小川絵美子

東京外国語大学 アジア・アフリカ言語文化研究所 ジュニア・フェロー、 武蔵大学非常勤講…

小川絵美子

東京外国語大学 アジア・アフリカ言語文化研究所 ジュニア・フェロー、 武蔵大学非常勤講師、 東洋大学非常勤講師。      JTECS機関紙『日・タイパートナーシップ』掲載コラムを発行元の許可を得て執筆者本人が転載したもの、 オンライン授業用副教材等、掲載しております。

最近の記事

悪魔?仙人? ―新ビジネスか異端信仰か―

2023年8月、タイ、バンコクのラチャダー通りとラプラオ通りの交差点に、突如巨大な像が設置され、マスメディアやSNSで物議をかもすという出来事がありました。  この交差点にあるホテル、ザ・バザール・ホテル・バンコク(The Bazaar Hotel Bangkok)が敷地内に設置した像で、一見ヒトのような姿ですが、人間のものではない羽と牙があり、全身が真っ黒で目と手足の爪は赤く、二本の牙は金色に塗られています。この姿を、ヒマパンの森(Himavanta)に住まう聖獣のようだと

    • 座敷わらし事情 脚光を浴びる"たまご少年伝説"

      「サングラスに派手な衣装を着ているかと思えば、素っ裸だったり、一体なにもの?」  タイでは今、「アイ・カイไอ้ไข่」もしくは「ター・カイตาไข่」と呼ばれる少年像が注目されています。南部のナコーンシータンマラート県の寺院、ワット・チェディに宿る少年の姿の精霊?なのだとか。同寺院に祀られている木像は、お参りをすれば効果はてきめんで、元々は失せ物探しのご利益があるといわれていましたが、宝くじの高額当選の祈願を成就させてもらったなどの口コミが広がり、この数年で人気が高まってい

      • 自分のことを何と呼ぶか問題ータイ語の人称代名詞の多様性ー

         日本の子どもがタイの大人に対して敬語を使わない場面に違和感を感じてしまった話を書きましたが、年長者に対しては常に敬語であるということではなく、親しくなったり、関係性が出来上がっている場合は、くだけた口調を使うことももちろんあります。  その場合でも上下関係が現れるのが、人称代名詞です。 自分のことをどう表現するかと、相手のことをどう呼ぶかも、相手との関係によって変わります。  タイ語にも日本語と同じように、人称代名詞が複数あります。「わたし」「あたし」「ぼく」、「あなた」「

        • 社会によって異なる子ども観―日本の子どもとタイの子どもの敬語の話ー

           子どもが、両親以外の大人と接する機会が日本よりも多いように見えるタイ。公衆の場に子どもがいることは割と当たり前で、子どもがいるだけで迷惑になるという感覚はありません。仮に走り回ってしまったり、大きな声が出てしまったとしても、周囲は「元気がいいねぇ」と暖かい目で見守っていることがほとんどで、なにかあれば「危ないですよ、気をつけて」と子ども本人への声かけがある。「うるさい」「やめさせてください」と保護者にクレームがいったり、それを察して保護者が謝らなればならない雰囲気はない。

        悪魔?仙人? ―新ビジネスか異端信仰か―

          供花、献花、花のあしらい事情―花の飾り方に正解はない?―

          「そういえばタイでお花を供える時、向きはどうやって決めてたっけ?」  G7広島サミットの際、各国の首脳が平和記念公園を訪れ、日本の岸田首相と共に犠牲者慰霊碑に献花する姿が報道されました。7カ国首脳に終わらず、その後も韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領、インドのモディ首相はじめ招待国8カ国の首脳、そのパートナー、さらにはウクライナのゼレンスキー大統領と、献花セレモニーが続きました。  歴史的な出来事でありますが、その感慨はさておき、写真や動画を通して献花の様子を見ていて

          供花、献花、花のあしらい事情―花の飾り方に正解はない?―

          タイの名付け事情 ―本名も一生ものとは限らない―

          「新しい年号は<令和>であります」  注目を集めた新元号がついに公表されました。生前退位であることから、今回の改元はなんだかイベント化され「このお祭り騒ぎは内政から国民の目をそらせるための策略だ」といった陰謀論を唱えるひともあるくらいです。しかし、お祭り騒ぎになっていようとも、改元の選定から発表までの過程にはかなりの厳粛さがありました。  元号案について意見を聞くために政府に集められた有識者たちは、公表まえに元号の情報が漏れてしまうことを防ぐため、元号が発表されるまでの間

          タイの名付け事情 ―本名も一生ものとは限らない―

          お茶事情 「ミルクティー同盟」とタイのアイスティー

          #MilkTeaAlliance (ミルクティ同盟)  タイで起こっている民主化運動、新型コロナウイルスの感染拡大により、最近は大規模なモブ活動は控えられている様子ですが、インターネット上での発信は続いています。香港、台湾をはじめとした、アジア各国で民主化を求めて活動をしている仲間たちと連帯を示す投稿がみられ、そのひとつが#MilkTeaAlliance (ミルクティー同盟)というハッシュタグです。  きっかけは2020年4月、タイの人気俳優がSNS上にシェアした投稿が、

          お茶事情 「ミルクティー同盟」とタイのアイスティー

          時代や地域によって真逆だったりする妊娠・出産事情 ー日・タイの比較からー

          妊娠や出産にまつわる、知識や情報、いわゆる「常識」と認識と称されているものは、時代や地域によって、実はかなり異なります。ヒトの生命の誕生そのものに関わることなので、文化や社会の差異が表出されにくい、普遍的なものであるように思われがちですが、全人類に共通する部分はそう多くはありません。生命科学や医学的根拠に基づくものだと思われがちな「常識」が、実は文化・社会的な背景によるものであることも少なくないのです。 タイへの初渡航以来、親しい交流を続けてくれているタイの友人たちと、互い

