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動物の気持ちが分かる?発情した猫の声を聴いて思ったこと

動物の気持ちを視る力

思考がある動物

人には思考がある。同じように動物にも思考がある。思考があるならそれを読めば霊視できる対象になる。という理論で、動物の気持ちを視たり、記憶をたどったりするようになった私。鑑定でもペットの写真を持ってくる人もいるし、相談者のお宅にお邪魔して、ペットと対話したこともある。動物の思考は意外にも複雑で、人間と同じく二次感情を持ち、記憶から学習し、戦略的に行動したりもする。だから、しっかりコミュニケーションをとることで意思の疎通をして、気持ちを獲得することができるのだ。私が最近感じた動物の気持ちで印象的だったものを紹介しよう。

ポツンとたたずむ子猫

うちには9匹の猫がいる。ペットショップで買った猫が2匹。あとの7匹は外にいた猫だ。色々なルートを辿ってうちに来た猫たち。意外にも9匹目以外は私が拾った猫はいない。9匹目の子猫。私が初めて拾って飼うことになった猫。名前はこしろ。
こしろは、ポツンとたたずんでいた。
いつも行く犬の散歩コース。私、夫、次男、長女。4人で広場がある土手下に向かって歩いていた。その土手の斜面に茶色い塊があった。最初に見つけたのは夫で
「猫がいるよ」と
ぽつんと佇む子猫。小さな子猫はとても元気に見えた。日向ぼっこをしているように見えたのだ。だが、大型犬と4人の人間の集団を見ても逃げない。土手の向こう側を見ているようだ。
私は、猫の保護活動はしていないが、乳飲み子を引き取って育てたり、里親募集を代行したり、自分ができることはしてきた。そんなだから、家には8匹の猫がいるし、私のSNSを見て、保護活動をしている人だと思っている人もいる。だけど、保護活動はしていない。そんな継続的にできるほど、保護活動は容易なものではない。命は本当に重い。自分には抱えきれない。だからしていないのだ。

小さな猫の背中に、孤独と空腹を感じた私は、子猫に近付き、背中をそっとつまんだ。猫は脱水症状を起こしていると、つまんだ背中の皮が戻らない。茶色くふわふわに感じた見た目とは異なり、乾いた毛皮は明らかに脱水しているようだった。
「脱水しているけど、元気そうだから、バイバイ子猫ちゃん」
私が背中をつまんでも微動だにしなかった子猫に、声をかけ、私は犬の散歩に戻ることにした。
私が保護する対象は、弱っていて、自力では外では生きられない子。体が破損したりして、自然界では生きられない子。回復の見込みがあり、里子に出せそうな子。その定義らしきものに該当しているけれど、近くに兄弟猫や親猫がいるかもしれないし、緊急性がなさそうと判断したのだ。

勇気の行動

私が離れて歩いてくのを眺めていた子猫。不思議な出会いだったと思いながら散歩の団体に戻ると、
「ミー」
後ろから鳴きながら追いかけてくる。
すかさず、まだ幼く血気盛んなゴールデンレトリバーや4歳でかわいいものが大好きな娘が反応し、一気に子猫に注目が集まった。
想像するに本当に怖かったと思う。大きな人間と犬に向かって走って飛び込むなど、猫にしてみれば異常行動。
子猫は追いつくと、茂みに隠れるような行動を起こしたので、気まぐれに追いかけてきたのかなと思った。
「近くに仲間がいるなら戻りなさい」
と声をかけると
「ミー」と鳴く。
犬や子供が飛びつきそうなので、気を取り直して進むように促す。
「さぁ、行くよ。お散歩しよう」
再び歩き出すと、やはり子猫は追いかけてくる。飼われていた猫なのかな?どうして追いかけてくるのかな?と思いつつ、ちょこちょことついてくる子猫を見ていると、ひょっとして捕まるだろうかといういたずら心似た思いが浮かんできた。

