2-5 ホレス・マッコイ『彼らは廃馬を撃つ』
ホレス・マッコイ『彼らは廃馬を撃つ』They Shoot Horses, Don't They? 1935
ホレス・マッコイ Horace McCoy(1897-1955)
『彼らは廃馬を撃つ』は、比べてずっと感傷的なストーリーだ。
マラソン・ダンスという不況時代のハリウッドを映すコンテスト。賞金と観客のなかにいるプロデューサーにスカウトされることを目当てに、ひたすらパートナーとダンスをつづける競技だ。海岸に仮設された即製のダンス・ホール。そこで出会った男と女の苦い交感のドラマだ。
生きる希望を喪った女は、男に銃を渡し、最後の引き金を引いてくれと懇願する。男はそのとおりにしてやる。それが愛の証しなのだと自らを納得させながら。彼が引かれるのは、愛というより自己憐憫に近い感情だ。
この小説も、主人公を待ち受ける死刑の裁きによって閉じられる。教訓話の体裁はきちんとつけられているわけだが、これは作者の本意とは別のところにあるのだろう。
ケインやマッコイの影響がアルベール・カミユの『異邦人』につながったとする説は有力だ。どちらも、いかにも三十年代小説の暗鬱な閉塞性にみちているが、別の観点においても救えるというわけだ。文学史におけるささやかなエピソードに、とくに反対する理由はない。
次に、もう一点、不条理小説のリストをつけ加えておこう。
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