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セリナズナ霜にきらめくホトケノザ 七宝探すスズナスズシロ ▶▶YouTube 早朝、白い息を吐きながら家の敷地に隣接する畑に向かう。私の数歩先を母が歩いている。まだ赤みを帯びる朝陽を浴びて、母の輪郭が柿色に縁取られる。小学生の私はザルを抱え、寒さに肩をすくめながら母の後をついていく。今日は一月七日。朝食の七草がゆに入れる七草を探すのだ。 腰をかがめ雑草をかき分け七草を探す母の側で、私は何度も太く長く息を吐き出していた。吐き出された息が対流してまとまり、朝陽に透けて輝き、そ
首を振るばかりの彼より 癒される 首を傾げる サーキュレーター ▶▶YouTube クーラーは冷えすぎる。 そんな私はサーキュレーターと夏を過ごす。 扇風機も悪くなかった。 スラリとした姿、涼し気な網の目。 なにより常温の風は体に優しい。 悪くはなかったのだが、つまらない。 いつも単調に首を横に振るばかりで、 こちらの都合などお構いなし。 風が当たっている時はいいが、 そうでない時は、 当たっている時の涼しさの反動で ますます暑さを感じてしまう。 ところで、 最近う
踊るようにらせんを描き 誘う蝶 遊ぶと決める 楽しむと決める ▶▶YouTube 視界の隅に白くちらつくものがある。 モンシロチョウが一羽、 羽ばたきごとに朝の陽射しを反射している。 彼女は歩く私を引きとめるように、 左手のあたりにいたかと思えば、 右耳をかすめて目の前に回り込み、 いたずらっ子のように振り返る。 急に始まった鬼ごっこのような、 その遊びを楽しみながらも翻弄されて、 私は思わず歩みを止める。 なおも私のまわりで遊ぶ彼女は、 まるで私をどこかへ誘うよう
どこまでもつづくよライン 二本のミラー 空の模様の大地のリボン ▶▶YouTube 駅の陸橋から夕焼けを眺める。 沈んでいく太陽を追いかけるように、 どこまでものびる二本の線。 やがてその消失点に夕日が溶け込んでいく。 刻々と変わる空のグラデーションを 映し続ける二本の線は、まるで鏡だ。 黄昏時、辺りが少しずつ暗闇に沈んでいくなか、輝き浮かび上がる。 やがてそこには、星が輝くのだろう。 そしていつか、朝日が映る。 人々の暮らしを祝福する
砂利の音を重ねるごとに清々と 空開きゆく建礼門 ハレとケと古今の糸が織る錦 町家小路に杼を通しゆく鴨川の流れは絶えず水清し 碧眼の亭主茶碗にクラゲ ▶▶YouTube 毎朝散歩をする。 普段は一人だが今日は特別だ。 一緒に歩く人がいる。 秋とはいえ、 早朝の京都はシンと冷えて身が引きしまる。 新鮮な朝の陽射しが心地よい。 京都御所には早朝にもかかわらず、 散歩をする人、ベンチでくつろぐ人が散見される。 この清浄な空気を味わっているようだ。 あるいは粛々と祈りを捧げてい
この空を「ばら色」って言うんだねきっと 君に見せたいって思ったから ▶▶YouTube 「赤色」と一言でいうけれど、 多分、思い浮かべている色はみんなそれぞれ違う。 血の色のような深紅。 ワインを思わせる紫がかったバーガンディレッド。 肌色に馴染むコーラルレッド。 深いピンクを含んだようなマゼンタ。 昔から気になっていた。 では「ばら色」とはどんな色だろう。 ウィキペディアによれば、 赤とマゼンタの間の色、バラの赤い花の色。 だそうだ。 また、比喩として、 日本語
ミル回し 豆も私もすりつぶし 豊かな香り らせんに昇る ▶▶YouTube 毎日コーヒー豆を挽きます。 コーヒー豆を挽くのは楽しい作業です。 コーヒー豆を見ると 子どもの頃らくがきした、 「かわいいコックさん」の 愛嬌のある口を思い出します。 ホッパーに豆を入れると、 カラカラと楽し気な音をたて 小動物のように飛び跳ねながら、 円錐の底に集まっていきます。 ハンドルの回転とともに、 豆はゆっくりと渦になり 穴に飲み込まれていきます。 ゴリゴリと豆が砕かれる音。
