初めて通報した

下品です。注意


夜勤明け早朝。
私は黒崎(仮名)の車に乗せてもらい帰宅していた。私の家の周辺に着くと、下半身を露出した高齢の爺さんが道を歩いていた。
普通、そういうヤバめな人を見るとなるべく近づかないようにしてスルーすると思うのだが、夜勤明けでテンションがおかしかった私はそれを見て声をあげて笑った。ひとしきり笑ったあと踵を返して、何も見なかったように家へ向かうつもりだった。

しかし、黒崎は食い気味に
「通報しよ!」(軽そうな口調)
と言ってきた。

「いやっ、通報は…」と言い淀むつもりだったが、いつのまにか黒崎は携帯に向かって話していた。

「事件です。下半身を露出している男がいます。場所は〇〇区の〇〇。国道〇〇線の通りにはローソンがあり、向かいには〇〇カレーという名前の飲食屋があります。男は飲食店側の歩道を歩いています。あ、今横断歩道を渡りました。男の風貌は、赤いチェックのジャケットをしており、下半身は露出。あと、黒のサンダルをしています。メガネはしておらず、60歳以上の白髪で腰は曲がっています。」

通報、上手すぎね?
呆気に取られていると次に黒崎は携帯のカメラをその男に向けて、シャッターを押した。
証拠を残す意味で撮ったのだと少し考えれば分かったはずだが、テンパっていた私はその時、黒崎が変態に見えた。なんでこんなに対応上手いねん。というかコンビニ感覚で「通報しよ」って言ったの忘れてないからな。

警察は直ぐにきた。猥褻物陳列罪は重い罪らしく、パトカーが少なくとも三台は来た。男はいつのまにか履いており現行犯にはならなかったので、職質という形になったがしばらくして連行されていた。
職質をしたパトカーとは別のパトカーから警官が私の元へ来て、誰もが一度は言われたい言葉を言われた。

「暑まで同行願えますか?」

これを言われた私はテンションがおかしくなり、私も黒崎も食い気味に「ハイ!!!」と返事した。

署に向かう。黒崎は興奮してパトカーの写真を露出男と同じカメラロールに保存していた。実は黒崎は警察になりたかったらしく、無線を扱う練習もしていたそうだ。
今までの行為に合点がいった。



こっからもっと下品になります。私は思い返すのキツい。


署に着くとガチの取調室に通された。部屋の中心には貧相なテーブルと椅子があり、警官と我々が対面で座るあの部屋だ。ここに入る日は来るとは思わなかった。

取調室は空気が重く、圧迫感がある。通報した側なのに言っちゃいけないことを言いそうになるような。だけど、その中で行われたのは想像通り聴かれたことを答えるだけだ。
残念ながら現行犯ではなくなってしまったから、冤罪の可能性があるのかどうか知らないが、細かいことまで聞かれた。あの爺が現行犯ならここまで拘束されなかったと思う。

「チ〇ポの形状はどんな感じでしたか?」「勃起してましたか?」(原文ママ)

・・・これ、セクハラで警察訴えてもいいか?
性別が違ったらどうするつもりだったんだよ。まず警官がチ〇ポって言うな。
ここで気を利かせて(?)黒崎が現場写真を出した。警察が黒崎の液晶をピンチアウトし、股間部分を画面一杯に表示する。老人の股間の画像をテーブルの中央に据えて、それを取り囲むように成人男性数人の会話は続いた。地獄だった。

私は他の人よりも純朴だと思っているし、下品なものを人よりも毛嫌いしてきた。今でもそうで、正直思い出してもキツい。男が集まっての下ネタ談義は真っ先にリタイアさせてもらっていた。
なのにこの状況。黒崎はノリノリだった。

私も覚悟を決めた。
壊れることにした。

あとはどうにもなれ。


しばらくすると黒崎が部屋から退出した。その理由は分からない。
個別に取り調べを受けているのかな?と思ったが、ただ外の部屋で待っていただけらしい。第一発見者である私への取り調べはまだまだ続いた。壊れたテンションを維持するのは大変だった。

バイブスをあげまくっていたら、どうやら疲れて眠っていたらしい。
起きると知らない部屋、しかも取調室で目の前には警察がいたからマジでビビった。

私が寝ている間に調書は完成したらしい。今から調書を読み上げるから聞いてくれとのことだった。A4用紙に4ページ。かなりボリュームがあるように思え、これを3時間弱で仕上げたのは記事を書く者として見習いたくなった。
調書は一人称が「私」のため、事実の羅列ではなくて私の体験談のように綴られている。

「チ〇ポを露出した…」

おい待て
チ〇ポって言ったか?

しかも必要以上にチ〇ポって言っている気がする。20回は言ったぞ。本当にその名称で調書に書いているんだろうな?
しかも私はチ〇ポなんて一言も言っていない。警官しか言わなかったんだけど。まだ夢が続いているのかと思った。調書って残り続けるんだよな?私の名前だけ消してくれないかな。異議申し立てできるの?
調書を読み上げる警官は真面目な顔。笑ってはいけない調書読み上げ。

調書が3ページも後半に差し掛かったところ、このようなことを読み上げられた。
「以下、チ〇ポを陰部と呼称する」

最初からそうしろや!!!!!!


読み上げが終わると解放された。
眠い。疲れた。
嫌悪感と達成感が混ざった感覚は初めてだよ。

通報って気軽にするもんじゃないね。
我、病み上がりぞ?



追記:帰る前に本屋によると米澤穂信の新刊がありました。警官ミステリーらしいです。この警察はチ〇ポと言いませんように。

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