ロマンチック・コメディ『サボテンの花』

これは安心して見られるロマンチック・コメディの傑作だ。アメリカのハリウッド映画の良さが詰まっている。脚本、特に喜劇を勉強している人は是非見るべき映画だ。I・A・L・ダイアモンドの脚本が素晴らしい。I・A・L・ダイアモンドは『アパートの鍵貸します』の脚本で有名だが、これはその同工異曲。スクリューボール・コメディという言い方があるが、まさにこの映画は、その代表作ともいえるのではないか。

ウォルター・マッソーが色男の歯科医。独身を謳歌するために女房と3人の子持ちという嘘をついて、若いゴールディ・ホーンと恋愛関係にある。その彼女が寂しさから自殺騒ぎをする場面から映画はスタートする。彼女を助けた戯曲を書いている隣の若い男イゴール(リック・レンツ)、ウォルターマッソーの妻役を演じてもらう羽目になる看護師のイングリット・バーグマン、さらにその恋人役を演じる親友のハーベイ(ジャック・ウェストン)や、その本当の恋人、イングリット・バーグマンを口説こうとしているもう一人の男も登場して、男女の関係が嘘を重ねながら複雑に絡み合う。嘘が嘘を重ね、本当になっていくという物語。

町山智浩が見事な解説をしてくれていた(「ザ・シネマ」より)が、原点はシェイクスピアの『じゃじゃ馬ならし』であり、『真夏の夜の夢』であるというのも頷ける。男と女がぐちゃぐちゃに関係がこんがらがり、本来結びつく相手と結びつかずに混乱する。ダンスを踊るバーでの入り組んだ男女のシーンは最高だ。物語は、ゴールディ・ホーンが、シェイクスピアの妖精パックのごとく、「マニック・ピクシー・ドリーム・ガール」として、まわりの男女を結びつける。本当にゴールデン・ホーンのショートカット(ピクシーカットと言うらしい)と大きな目、小さな顔が魅力的だ。衣装もピンクや黄色など可愛らしく妖精のように演出され、看護師の堅物女のイングリッド・バーグマンと対照的。さらに見どころは、「スウェーデン女性なのに」と揶揄される堅物女のイングリット・バーグマンが、女として変身していくところ。ゴールデン・ホーンが贈られて身にまとう似合わないミンクのショールを、バーグマンが身につけて喜ぶシーンなど見事な演出だと思う。最後の終わり方は分かっていながらも、しっかりと楽しませてくれるロマンティック・コメディだ。

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