マントルが その枝の先に実らせる 翡翠を抱く ミカンの木 ▶▶YouTube ミカンと言えば黄色くまるい姿を想像する。 陽射しを集めたようなその色艶。 まぶしさと甘酸っぱい味を想像して 目を細めたくなる。 彼らは食べられるために魅力的に見えるのか、 食べられたから魅力的に見えるのか。 魅力的になる前の彼らは、 茂る緑の葉の陰に身を潜めている。 その深い緑色に輝く硬い実は、翡翠のようだ。 翡翠は地殻とマントルの境界付近で生じる、 造山運動に伴って形成されるらしい。
牛も馬も スーパーにならぶ お盆かなささげ豆 へそを目にする 精霊牛鼻は獏 髪は七三 目は土偶 ウチのカワイイ おしょらさま 仏前にお盆の特別なお膳を供えながら、 母が今年の”おしょらさま”の出来について語る。 ”おしょらさま”とは、精霊牛のことだ。 言い訳なのか自慢なのかわからない、 その熱心な説明を聞くのが、 私の毎年の恒例行事だ。 実は今年はスーパーで売ってたから 買おうかと思ったけど、 キュウリの馬もセッ
夕立が蓮田をチューニングしてる 曲はピアノからフォルティシモへ ▶▶YouTube ばんごはん何にする? 連日の暑さに少々疲れた様子の 母が物憂げに言う。 お盆は実家に帰省する。 田舎はお盆の行事が多い。 お墓の掃除から始まってお寺に供え物をし、 ゴザを編みナスの牛を準備する。 迎え火を焚き、 仏様に3食の食事を作り供える。 そして親戚周りやご近所周り。 いつもなら会社や学校に行っている家族は全員家にいて、 ご飯はまだかと催促する。 そんなこんなで、 主婦にと
長男がもち搗き 次男が餡混ぜて 私が丸め ばあばが餡着せ お盆は自家製のぼたもちが楽しみの一つだ。 前日から母がもち米や小豆の 下準備をしてくれている。 炊飯器で炊いたもち米を、 すりこぎで搗きつぶすのは長男だ。 高校3年生、とうに叔母の私の背を超えている。 愛嬌がある黒目がちなぱっちりした目、 小さい頃からよくしゃべり、 場を和ませる存在だ。 仕事を頼むとちょっとぼやきながら 既にすりこぎに手を伸ばしている。 優しい性格で、結局手伝ってくれる。 圧力鍋で小豆を煮て、
誰そ彼に 沈む世界に 残る灯を 集めて浮かぶ 夕顔の花 ▶▶YouTube 昔、実家の庭先に夕顔が生えていました。 夕顔の実はかんぴょうの材料です。 母も植えた記憶がないそうで、 鳥が運んできたのだろうということでした。 陽が落ちて辺りが涼しくなった頃、 夕飯の支度のために 庭先の菜園に野菜を採りに行きます。 野菜を採り終えて目を上げると、 いつの間にか、 草も木も色を失くし 溶け合ってひまとまりの影になっています。 自分の手さえその影に溶
色を脱ぎ 香りを纏う 菜園で息をひそめる 夏の誰そ彼 ▶▶YouTube 毎日散歩をする。 まだ暑いので外が過ごしやすくなる時間を選ぶ。 心地よい夕風の中、バラ色の夕焼けを眺めるのもいい。 清々しい星空が涼し気な夜も悪くない。 そして私は、 夕方と夜の狭間の時間に出かける。 夕方というには空の色が儚げで、 夜というには闇が淡い。 刻一刻と影が濃くなる。 あの街路樹も あの花壇の花も いつの間にか同じ影に沈もうとしている。 いつもの菜園の側を通りかかる
明星をめざす グラスの泡柱 かすかに揺れる 今日は風立ちぬ ▶▶YouTube 空を眺めるのが好きだ。 特に夏の夕方は 心地いい夕風を感じながら ベランダで過ごすのが好きだ。 空の色が変わってゆく様を味わい、 頬をなでる風の感触を味わい、 それらの日々の違いを味わう。 ある日の風に ほんのわずかな違和感を感じる。 爽やかで優しいけれど、 少しぶっきらぼうでそっけない。 グラスの底から空へ昇る泡柱が揺れる。 ガラスの中の小さな世界で