機会のない金目鯛が特に
美味しかった…。


童心に返ってはしゃぎ、美味しいものと美しい景色にお腹と心を満たし、お互いにそれぞれが培ってきた価値観に触れ、自分という人間について考えた二日間。


30を超えた「女子旅」は、ただただ楽しいだけじゃない、なんとも贅沢で愉しい二日間だった。


そしていつか、残念ながら今回行けなかった「秘宝館」にもまた一緒にリベンジしたい…!!笑



【おまけ】

楽しみすぎて事前に作った 
「熱海女子旅のしおり」の中身。
予定とは違ったけど、それもまた良し。


#旅エッセイ #女子旅






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