2-6 クレイトン・ロースン『棺のない死体』
クレイトン・ロースン『棺のない死体』No Coffin for Corpse 1942
クレイトン・ロースン Clayton Rawson(1906-71)
カー教徒のもう一人はロースン。作品の支持率からいっても、高名さからいっても、こちらが第一の弟子だ。
奇術師マーリニを探偵役とする長編は四作で打ち止めになった。「この世の外から」「天外消失」などの短編も名高い。最後の長編『棺のない死体』を一読すれば、あとがつづかなかった理由も納得できる。装飾過多を通り越して、不可能トリックの大盤ぶるまいが並みではない。奇術VS心霊学、奇術VS魔術。不可能趣味と怪奇趣味のオンパレードで、超現実の世界が目眩く展開する。タッチはユーモア。というか慎みがない分、スラプスティックだ。
密室大トリックが姿を現わすのはようやくページが半分を過ぎてからだ。前半を引っ張るのが「不死の男」。いちど死んで埋葬されたのに現実世界に舞い戻ってくる。生き返りトリックのタネ明かしはともかく、天真爛漫さはカー派の大きな長所だ。死んだ男がよみがえり、ポルターガイストが起こるところ、心霊学者に守られていたはずの百万長者が被害者(チェスタトンの皮肉の実例がつけ加えられた)となる。不死は百万長者にはもたらされなかった。
複雑に組み立てられた謎は、幾層にもわたって念入りに解かれていく。この謎解きについていけるかで、ミステリ読者は初級と中級とに分けられるかもしれない。「単純な殺人芸術」をリアルな観点から否定し去る立場もあった。それならいっそう複雑きわまりない「殺人芸術」トリックに向かうことこそ、カー派の矜持だったろう。アイデアと筆力が湧き上がってくるかぎり、理想は果てない……。
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