私は、猫が怖がるか試したくて、立ったまま、猫に近付き手を伸ばした。猫からしてみれば、立っている人間はより大きく感じる。仲良くなりたい、怖がらせたくないなら、しゃがみ、猫から近づいてくるのを待つのが良い。
子猫は私の行動にひるみ、「シャー!」といった
やっぱり・・・私は思った。これは勇気の行動なんだ。「ミー」と鳴く声に助けて・・・というメッセージを感じた気がしたのだ。
私が2回目に手を伸ばした時、子猫は抵抗することなくすくい上げられた。とても軽い、そして臭い猫だ。
寒くなり始めた11月末の夕方。興奮する犬が何度も飛びついてくるし、声の高い娘が触ろうとしてくるし、男の人の声もする。きっとすべてが初めてであろう体験をしているはずの子猫は私にじっと抱かれている。臭すぎる体で。私は撫でて、声をかけてやる
「十分に太らせて、里親募集をしよう」

夫が
「飼わないの?」と聞く
「もう8匹いるのよ。犬もいるのよ?」と私が応じると
「アンちゃん(犬)と仲良くなるかもしれないから、飼ったらいい」
私は心底驚いていた。いきなり猫を拾ったことをたしなめられると思っていたから。それに私は、正直、猫は増え過ぎだと思っていた。7匹目と8匹目は一度里子に出したのに帰ってきてしまい、そのままうちにいる。お客様の事情で里親募集を代行することになった親子で母猫に関しては全く人馴れが進んでいない。娘猫は人馴れして、かわいらしく、里親募集を継続すればよかったのだが、親子を引き離すのがかわいそうで、結局うちに二人ともいる。その時は一気に猫が増えた感じがした。あまり遊んでやれないので、壁で爪を研ぐ。猫は増えるほど、困りごとが増え、命の重みが増える。送り出す時の悲しみが増えていく。それを想像すると動物とは暮らせないのだけど、最後の時を想像しては私は重い気持ちを疑似体験して怖くなるのだ。
「里親募集をする」
私はじっと抱かれている子猫ののどを撫でてやりながらうそぶいた。抱えきれない。でも抱えてしまった。そんな気持ちが行ったり来たりするのを感じながら。

健康な野良猫なんていない

子猫を家に連れて帰ったらすぐに、缶詰の餌を用意した。帰りながらチェックした口内には、2本の牙があった。子猫は早い段階で永久歯が生えるのだけれども、2本の牙は永久歯と乳歯が並んでいるということ。子猫の月齢は結構進んでいることを表していた。ミルクではない。かなり痩せていることから、何日も何も食べていないかもしれなかった。
子猫はガツガツと缶詰を食べたかと思うとちょっとぐったりした。子猫あるあるだけど、今まで外で気を張って過ごしていたので、疲労困憊なのだ。眠くなってきたのだろう。夫に、猫用のケージを用意してもらっている間に、疲労困憊なのは承知で、体を洗うことにした。この子猫は臭すぎる。ノミはいない様子だけど、口内の様子を見ると貧血もありそうだった。
子猫は「ミー」と鳴くものの、すんなりと洗われ、ドライヤーで乾かす間もおとなしかった。
体の様子を見ると、完全なる野良猫だろう。それにしては、ひっかいたり嚙んだりはしない。不思議だった。
用意されたケージに湯たんぽを入れ、子猫を入れた。ペットボトルにお湯を入れてタオルでくるんだだけの簡易的な湯たんぽに子猫は寄り添い、座ったまま寝始めた。