          時代や地域によって真逆だったりする妊娠・出産事情 ー日・タイの比較からー

          タイの時間感覚と日本の時間感覚

          「新年に向けてのカウントダウンはみんなで数えますよ、では30秒前になったら、…あれ?あ、外、花火上がりましたね。12時すぎたのかな?あ、じゃあ、もういいやハッピー・ニュー・イヤー!!」  タイではじめて大晦日を過ごした年、大学の友人たちに誘われて年越しパーティに参加しました。今から10年以上前のことです。現在では出先で時刻を確かめるのに使うのはスマートフォンが一般的ですが、当時の携帯電話は現在のものと異なり、電話回線経由で常に時刻を同期するシステムなどは搭載されていません。

          タイの時間感覚と日本の時間感覚

          市販薬の使い方とタイの嗅ぎ薬「ヤー・ドム」

            「サワッディー・ピー・マイ!」  4月はタイのお正月、ソンクラーンでした。3年目の「水掛け禁止」のソンクラーンですが、タイの出入国時の感染対策が緩和されていることもあり、この連休は久しぶりに旅行を楽しんだ人も多いようです。わたしのSNSのタイムラインにも、旅行先で撮影された写真のほか、陰性結果が出た検査キットの画像のシェアが数多くみられました。隔離免除措、Test and Go制度を活用して国外に出る人もいる一方で、「人の移動が増える時期こそ、感染に注意が必要」と、ソ

          市販薬の使い方とタイの嗅ぎ薬「ヤー・ドム」

          食材の多様性事情 ゲテモノからSDGsへ

          「でたー」 緊急事態宣言期間中、チェンマイ在住の友人とオンラインチャットをしていた際、相手の後ろのほうから小さな悲鳴が聞こえました。彼女には、小学生のお子さんがいて、その日も休校中で”ステイホーム”していました。先程まで映り込んでいた姿が見えなくなったな、と思っていると、声をあげながら母親のもとにかけ戻ってきました。 なにがでたのか?幽霊か?ゴキブリか? 席を外した友人は、戻ってくると、「サソリだった」と一言。きけば最近家でよく出るそうで、慣れた様子で空き容器を使って捕

          食材の多様性事情 ゲテモノからSDGsへ

          タイのカフェ事情 その変化

          2015年7月 私事ですが、大学生時代にタイに留学してから今年で10年になります。パートナーシップでの連載も長く続けさせていただき、初期の頃と現在とでは、「タイの事情」に変化を感じる部分もたくさんあります。そのひとつが、「カフェ事情」です。 初めてタイを訪れた際、タイで飲む「カフェー・イェン」すなわち、アイスコーヒーの甘さに面食らった覚えがあります。コーヒーに限らず、練乳入りのミルクティー、はちみつ入りの緑茶、塩と砂糖を加えたみかんジュースといった具合に、冷たい飲み物は甘

          タイのカフェ事情 その変化

          若者の底力事情:タイの学生たちの潜在力

           若者たちによる民主化運動が勢いを増しています。COVID-19の感染拡大防止への積極的な取り組みに続き、 「厳格な年功序列社会で年長者を重んじる」、 「団体行動が苦手で個人が尊重される」、 「サヌック、サバ-イ精神で忍耐強さよりも楽しいこと、快適なことが好まれる」 といった、これまでのタイ社会のステレオタイプイメージを塗り替えるような 「反骨精神」、 「団結力」、 「忍耐強さ」 が示されています。 一方で、若者たちの意志力や柔軟性もまた間違いなく「タイらしさ」を象徴するもの

          若者の底力事情:タイの学生たちの潜在力

          タイの外食の多様性と「自由」

          「日本は一度行ってみたい国だけど、食べ物が心配でその気になれないんだよね」 10年以上前のことですが、タイの語学学校に通っていた頃、カナダ人のクラスメイトがそう言っていました。彼が菜食主義者であることは知っていましたが、「タイでの外食に不自由がないなら、日本での食事も問題ないはずなのに」と思い、なんだか腑に落ちない気持ちで聞いていました。 肉以外のタンパク源として重宝する、豆腐をはじめとした大豆製品も日本が発祥のもの。むしろ日本のほうが、食の選択肢は広くなるのではないかとい

          タイの外食の多様性と「自由」

          タイドラマ事情 ー外出自粛をきっかけに拡大した人気と経済圏ー

          コロナ禍の巣ごもり需要で、日本では昨年から急激にタイドラマのファンが増えているそうです。 毎年駐日タイ王国大使館が主催し、東京の代々木公園をはじめ日本全国各地で開催されていたタイ・フェスティバルも、今年はオンライン化し、東京では「タイドラマフェス」として開催されました。 「タイフェスティバル」は以前は「タイフードフェスティバル」として開催されていたほどで、タイの魅力としてまずは「食」が打ち出されていたものですが、昨年2020年は新型コロナウイルスの感染拡大への懸念から開催

          タイドラマ事情 ー外出自粛をきっかけに拡大した人気と経済圏ー

          タイのテーブルマナー事情

          2014年4月  「日本では麺類は音をたててすすって食べるのが正しいって本当?」 タイでは日本のラーメンチェーン店がたくさんの支店を出すなどしており、中国由来の小麦麺や、もともとタイにある卵麺のバミーと区別され、日本の「ラーメン」が知名度を得ています。 ラーメンの他にも、カレーライスやカツ丼、たこ焼きなど、さまざまな日本料理がタイで食べられています。 日本人駐在員が接待に使うような高級で本格的なレストランのほか、地元の人の味覚に合わせてアレンジされた屋台料理など多様な日本

          タイのテーブルマナー事情