タイムマシンを作りたかった

中学校くらいかな。
中二病だった私はシュタゲを見て、牧瀬紅莉栖に憧れタイムマシンを作りたいと思うようになった。

以前からドラえもんやバックトゥザフューチャーが好きで、時間旅行に対して漠然とした憧れは抱いていたが、明確に決意したのはシュタゲからだ。

当時、不登校だった私には時間が余るようにあった。シュタゲを見てなにか行動を起こしたくて、図書館へ行き身の丈に合わない専門書を積み上げていた。中二病だったから難しい本を読む自分に陶酔していたのもある。
思えば、自分から勉強をしたのはこの時が最初だろう。

しかし、専門書は何度読んでも頭に入らない。シュタゲのような、バックトゥザフューチャーのような、ワクワクする物語は他にないだろうか。
私は、HGウェルズの「タイム・マシン」を手に取った。もう話の内容すら覚えていないが、読了した感傷が深く記憶にあるのだからそれなりに面白かったはずだ。
そこから本を能動的に読むようになった。
学校へ行かない代わりに、図書館へ通いはじめた。

そのような日々を過ごしているとタイムマシンがなんとなくどのようなものか掴めるようになった。
光速で移動すると相対性理論により時間の流れは速くなるが、時間の流れに負の記号は付かない。エントロピーの法則やエネルギー保存則など、基礎的な物理学を知ってしまったから過去旅行が不可能であると絶望するのにはそう時間がかからなかった。
素粒子理論や宇宙ひもなどはモデルとしてあるが、机上の空論感が否めない。

ならば、過去に行ったと錯覚させればいいのでは?
私はそう考え、脳の記憶について学んだ。
これは自分でたどり着いた結論だが、結果的に牧瀬紅莉栖の後追いになってしまった。神経学に傾倒するようになったからだ。

当時、高校生だった。周囲が受験勉強に励んでいる合間でも私はこのような不純な動機から勉強をしていたのだから、成績表のグラフは歪だった。

大学に入学し、自分の好きな勉強ができる大義名分を手に入れた私はより没頭した。
中学高校と不登校だったのだから、もちろん大学にも行かず、成績の割に進級が危うかったこともあるがなんとか卒業できた。

大学院は比較的息がしやすく、ようやく社会復帰ができた。

講義は出席しなかったくせに、神経学の研究は楽しかった。
ようやくタイムマシン(記憶の書き換え)の開発に着手できるのだ。中二病が抜けていなくて良かった。

私の研究内容だが、脳の電気刺激に対することをしていた。
脳は電気信号によって情報を伝達し、意識や記憶となる。この電気はチャネルというタンパク質がオンオフを切り替えることで発生する。
そして、このチャネルは様々な要因でスイッチが切り替わる。
例えば、フグ毒で有名なテトラヒドロトキシンはナトリウムイオンチャネルに働きかけ、強制的にチャネルをオフにすることで麻痺症状を発生させる。

これを応用し、自由自在にチャネルのオンオフを切り替えれば、脳の電気信号に過ぎない記憶も制御出来るのでは?と考えた。
テトラヒドロトキシンは有機化合物だが、このようにチャネルを強制的に阻害する(活性化させる)タンパク質はいくつか判明している。
このタンパク質をいじってチャネルのオンオフを切り替え、最終的に脳の電気信号を制御できるかもしれない。

というのがこれまでの研究内容。
表向きは医学部のテーマのように聞こえるから、学会や就活でのウケはよかった。医学部落ちの私には丁度いい惨めさだ。

結論だが、成功した。細胞同士のコミュニケーションの変化をとある条件で捉えた。
そういえば、牧瀬紅莉栖も海馬に電極をブッ刺す発言をしたり脳の近くで強烈な電磁パルスを浴びることで過去へ行っていたな。
大切なことは全部シュタゲが教えてくれた。

現実世界だと倫理的な問題があるから、人体実験ができる可能性は限りなく低いだろう。
だけど、それでいい。と思う。少なくとも私は楽しかったのだから。
本気でタイムマシンを作れると思う人なんてごく一部だろうし、仮に出来るとしてもその時は私は生きていないだろう。だから、引きこもりの私がここまで結果を残せた事実が大切なのだ。

最後に、タイムマシンの魅力について語ろうと思う。
タイムマシンを扱うSF小説の魅力は「ご都合主義でないご都合」と表したい。
時間旅行系では必ずといっていいくらいタイムパラドックスが話題になる。時間軸での矛盾を許さないというのは、SFのくせにご都合展開でないように思えるし、パラドックスに逆らう展開は筆者の技量が試される話の見どころだろう。

パラレルワールド的な楽しみもある。
もう一人の自分・都合のいい世界・あの人が生きていた など、王道のパラレルワールド展開は時間旅行系に多い。

タイムマシンの魅力は語りつくせない。私の人生に物語を与えてくれ、変えたのだから。
タイムマシンに興味のない私の人生はどんなのだろう。確認するためにタイムマシンが欲しいな。


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