毛布をケージにかけてやり、暗くした部屋で子猫はしばらく眠った。大型犬はいるわ、子供は3人いるわの我が家を選んだことをどう思っているのだろう。香箱座りで眠る子猫を見ながら、病院に行かねばと思っていた。悪いことにその日は土曜日ですでに夜だった。
子猫が目覚めた気配とともに、猫が吐く独特の音が聞こえた。子猫は与えた缶詰を吐いてしまった。慌ててケージの中を掃除しながら、あーやっぱりと思っていた。野良猫で元気なのは珍しい。特に子猫時代に一度も風邪をひかず、寄生虫にさらされずにいられる猫はいないと思う。
その後、深夜になって、豪快に下痢のうんちをした。嗅いだことがないほどに臭い。始まった・・・私はそう思った。
夫にお願いして買ってきてもらった猫ミルクを用意する。これからが勝負だと思っていた。脱水して貧血がある猫が嘔吐し下痢もしたということは一気に死に近づいたことになる。猫の体の中は今は生命を維持するだけの材料もない状態。私は今までやってきた通り、ちょっとずつ、シリンジで猫の口にミルクを注ぎ込む。すぐに吐いてしまうのは承知で。根気強く、3時間おきくらいに少しずつ。子猫はもともとなのか、毛が短く、すぐに体が冷えた。冷えは命の危険信号。私はなるべく暖かくと思って、自分の服の中に入れてやる。そこでミルクをやるので、あっという間にべとべとになる。でも死なれるよりはすべてまし。嫌がる子猫の口にミルクを流し込みながら、頑張れ・・・とつぶやきながら。
そうやって猫にかかりきりになること1日。月曜日になったので、朝一で病院に連れていく。
一通り観察した先生が一言。
「2か月くらいかな」
体のサイズはそれくらい。私もそう思った
「先生、ここ、牙が」
私は猫の口をめくって先生に示す。二本並んだ牙を見て
「あぁ、永久歯がある。だとしたらずいぶん小さいね、痩せているし、食べれてないな」
永久歯が生えてくるのは3か月頃。栄養状態を考えれば、子猫の月齢は4か月近くかもしれなかった。
抗生剤と虫下しと吐き気止め、保液の点滴をしてもらった。そして、高栄養食を処方してもらい私はホッとした。やはり、抗生剤なしに回復は見込めないし、保液すれば脱水症状も緩和される。これでご飯も食べられるようになるな・・・。
子猫は来た時に缶詰を食べて以来、固形のものを食べていなかった。缶詰を用意してやったり、カリカリをふやかしたりして、与えてみようと試みたりもしたが、口にはしなかった。ミルクはずっと強制的に与えていたから栄養は取っていたけど、その間も吐き戻しもあったし、下痢もしていた。どんどん弱っていくように感じて、心底不安だったのだ。家に帰ると、子猫はケージの中で眠った。しばらくたって、毛布をめくると、子猫は湯たんぽから離れ、体を横にして寝ていたので、私は心の中で拍手をした。猫が調子が良い時の寝方だからだ。香箱座りで寝ている猫は調子が悪い。うちに来て初めて、横になって寝たのではないだろうか。私はミルクのために起こすのはやめて、起きるまで猫を寝かせておいた。
それにしても、病院に行って一番驚いたのは子猫の性別だった。全身オレンジ色のチャトラだったし、おしりに二つ突起があったので、オスだと思っていた。オレンジのチャトラのメスはちょっと珍しい。でも先生は
「んー、メス」
と言ったのだ。
「え?この突起は?」
と聞くと、痩せすぎて骨が見えている状態とのこと。オレンジのチャトラなのに・・・とつぶやくと
「まぁまぁいるよ」とのこと。先生がそう言うなら、まぁまぁいるのだろう。この毛色はかわいいから、生きる確率も高い。毛色で猫の生存率が変わるという記事も見たことがある。

