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お茶事情 「ミルクティー同盟」とタイのアイスティー

2021年発行、日タイ経済協力協会『日・タイパートナーシップ 170号』pp45-47に掲載されたものです。

#MilkTeaAlliance  (ミルクティ同盟)

 タイで起こっている民主化運動、新型コロナウイルスの感染拡大により、最近は大規模なモブ活動は控えられている様子ですが、インターネット上での発信は続いています。香港、台湾をはじめとした、アジア各国で民主化を求めて活動をしている仲間たちと連帯を示す投稿がみられ、そのひとつが#MilkTeaAlliance (ミルクティー同盟)というハッシュタグです。

 きっかけは2020年4月、タイの人気俳優がSNS上にシェアした投稿が、香港を「国家」に数えているとの指摘により、「香港は中国の特別行政区である」と主張する中国のネットユーザーから炎上のターゲットとされたことです。俳優はすぐに不注意を謝罪し、対象の投稿を削除しましたが、その後もその俳優の関係者のSNSにまで批判が続いたことにより、今度は俳優たちを擁護するファンや、香港そして台湾を支持するタイのネットユーザーによる書き込みが増加。その際に反権威主義の連帯を示すシンボルとして使われるようになったのが、ミルクティーです。
 香港、台湾、タイの共通点を探した際に、香港では香港式ミルクティー、台湾ではタピオカミルクティー、タイではチャーイェンという、それぞれにシンボルとなるような独自のミルクティが飲まれている!ということが着目され、この「ミルクティ同盟」というキーワードが生まれたといいます。攻撃的な言葉ではなく、可愛らしいイラスト画像のシェアや、国は違えど同じ想いを持つ若者同士のエール交換が増えてきたことに寄って共感を集め、活動は広がりました。
 お茶にミルク(牛乳や練乳、エバミルク)を入れた飲みものは、他の国でも飲まれています。はじめの三種のミルクティーに加え、ミルクティ同盟にはその後、ミャンマー式練乳紅茶のラペイエ、インドのチャイ、インドネシアのサラッバーが加盟しました。
 お茶を飲む文化といえば中国も有名です。日本でタピオカミルクティーが流行したように、中国でもアジア各国のミルクティの専門店に行列ができたりと、ミルクティブームがあるのも事実ですが、中国が発祥、名物となっているオリジナルのミルクティの印象はありません。「ミルクティ同盟」は反中国連帯の象徴としてもハマっていたわけです。
 東京オリンピックが開幕してからは、互いの代表選手たちの活躍を、#MilkTeaAllianceのハッシュタグを添えて祝福し合う投稿も増えています。

 

タイのミルクティ”チャー・イェン”


 ところで、そのタイのミルクティー、チャー・イェン。一般的な紅茶よりもさらに強く発酵された茶葉に、スパイスなどで独特の香りと色をつけているのが特徴です。フードコートや路上のスタンドなど、様々なところで売られていますが、実はその茶葉を製造しているのはもともとはある老舗メーカーだけだったといいます。つまり、ネスレのミロやコカコーラのコークのような、ブランドのオリジナルの飲み物だったのです。

 その茶葉ブランド、ChaTra Mue(Cha Thai 社)の創業者は1920年代に中国からタイに渡ってきました。ウェブサイトによると、中国でよく飲まれている熱いお茶を飲む文化がタイにはなかったことから、氷を入れて飲むタイの風土にあったお茶を考案し、ブランドとして売り出したのが1945年からとのこと。(参考:Cha Tra Mue<https://www.cha-thai.com/en/history>)以来、すっかり定着し、タイ語で「冷たいお茶」の意味である「チャー・イェン」は、そのオレンジ色の甘いアイスティーを示すようになっており、他のメーカーからもThai Tea、タイオリジナルの紅茶が製造販売されています。
 現在タイでは、ジャスミンティー、レモングラスティー、ローゼル(グラジアップ)茶、菊花茶、バタフライピーの青いお茶など、ほかにも様々なお茶、ハーブティーも飲まれていますが、「チャー」といえば、基本はこれ。練乳を入れない「チャー・ダム」、温かい「チャー・ローン」、ライムを絞る「チャー・マナオ」という飲み方もありますが、氷と練乳たっぷり入れるのがスタンダードです。
  
 もうひとつ、タイの注目されるお茶に、「噛み茶」とも呼ばれるミアンという発酵茶があります。ミアンは摘み取った茶樹の葉を重ねて蒸し器で蒸し上げた後に、塩や水と一緒に樽やカゴのなかに入れて発酵させてつくられ、製法は漬物にも似ていますが、カフェインが強く、飲み込まずに噛んで吐き出すことも多いものです。タイ北部のほかラオス、ミャンマーにも見られ、伝統的には儀礼の際の供物になったり、客人に振る舞われたり、食後や仕事の合間に嗜好品として噛まれたりしてきましたが、現在では消費される場面も少なくなりました。一方で、乳酸菌の健康効果が近年再び注目され、チェンマイにはミアンから抽出したエキスから発酵飲料をはじめ、ジャムやビールを作っている研究所を備えたお店もあったりと、あたらしい展開もなされているものです(参考:Tea Gallery<https://teagallerygroup.com/index.htmI>)。
 ミアンの原料となる茶葉はタイ北部の山地の村々で、森林を利用しながら栽培されてきました。原生の木々によって適度に陽が遮られた林内に茶園がつくられ、化学肥料や農薬を使うことなく自然環境のなかで育てられるのが、伝統的なミアンです。ミアンの需要が低下してきたことにより、林での生産物の一部をミエン用の茶樹から紅茶や緑茶用の茶樹へ置き換える村もあります。
 また、タイ北部の山岳地帯には、かつて「ゴールデン・トライアングル」と呼ばれ非合法の麻薬栽培が盛んだったエリアがあります。現在その地域で、ケシにかわる換金作物として、コーヒーと並んで生産されているのも茶葉です。山地の冷涼な気候は茶葉生産に適しており、さらに日照時間が長く、安定して発酵時間を確保できることも、良質な紅茶生産につながっているといわれています。

 こういった国産の紅茶がタイ・ティー、チャー・イェンに使われますが、タイでは緑茶や抹茶にも人気があります。やはりチャー・イェンと同様、甘く冷たくした飲み方が定着しており、緑茶といえば加糖のペットボトル飲料、matchaといえば甘味とミルクを加えた抹茶ラテです。
 抹茶ラテも、アジア発祥のミルクティーですが、今のところ#MilkTeaAlliance (ミルクティー同盟)の蚊帳の外にあるようです。

(2021年夏)
 

 
 


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