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神子ケ浜の金柑&甘夏ベーグル

豊島の長老宅は、母屋の前と後ろに田んぼが広がり、牛小屋と果樹畑、野菜畑が広がる。南側には瀬戸内海、四方が見渡せる屋敷だ。

東側の斜面に梅、柿、夏みかん、ざくろ、金柑が育つ。秋には金柑の近くでサフランが、わずかな期間だけ咲く。3年目になるだろうか、わたしは実りをいただくばかりでなく春から夏にかけては草刈りを、大寒までに「お礼肥え」と言われる追肥をするようになった。
「冬に化成でもパラパラっと振る」
長老に聞けば、やり方を説明してくれる。

豊島に通うわたしには肥料がない。島内の農協で買う。枝ぶりの範囲に根が広がっているから、そこにまく。風が吹いたら化成肥料が飛ぶので、水をかけるようにと教えてくれたのは、農協さんだ。

金柑の小さな実が青から黄色に色づき、春の終わりの頃にやっと収穫した。通うたびにつまんでは熟れ具合をみている。色も香りも味も、今が一番という時期にハサミでとる。
わたしは噴霧器が使えない。気になる害虫も発見できなかったら無農薬。長老はマシン油乳剤をかけたという。

金柑の木は2本。ちょっと味が違う、ような気する。大きい木の方が実がふっくらと大きく甘い。さて、家に持ち帰ったらひとまず野菜室へ。金柑の甘煮にして冷凍保存。2018年は金柑の種を取りのぞかないまま、小分け冷凍した。使うときに種を取ればいい。

甘夏みかんは梅雨の時期に、最後の収穫をした。次の実が爪の先ほどに青く見えているというのに、大きな実を採り終えていなかった。5〜6個も採ればビニール袋いっぱい、持ち帰るのも結構な重さ。甘夏は一つずつラップできっちり包んでおくと、野菜室で長く保存ができ、9月に希少な味を楽んだ。甘夏はピールにして冷凍保存。

金柑と甘夏を入れて、パンを焼いている。柑橘の皮が見える小さなパンは、差し上げるときに「豊島の金柑と甘夏が入っています」と添えて。豊島のおかあさんへの手土産は「神子ケ浜の」という地区名になる。長老の屋敷で採れたものという特別感が、素材を生かしたパンにつながる。
長老が木を植え、害虫予防や剪定をして枝葉を伸ばし、果樹は実をつけるようになった。家族だけでは食べきれない量がとれ、親しい人にわけて喜ばれたことだろう。
「木の下にビニール広げて、棒で落とす。山桃で果実酒を作っていたな」「酸(すい/酸っぱい夏みかん)がいいって持っていったな」
と、かつて差し上げていた人を懐かしむ。

長老が手入れできなくなっても、果樹は実をつける。雑草は伸び、蔓が巻きつき果樹を覆う。
2年目は採るだけの果樹に変化はなかった。3年目、柿が実をつけなかった。ビワが、季節外れの剪定で花を落とした。
時期と手入れを誤れば、季節が巡っても実はならない。長老は果樹が大きくなって、食べる家族の笑顔を思いながら植えたのだろう。パン生地に柑橘を練りこむ、神子ケ浜ベーグル。


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