子猫の苦難は続く

すっかり回復してきた子猫。オスだと思われていた子猫。家族会議で名前を決めていたけれど、メスだと分かって、名前をどうするか再度家族会議を開いた。けれど、結局初めに呼んでいた名前に落ち着いた。名前はこしろ。こしろは私たち夫婦がまだ結婚したての頃、二人ででたらめに歌っていた歌に出てきたフレーズ。不思議な子猫はひょっとしたら満を持してうちに来たのかもしれない。
動物病院を訪ねた日の夜、先生から電話があった。
「検便の結果、珍しい寄生虫が確認されたので、近々連れてきてください」
とのこと、私は次の日にはこしろを連れて行った。
珍しい寄生虫とは何なのか。よくわからないが、昨日打った注射では駆除しきれないらしかった。細く小さな体には注射の液が入らず、しかも痛かったのか、それまであまり暴れたりしなかったこしろが怒った。何かを訴えるように「ニャウニャウ」としつこく鳴いている。
その様子があまりにも人間的で、笑ってしまった。先生も困惑しながら
「ごめんね、痛かったね?ごめんて」
と何度も謝っていた。外で生活している猫には寄生虫はよくあること。カエルなどを食べたりすると寄生虫の宿主となってしまう。
会計をしているといつもの看護師さんに
「この子猫は飼うんですか?里親に出すのですか?」と聞かれた。前日、診察券を作るために書いた書類に猫の名前を書く欄があり、その欄を空欄で出したせいかもしれない。私にはその時まだ迷いがあったのだ。飼うのか里親に出すのか。一つのカルテにずらっと並んだ我が家の猫たちと犬の名前。そのカルテを見ながら看護師さんは「みんな元気にしてる?」と聞いてきた。上は16歳の猫から4歳まで猫がいて、最近はゴールデンレトリバーを飼い始めて、さらに一匹猫を拾ったなんて信じられなかったのかもしれない。ひとりひとり、年齢と避妊と去勢の有無を再確認されながら
「この子飼います。名前はこしろです」
唐突に答えた。
「うん、うん、こしろちゃんね」
そう言って、新たにカルテにこしろメスと書きこんでくれた。その瞬間、きっと私は覚悟した。こしろを自分の猫にすると。

こしろは、本当に元気になった。子供たちにおもちゃのように抱っこされてもおとなしく、体格差が何倍なのか分からないようなゴールデンレトリバーのアンともすっかり仲良し。猫たちは久しぶりの元気な子猫に老猫チームは少々迷惑そうで、一番若い娘猫は一緒に跳ね回っている。骨が目立っていた体もふっくらして、おなかがポンポンの子猫らしい体形になった。私のことをお母さんか何かと思っているのか、後をついて歩き、いつも抱っこされ、顔にすり寄ってくる。じつは私は猫アレルギーだ。ひどいものではないが、さすがにスリスリされると、皮膚がかゆくなり、発疹が出てくる。よけるのはかわいそうなので、十分に撫でてやる。薄い毛もそのせいでダイレクトに感じるあたたかな体温も愛おしかった。とてもかわいい。容姿も仕草も。

珍しい寄生虫

こしろが来て、2か月が過ぎたころ。こしろは急に大きな声で鳴き始めた。
発情だ。メス猫は発情すると、独特の大きな声で鳴き、オス猫を呼ぶ。そして、あまり触られたがらない猫もくねくねと体をくねらせ、触らせてくれるようになる。撫でてやると、まるで全身が性感帯になったかのように、クルルと甘い声を出し甘えてくる。こしろはまだ、生後4か月程度の体格だった。この状態で避妊手術に耐えられるのだろうか・・・。という不安が広がった。同時に、もし、こしろを保護せずにあのまま外にいたらと考えた。こんな小さな体で妊娠してしまうのだろうか?容姿はほとんど子猫だ。なんて残酷なんだろう。まだ一月末の寒さ厳しい時。こんな小さな体で妊娠して、まだ寒さが残る中、子育てがスタートすることになる。外は餌なんてない。水すらちゃんと安定して飲めるところもないのだ。そう考えると、こしろの甘く鳴く声が切なく、私の胸を締め付けた。

