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2度目の化粧



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 1度目の化粧は志保の結婚式。
 ヘアメイクしてほしいけど、出席もしてほしいと頼まれた。当時、私はヘアメイクとしてまだピヨ子で、やる気はあるけど不安だらけで、現場の度に毎回心臓が飛び出そうな思いをしてた。
 結婚式は花嫁にとって一生の中でも特別最高級に輝く日でそこでメイクを任されることは特別に心臓飛び出る案件。友人課で喜び担当感動担当/ヘアメイク課でプレッシャー担当落ち着け担当、って心臓各房室を部署分けしたい。
 こんなに緊張するのに、それが外部にバレることは今日までほぼない。なんなら言っても本気にされないと知ってからは、緊張してるって自分から言う。
 私は言ってることが本気に思われないことが多い。心の声を口まで持ち上げる、あるいは頭を経由して降ろすとき、体の中の60兆個の細胞が伝言ゲームしているのを想像する、最初の子が発した言葉が最後まで正しく伝わるってとても難しい、なんたって60兆個あるし。
 でも私の知る限りそれが出来る人間、裏表ゼロ、超跳躍伝導の女、それが志保。
 志保の言葉はどっちかと言えばなかなかの毒舌、相手を選ばず容赦ない、それでいて愛に溢れてる。気付いたら膝にちょこっと座ってマイペースに好き放題やってどっか行く猫みたいな子で、猫みたいに可愛くて、猫みたいに誰からも愛される。
 結婚式では自分のヘアメイクそっちのけで私が食事できてるかをひたすら気にする。普段からとにかく美味しいご飯を大切にしていて、式場選びも食事重視、食事ちゃんと食べれてる?美味しいでしょ?とお直しもろくにさせてくれない。
綺麗と言われるよりも、美味しいと言われたほうが喜んでいた、歴代ナンバー1で変な花嫁。

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 志保は毒舌のくせにめちゃくちゃ人を褒める。だけど一度だけ、目の前でめちゃくちゃキレた。キレた相手は私ではなく、私の当時お別れした彼。志保と温泉に向かう道中の車の中で、別れの経緯を話した。
 彼は当時恋愛とは別のところでメンタルをやられており突如音信不通になり、それが数ヶ月続き最後は別れたのだけど、私は振られた悲しみより彼のメンタルを心配してた。でも志保は一切の迷いなく彼の行動にブチ切れた。
 私の元彼にブチ切れる志保。ブチ切れに圧倒されて元彼の心中を想像弁解する振られた私。私の弁解の余地をぶっ潰して元彼をぶった斬る志保。志保のキレっぷりにポカーンからの爆笑する私と、それでもキレ続ける志保。温泉着く頃には、もう元彼は完全に揺らがない元彼ポジション過去の人となった。
 志保の言葉は全ての感情を出し惜しみしない。自分にも他人にも使いきって、膿を出し切る。爽快で、かっこよくて憧れる。

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 志保に今日2度目の化粧をした。出来るか分からなかったけど、出来るならしたくてメイク道具を準備して家に向かった。コロナは「久しぶり」の感覚をバグらせてた。最後連絡を取って5年も経ってたことに驚いた。
 再会のキッカケをくれたのは志保の旦那さんのさとしくんで、家に着くと愛犬のすももと一緒に出迎えてくれた。
 志保が4年前から闘病してたこと、家族以外に殆ど伝えていなかったこと、治すから誰にも伝えてなかったこと、今日までどう過ごしてきたかを話してくれた。本当はお化粧をお願いしたかったけど、結婚式でお願いした次が今回のお願いっていうのは申し訳ない気がしたと言われた。実はメイク道具持ってきたと伝えると、きっとしーちゃんも喜ぶ、やってほしいと言ってくれて驚いた。事前に調べた情報で、もう化粧は終わっているはずのタイミングで、もう化粧をしてるかと思うくらい志保は透明感があって綺麗だった。
 化粧をしながら、さとしくんといっぱい喋った。今もまだ諦めてない気持ちがあるってさとしくんが言った。
 このまま、この状態でずっとここにいてほしいんだけど、それをすると捕まってしまうから出来ないんだよね。
 私もこのままいたらいいって思う、慰めじゃなく本気で、もうずっと志保いたらいいじゃんね。でも捕まったら意味ないね。
 あと数日で結婚式10周年だったのに、もうなんで。結婚式の前にしーちゃんのネイルもしてくれて、お迎えに行った時が初めましてだったね。
 そいえばその時、志保に私とさとしくん性格似てるって言われた。ずっと志保ここにいたらいいのにって私たち本気で言ってるけど、志保には無理!って突っ込まれそう。 
 寒いし!ってしーちゃん言いそう。

 さとしくんも私も、途中からなんか普通だった。でも普通じゃない気もする。会話もしっかり覚えてるのに夢みたいなフワフワした感覚もあって、だけどとても研ぎ澄まされてたかもしれない。
 志保が笑顔になった気がした。2回感じた。

 2人の家を後にして、学校に向かうタクシーの中で、自分が弱ったときに姿くらます感じがやっぱり志保は猫みたいって思った。自分の体がキンキンに冷えていた。学校で先生に今シーズンの冷えを先取りしてるね、と笑われた。キンキンに冷えてるって、こんなくらいで言ってるの変なのって思った。こうじゃない、キンキンに冷えるっていうのは。冷えてるって言ってるのはまた温まるってことだ。
 もっと真っ直ぐな言葉を発したい。今感じてることを忘れたくないのに、整理しようとする癖がひどい。そのせいで忘れたくないことも書くのをやめていた。思ったことをそのまま書いたらぐちゃぐちゃになった。でもいつもより癖がない気がしていい。読みづらいけど、続けよう。読みやすくする必要がないってこと、ぐちゃぐちゃでも書いたから気づけたんだ。
 10年前の私と今日の私は大切なことが変わった。化粧は変化させるアイテムから、内面を引き出す為の調味料になった。今日の志保の美しさは志保の人生が作った。10年前と今日は、変化してた。だから変わらず美しかった。




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