あみもの第1号感想

遅ればせながら、あみもの第1号お疲れ様でした。
皆さんの連作を拝読し、まずはその量とパワーに圧倒され。またとても素敵な作品の宝庫で、短歌歴の浅い私に取っては大変刺激的で勉強になりした。

今更感は否めないのですが、あみもの第1号の中から特に気に入ったお歌を引かせて頂き、評……というか雑多な感想、のようなものを書かせていただきたいと思います。お付き合い頂けますと幸いです。


朝ぼらけcosβそれなりに何かを越えてみたいと思う / 池田明日香

なんと作者は現役高校生(!)らしい。なんかもうこの才能に対する嫉妬で発狂しそうだ。
私は、作中主体である女子生徒が学校へ向かう冬の早朝を想像した。
まだ辺りはすこし暗い。制服姿で、赤いマフラーなんて巻いている。すごく寒い。だけど天気はいい。真冬の、生まれたての太陽から、矢みたいなまっすぐな光が差している。作中主体は習ったばかりのsinθcosθtanθ、なんてことをふんふん口ずさみながら学校への道をひとり歩く。ありふれていてつまらない、けど輝かしい平日の朝の風景だ。
「それなりに」「何か」という曖昧さがまた良い。「どれくらい」「何を」なんて分からない。強い意志なんて往々にしてないのだ。青春は曖昧で、だからまだ見ぬ希望で溢れている。
非常に瑞々しくて美しい、十代の歌だ。私には詠めない。


袖口のほどけた糸が置いてきた町のほうへとなびく 海風 / 天田銀河

読んだ瞬間に真っ先に心を掴まれたのがこの歌だった。もちろん連作「エトランゼ」全体を通して好きなのだが、特にこの歌に心を奪われた。
船の甲板にいる、男性の作中主体を想像した。
空は曇っていて、海はどちらかというと荒れている状態だ。甲板は海風で寒い。男性はえりを立てたトレンチコートなんかを着ている。ふと袖口を見ると、糸がほつれて風になびいている。やってきた町の方向へ、後ろ髪引かれるみたいに。
この後ろ髪引かれる情感を表すためか、「置いてきた町」という表現をしたところが凄いなあ、と思う。私だったら「置いてきた」という語彙をここで持ってこれないだろうなと思うのだ。名残惜しさを的確に表現している。素晴らしい……


ツイートが読み込めません世界からちょっと遅れをとるこの区間 / 岡村和奈

「帰省」というタイトルで読まれた連作のなかの一首だ。
作中主体は田舎へ帰るところなのだろう。大学生か、せいぜい20代前半くらいの若者を想像した。
主体は都会で一人暮らしをしている。きっとそれなりに楽しい暮らしなのだろう。そして年に一度ほど田舎へと帰省する。田舎へ帰る道すがら、列車がトンネルを通る。あるいは田んぼだけが広がるところだろうか。ふとツイートが読み込めなくなるのだ。表示を見ると電波が届いていない。何度やってみても読み込まない。昔からその区間はそうなのだろう。主体はTwitterを見ることをあきらめて、ぼんやりと車窓を眺める。
それを「世界からちょっと遅れをとる」と表現したのが凄いなあと思う。非常に現代短歌的で、あたらしい。「バリ3」なんて言葉があったなあ、とふと思い出してしまった。


オクラホマミキサーみたいに今日もまた違う彼女のブラを見つける / 薊

ボーイズラブ短歌の部類だろう。同居しているふたりの男性を詠んだ連作だ。
作中主体のイメージとしては、ステレオタイプな「私立文系大学生」だ。同居している相手はセックスにルーズで、それなりにもてるタイプの男子学生なのだろう。主体はまた(きっと繰り返された習慣だ)同居人のベッドのあたりを掃除してやっている。そして、ベッドの裏側から、「また」見覚えのないブラジャーが出てくる。ああまたか、懲りないやつだ、と、クイックルワイパーなんか持った主体はため息をつく。ボーイズラブとして解釈するなら、モヤモヤするような、面白くない感情も付随しているかもしれない。
「オクラホマミキサーみたい」というどこか牧歌的な比喩が効いていると思う。代わる代わるセックスの相手を取り替える同居人の様子が的確に表されていて、非常におもしろい。


玄関と廊下の照明スイッチを間違えちゃってたのしい帰省 / 御殿山みなみ

まずは御殿山みなみさん、あみものの企画編集お疲れ様でした。だから選んだというわけではなく(笑)純粋に好きな歌だ。
社会に出て数年の、若手サラリーマンである作中主体を想像した。仕事が忙しくてなかなか実家に帰省する機会もない。せいぜい年に1回くらいだろうか。久々に帰った実家で、主体は玄関と廊下のスイッチを間違えて押してしまう。
ここで「たのしい」歌にしてしまうところが作者の凄いところだ、と私は思う。私がこの題材を詠もうとしたら、間違いなく「ああスイッチの場所も忘れてしまった、かなしいなあ」という歌になると思うのだ。それをあっけらかんと明るく「間違えちゃってたのしい」と詠んでいる。もしかすると「たのしい」の中に悲しさを内包しているのかもしれないが、カラリとした明るさが非常に心地よい歌だった。


本当はもっと沢山引かせて頂きたいのですが、今回はこのあたりで。
次号も心から楽しみにしています。

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