発情を確認して数日後、事件は起きた。こしろが怒ったように鳴いている。その日は夫が帰りが遅い日で、子供たちと外食をしていた。帰宅して、ペットたちのご飯を用意して、子供たちにお風呂に入るように促していた。
あまりにも部屋が臭いことに気が付いて、猫のトイレをのぞきに行くと、こしろが飛び出してきた。こしろのおしりには何かがある。おしりに何かを引きずったまま、パニックなったこしろが暴れまわっている。それに気が付いた長男が、「こっちゃん、待って」と追いかけていく。こしろが走り去った場所には下痢のうんちがまき散らされ、まさにカオスだ。長男が確保してくれたこしろのおしりから、見たことないものがぶら下がっている。紐を食べてしまったのかと思い、トイレットペーパーを使い、そっと引き出すと、ずるずると出てくる。うちにこんな紐はない。猫を飼っていると、誤飲して病院にかけ込むなんてよくあることだ。ソフトマットや輪ゴム、ビニールやおもちゃ。うんちに出てくればよいが、出てこず詰まれば手術。手術した猫もうちにもいる。だからこそ、猫が飲み込みそうなものや危険なものは極力我が家から排除しているのだ。
白く、長いその物体が何なのか分からず、血の気が引く。こんな長いひもはうちにはないし、ひょっとして腸かもしれないと思ったからだ。息子にケージを用意するようにお願いして、私はこしろを掴んだまま携帯を操作する。
夫に電話するが、すぐには帰れそうにないらしい。次は今の時間やっている動物病院。時刻は18時45分。診察時間が18時までのいつもの先生にはつながらなかった。19時までやっている動物病院が数件ヒットして、片っ端からかけていく。どこも遠いが専門家の意見が聞きたい。やっと出てくれた病院の先生にこしろの状況を伝えると。冷静な声で
それは腸ではない可能性が高い。猫が元気なら緊急性はない。21時からやっている夜間病院があるからそこへ行くこと。
その三点を教えてくれた。
電話を切り、息子が用意してくれた、猫用のキャリーバッグにこしろを入れる。おしりからは引き出すのが怖くなった白いものが20センチ近く出ているが、元気な様子で、出たそうにカリカリと扉をかいている。

はぁぁぁーと大きく息を吐き、息子にお風呂に入るように促し、ウンチまみれになった家中の床をアルコールで消毒した。夫に再度電話するが、午前様になるようだ。
お風呂から出た子供たちに、こしろを病院へ連れて行くから、みんなで寝ておくように伝えた。本当は子供だけでお留守番なんてさせたくない。でも、こしろをこのままにしておくこともできない。苦渋の選択だったが、キッズ携帯でいつでもお父さんにもお母さんにも繋がるから、安心して眠るように伝えて。最短で帰ることを誓って、決意を固める。21時から始まる隣町の病院に連れていく。夜なので30分ほどでつくはず。気が付けば、時刻は20時過ぎ。
病院についてからすぐに診察をしてもらった。先生は、誤飲の可能性を私に聞き、その可能性は低いこと、他の猫の経験があり、誤飲の場合先に嘔吐の症状があると思うが、それはなかったことなどを伝えた。先生がこしろのおしりから、引っ張り出そうとする。弾力のありそうな白いひも状のもの。ゆっくりと引き出されて、途中で切れるまで、それが何かは分からなかった。おそらく、小さなこしろの体より長く、60センチほどだったのではないだろうか。そんなものが腸内にあったことにドン引きする。待ち時間にちょっと調べた情報では、マンソン裂頭条虫が濃厚だと思っていた。だが、先生もよくわからないという。夜間病院はあくまで緊急の診察という概念らしく、かかりつけ医に診察状況を伝える手紙を書いてくれた。
時刻は21時半。息子から電話が鳴る。「お母さん、いつ帰ってくるの?」泣きそうな長男の声に、自分も泣きそうになってしまう。不安にさせてしまったよね。ごめんね。
「もう終わったから帰るよ。先に寝といてね」帰宅したら22時だった。どんと疲れた。

