トリュフォーの傑作映画『恋のエチュード』姉妹との三角関係の恋

フランソワ・トリュフォーらしい恋映画の傑作。トリュフォー作品で私が一番好きな『突然炎のごとく』が男二人と一人の女性をめぐる三角関係の映画であったのに対し、この『恋のエチュード』は、一人のフランス人青年クロード(ジャン=ピエール・レオ)とイギリス人姉妹、二人の女性と一人の男性の逆の三角関係の映画だ。なんでも『突然炎のごとく』の原作者と同じアンリ=ピエール・ロシェの小説「二人の英国女性と大陸」が原作なんだそうだ。

20世紀初頭、パリ在住のフランス人青年クロードは、母の旧友である英国婦人の娘アンに誘われ、ひと夏をウェールズで過ごす。海辺の崖の上に建つアン(キカ・マーカム)とミリュエル(ステイシー・テンデター)が住む古い屋敷。ネストール・アルメンドロスのカメラはパリと対照的に、自然豊かなウェールズの海辺の風景を俯瞰気味のロングショットで美しく描き出す。姉妹の白い衣装と自然の緑と海。そして屋敷の中のランプや暖炉などの間接照明を使いながらの部屋の中や階段の落ち着いた色調。3人が自転車に乗ったり、みんなで散歩したりする場面も美しい。雨やどりの崖の下で、「レモン絞り」とか言いながら身体を押し合う場面。また、アンとクロードが初めて二人で過ごすパリ郊外の湖畔の家も特徴的で、を交歓した後に二人はボートで別々の方向に別れるシーンも印象的なショットだ。

クロードがブランコから落ちてケガして脚を引きずって会った最初のアンとの出会い。そしてクロードがウェールズで妹ミリュエルとの最初の出会いは、目を患っていた目隠しの下から時折覗く彼女の仕草とその瞳が強い印象を残す。それぞれの患いや欠損が、相手(及び観客)を惹きつけるのだ。さらにミュリエルのサングラスは効果的に使われる。アンとクロードの椅子越しのキスをミュリエルが見つめる場面では、暖炉の炎が彼女のサングラスに映っていた。やっとミリュエルに再会できたクロードは、彼女に近づいてそっとサングラスを外して見つめる。サングラスがあることで、出会いの気持ちが高まる。

対照的な美しい二人の姉妹の描かれ方とジャン=ピエール・レオとの恋模様。それぞれのタイミングと人生の皮肉が見事だ。母親しか出てこないので、クロード以外は女性ばかり。父親の父権的なものは不在である。強権的な圧力はなく、自由な恋が3人を惑わす。ウェールズの自然の田舎とパリ(大陸)の対比も面白い。パリでいろんな出会いがあって気持ちが移ろうクロードと自然の田舎の中で一人思いを深めていくミリュエル。彫刻家を目指すアンもまた、パリでの生活で人と出会い、自分を変化させていく。移ろう時間と移ろう心。または変わらず募る思い。一方で過ぎ去ってしまった忘れられぬ時間。自転車に乗りながら見つめたミリュエルのうなじ。階段や部屋で一瞬触れた肌やレモン絞りの肉体の感触。その瞬間こそが永遠だ。

「なぜ触るの?」「あなたがこの世に生きているから」というの台詞が、すべてを表している。

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