見出し画像

ポリウォーター -偽科学事件簿-

※一部画像はAI生成画像です。

生物が生きていくために必要な水
人間は水を飲まなければ2~3日で死んでしまうといわれるほど
水は生命活動に大事な物質です。

今回は、そんな水を巡って起きた事件のお話をしていきます。

ポリウォーターとは?

ポリウォーターとはそもそも何なのでしょうか?
ウォーターの名の付く通り水なのですがただの水ではありません。

ポリと名の付く物質として、プラスチック素材として
「ポリエチレン」はみなさん聞いたことあるでしょう。
これは、エチレンという物質が重合したもの。
まぁエチレンがたくさん繋がっているという認識で問題ありません。
ポリというのはポリマーの略で、物質が重合しているときに用います。

エチレンの構造図


ポリエチレンの3Dモデル参考

つまりポリウォーターとは
水のポリマー、多くの水分子が繋がった物質です。

水分子の構造式

ポリウォーターは1966年にロシア(当時ソ連)の科学者である
「ボリス・デリャーギン」によって広まりました。

ボリス・デリャーギン Boris Derjaguin (not AI)

彼は、水をガラス製の毛細管に通すことで
特殊な水が精製できると発表

それにより出来た特殊な水は、通常の水と比べて
融点は-30℃、沸点は400℃、粘性は15倍、膨張率は1.4倍になるという
とんでもない性質を持った水でした。

この実験と、後に行われる追随実験によって
「これは水のポリマーが精製されたのではないか」と考えられ
この特殊な水はポリウォーターと名付けられました

ポリウォーターが広まってしまった

もちろんながらポリウォーターのことを、
他の科学者たちも素直に信じたわけではありません
「本当にそうなのか?」疑問を抱きながら実験を行いました
そしてその結果
デリャーギン以外の科学者もポリウォーターが精製できました。
他の人間も同じように不思議な水であるポリウォーターを生成できたため
再現性があるとみなされました。

そしてなんといっても元が水ですからそこら中にあります。
つまりポリウォーターはが稼げる科学でした。

そしてもう一つ、理由として挙げられるのが「冷戦の影響」です。

西側諸国と東側諸国の対立

デリャーギンはソ連の科学者でした。
言ってしまえば、ポリウォーターという有用な研究で
アメリカ西側諸国はソ連に先を越されたわけです。
「ソ連への対抗心を燃やした」といった理由もあったのかもしれません。
(これに関してはメディアが煽ったのも原因の1つと考えられます)

これらのことから、一気にポリウォーターのブームが到来しました。

マジでポリウォーターがあったらヤバかった

さて、タイトルで「科学」と記載している以上
ポリウォーターは嘘の物質であったのですが、
実際に存在していたら地球がかなりヤバいことになっていました。

この世のすべての物質の特徴として
「より安定した状態に変化しようとする」という特徴があります

例(エネルギーが低い方に変化していく)
2H₂(水素)+O₂(酸素)→2H₂O(水)
C(炭素)+O₂(酸素)→CO₂(二酸化炭素)

https://nrifd.fdma.go.jp/public_info/faq/combustion/index.html

さて、話を戻しまして
ポリウォーターになった水は、通常の状態では元の水には戻りません
ということは、ポリウォーターは安定した物質であったわけです
そして、
「普通の水がポリウォーターに触れたのなら連鎖的に
 水→ポリウォーターに変化するのではないか?
このような仮説が生まれました。

海に一滴ポリウォーターを垂らせば、
世界中の水がポリウォーターに変化してしまう
そうなってしまえば、私たちどころか
今現在の生物のほとんど死に絶えてしまうでしょう

全ての物質は安定する状態に移行する特性があります

ですがそんな事態にはなりませんでした

ポリウォーターは嘘である

ポリウォーターはかねてから問題点が指摘されてきました。

1.自然界ではケイ素(ガラス、石英)に触れる機会は多いはずなのに
   なぜポリウォーターは自然発生していないのか?

2.不純物を混ぜた水で測定したところポリウォーターと同じ測定結果が出た

つまるところポリウォーターというのは、ただの水の混合物であったということです。

この結果が発表されてから後に
1973年、デリャーギン自身も「ポリウォータは無かった」と
認めることによりこの騒動は幕を下ろしました。

科学の実験では不純物は1,2を争うほど気を使わなければいけない部分です。
今回解説したポリウォーターは不純物の恐ろしさを改めて教えてくれる
良い教訓といえるでしょう。

補足

今回の話だけ聞くと「デリャーギンは悪い科学者」のような
印象を持つ方もいるかもしれません。

確かに彼は、ポリウォーターという現在では否定された科学を世界に広めて
一時的に科学界の水の研究を遅らせたと考えることもできます。
しかし彼本人もコロイドの研究の権威であり、
「DLVO理論」の提唱者でもあります。(ちゃんとした研究もしていた)

それに、
ポリウォーターが嘘だと最後にはデリャーギン自身も認め
ポリウォーターは存在しないと言っています。
自信の理論を死ぬまで撤回しない科学者も多い中では
ある意味素直だととらえることもできます。

ポリウォーターがここまで流行ってしまったのは
冷戦による影響と水という利権にあったでしょう。
あと、マスコミが過剰に反応しすぎたというのも理由の一つであるように思います

当時の科学者はポリウォーターが本当にあるとして研究していましたし
その熱意を否定することはあってはなりません。
時代によって、また技術進歩によって、
既存の科学が否定されることは往々にして起こりうることです。
ポリウォーターはそんな科学の歴史の1つに過ぎません。


参考文献リスト
ニセ科学の栄光と挫折-齋藤勝裕-
https://ja.wikipedia.org/wiki/ポリウォーター
http://blog.ac.eng.teu.ac.jp/blog/2015/07/post-e899.html
https://gse.ua/en/origins/uchitelya/83-great-scientists/152-deriagin-boris-vladimirovich.html
http://www.sptj.jp/powderpedia/words/11442/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?