無知の知

こしろを最初に病院に連れて行ったときに珍しい寄生虫がいると言われて、そのまま流していたけれど、しっかり詳細を聞いておけばよかったと後悔した。色々調べてみても、寄生虫がどんなものなのか、どうすればいいのか、分からなかった。私は再度、こしろのおしりから謎の紐が出てこないことを祈った。自分だけでは対処できない。分からないものが怖かった。
私が最初に猫を飼ったのは、20歳の頃。子供のころから猫を飼うのが夢で、一人暮らしをしてから早速、里親募集をしているところから引き取った猫が最初の猫だ。そのときに、猫に関する本を買い、ボロボロになるまで何も読んだ。それからインターネットが普及してからは、ブログを読んだり、調べ物をしたりして、猫の知識を蓄えていった。それから20年以上経ち、猫のことはそこそこ知ったような気分になっていたが、ここにきて、初めての経験をして、改めて、自分の知識の甘さを知った気がした。無知の知。いつまでもこのワードは私の中にあり、思い知らされる。

夜間病院でもらった手紙を持ち、かかりつけの先生を訪れた。検便の結果、こしろのおしりから出てきたのは、マンソン裂頭条虫だった。その卵が便から検出されたのだ。
「以前の検便で、珍しい寄生虫がいると言ったのは、このマンソンなんちゃらですか?」
と先生に質問したら
「つぼ型吸虫。」
だという。つぼ型吸虫を倒すよりも多くの薬がマンソン裂頭条虫を倒すには必要らしい。最近の猫にはつぼ型吸虫もマンソン裂頭条虫もあまりいないらしい。そして、先生の説明では、寄生虫がいても、猫が死んでしまうことはないそうだ。宿主が死んでしまうと、寄生虫にとっても都合が悪いらしい。しっかりと説明してくれる先生の話を聞きながら、注射を打たれるこしろを抑える。こしろは結局、寄生虫駆除のための注射をこれまでに4本打ったことになる。痛い注射なのだろう、前ほどではないが、「ぎゃっ」と鳴いた後、シャー!と威嚇していた。難儀な人生ならぬ猫生だ。

発情しているけど、寄生虫が落ちてから手術の準備を進めることになり、そのまま帰宅した。白い紐事件以来、こしろの発情は落ち着いていた。経験上、4,5日発情し、その後一週間ほど普通に過ごし、また発情しを繰り返す感じだったと思う。だから、一旦落ち着いても、またすぐに大きな声で鳴き始めることになる。病院に行ってから、数日後、予測通り、こしろは大きな声で鳴き始めた。

こしろの叫び

我が家では寝室には猫も犬も入らないことになっている。かつては猫が4匹だったので、一緒に寝ていた。だから、寝室のドアにはペットドアという、犬や猫が通り抜けができる小さなドアが付いている。
だけど、猫が増えてくるにつれ、困った行動をする猫が出てくる。そもそも、猫はよく吐く。お布団で吐くのは日常茶飯事だ。そして、おしっこをする猫もいる。これは不満があったりするとする猫もいるし、お布団のフカフカでなぜか、尿意を感じる猫もいるようだ。うちの猫は前者だが、これは本当に困る。さて、寝るかとお布団に入るなり、臭い猫のおしっこのにおいに包まれる夜は本当に最悪だし、その匂いは洗っても取れなかったりする。
そんなこんなで、お布団を洗う頻度は増え、そのたびにストレスがかかる。そのうえ、猫が布団の上で寝れば、毛がついてしまう。その毛を毎日コロコロで取るのも大変。それを怠れば、アレルギーを起こさないほうが難しい環境になる。
そこで、猫が8匹になった時点で、寝室は猫出入り禁止になった。ペットドアも鍵がかけられた。
こしろが来た時点で、すでに立ち入り禁止だったそのドア。こしろは寝室に立ち入ったこともなかった。

こしろが2回目の発情を迎えた。クルクルと独特の鳴き声を出しながら、転がる姿はかわいく、すぐ膝の上に乗ってきて、撫でられるので、正直悪くはない。大きな声で鳴くことも、夜は困るけど、かわいいこしろの行動とあれば、許せた。あの声を聞くまでは

深夜にこしろが鳴いている声で目が覚めた。夢うつつの状態でそののどがひっくり返りそうな声を聞いていたのだが、私は動物の声を感情の声として聴くことができる。普段なら、その力を使うことはあまりない。犬の散歩中に頻繁に目を合わせてくる時や猫が要求鳴きをしていると感じる時などは、便利なので使うが、普段からその能力を開き、耳をそばだてていると、一気に疲れてしまうだろう。だけど、夢うつつの状態は、実は霊視をする状態に似ている。いうなれば、自然と能力が開いている状態だ。
こしろの「あおーん、あおーん」という声がどんどん大きくなる。そのたびに聞こえてきたのは「痛い!痛い!」という叫び
私はハッとした。確かに、のどが痛いであろうその鳴き方。小さな体を酷使して鳴いているのだ。
ひとしきり鳴いた後、ペットドアをガシガシとかく音が聞こえて
「おかさーん!」という心の叫びが聞こえてくる。そのあと、
「もういやだ、痛い」と聞こえた後に、激しく「あおーん!あおーん!」と声を張り上げるこしろ。
こしろは心では嫌だと思っているのに、体の本能の動きに逆らえない状態になっているのだと唐突に気が付く。
「たすけて!」
私はそのメッセージを受け取り、布団から飛び出した。
なんてことだろうか。本能は残酷だ。こしろはオスを求めて鳴いていない。むしろ意味が分からず鳴いているのだろう。無理もない。ほとんど初めての発情だし、生まれてからまだ半年くらいなのだから。
人間の子供だって、はじめから子供がほしい思って、異性に興味を持つわけではない。あとからあとから、感情が追いついてくる。段々と熟して、経験して、やっと子供が欲しいと思うようになる人も出てくる。本能のシステムとしては子供を作ることが目的のシステムだとしても。最初の芽生えは、ただの本能の暴走に過ぎない。
猫なら、本能の暴走は人間よりもダイレクトだろうし、その衝動性は強いものなのだろう。自分を削ってでも子孫繁栄のために突っ走っていく。そういう風にプログラミングされているのだから。

発情している状態もかわいいなんて、流暢な気持ちでいたことが悔やまれる。こんなに苦しい思いをしていたなんて、想像できなかった。
私は虫が落ちるであろう、2週間を待たずに動物病院に行き、避妊手術の予約をした。春先ということもあり、予定は1か月後となったが、大声で泣く時間を少しでも減らせたらと思っている。

子孫繁栄はとても大切なシステムだと思う。私たち人間も野生動物もこのシステムのおかげで、繫栄しているのだから。動物の去勢避妊は人間のエゴだという人もいる。だけど、本能の営みはきっと生易しいものではないのだろう。だからこそ、人間界でも性犯罪は消えないし、大人の世界界隈も廃れたりはしない。必要なものだからこそ、人も動物もそのシステムの中で生きるしかない。
でもせめて、私の手元にいる猫や犬たちは、毎日が健やかで、温かく、おなかいっぱいで、幸せであってほしいし、その日が一日でも長く続いてほしい。
のどが痛くなるまで鳴いたり、次の波が来ることを予見して助けて!と叫ばなくてもいいようにしてあげたいと思う。

こしろに「おかあさん」と思われているのが地味にうれしかったが、私はこの家の中の人間全員に「お母さん」と呼ばれているので、それを記憶していたのだろう。賢い。本当に猫も犬も賢い。でも、私がお母さんだよ。飼うと決めた日からあなたのお母さんになると決めたのだから。

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