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身体の不調で悩んだら、自分の病気を探り、自分の治療を見つける

「あなたの体のボスは、あなたやねんから。」

『くもをさがす』 西 加奈子(著)(河出書房新社)p.98より引用

自分で選択する。

ある感染症にかかった後、強烈な倦怠感などの症状に長年悩まされた経験があります。なんとか自分の病気の正体(診断)を知り、自分に合う治療を見つけました。なかなかよくならない状態から脱出したきっかけは、自分の考えを変え、行動を変えたことです。ポイントは3つ。

・自分の身体のことは、自分が責任をもって選択する
・身体の不調で悩んだら、身体疾患も疑う(選択肢を狭めない)
・自分の病気を探り、自分の治療を見つける(自分にとっての正解を選ぶ)

私が経験した強烈な倦怠感は、
気持ちの問題でもなく、
メンタル疾患でもなく、
身体疾患の症状だったのです。

神経系疾患の一つ、ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)でした。診断されたから解決とはいきません。誰にでも効くような標準的な治療法が確立されていないので、自分に合う治療を見つける必要がありました。(参考:大阪府/筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)について

以下、私が長年苦しんだ謎の体調不良から脱出したポイントを、最近読んだ書籍とともに「失敗から学んだ教訓」としてまとめてみました。

自分の身体のことは、自分が責任をもって選択する

自分のボスは自分

「もちろん。決めるのはカナコやで。」
サラは、私の目をまっすぐ見つめていた。
「あなたの体のボスは、あなたやねんから。」

『くもをさがす』 西 加奈子(著)(河出書房新社)p.98より引用

(大きな病気など、)判断が難しいことに出会ったら、独りよがりな決断は禁物。信頼できる人から助言や意見をもらうことはぜったい必要です。

しかし、人から言われることに従っていればよい、ではなく、最後は自分で決めることがとても大事。『くもをさがす』を読んでいてハッとしました。

自分のすべてを、他人が知ることはできません。自分の身体がどうなっても、他の誰かが責任をとってくれるわけではありません。「自分のボスは自分」です。

今の自分は、これまでの選択の結果。未来の自分は、今の選択で変えていく

私に現実を突きつけた一節を紹介します。病気とのつきあいに照らして読むと、ドキっとしました。

 たとえ望んでいないような現実だとしても、そこに連れてきたのは紛れもなくあなた自身である。
 あるひとつの意思決定が決定的にいまの自分をつくっているかというと、そうではない。膨大な意思決定”群“の結果が、いまの自分である。

『降伏論 「できない自分」を受け入れる』 高森 勇旗(著)(日経BP)p.55-56より引用

病気になったのは自分の選択ではない、と私は強く思います。

治すのが難しい病気になったとしても、自分のせいではないです(自分だけが原因ではない意味)。自分で予防できることには限りがあり、他にも原因があるからです。

しかし(厳しい言い方をすると、)
自分が病気になった後は、自分の選択です。

・どこに行き(どこの病院の何科に行くか、など)
・何をするか(どんな治療を受け、どんな療養生活を送るか、セルフケアをどう取り入れるか、生活習慣をどう変えるか、活動量をどう上げていくか、など)

選択・行動の積み重ねが、自分の身体を変えていきます。目に見える結果が出るかは別にして。

(※地域の事情や特殊な病気などの理由で、適切な医療機関にアクセスしづらいことがあります。費用面で選択できない治療もあるでしょう。それでも今の自分で選べるベストの治療を求めるべき、と個人的に思います)

病気については、とくに自己責任が問われるように感じます。指示されたように感じても、最終的に治療を選択するのは患者です。

なかなか体調が改善しないとき、「よくならないのは、あなた(=患者)のせい」「治す気あるの?」を意味する言葉をかけられたことがあります。


身体の不調(倦怠感など)で悩んだら、身体疾患も疑う

<私の教訓>
・体調不良で(仕事を休むなど、)生活に支障が出たら、治すべき病気ととらえて、自分の身体に向き合う
・勝手に自己判断しない
・「自分の病気は何か」と「自分に合う治療」をあきらめずに見つける

わけのわからない倦怠感。例えば、
・異様に身体がだるい。100kgくらいの重りを背負ったくらい身体が重い(重力感と言ってもいい)
・ひどいとトイレまで歩けない。なんとか這って行く
・翌朝に疲れが全然取れていない
・いくら休んでも、いくら寝ても、なかなか良くならない

(医師も含めて)誰かに相談して私が言われたことは3つに分けられます。
私が言われた回数の順に、
(1)気持ちの問題
(2)メンタル疾患
(3)(メンタル以外の)身体疾患

(1)倦怠感は気持ちの問題と言われる

病気扱いされないケースです。想定しておいてもよいでしょう。

<私のエピソード>
高熱から回復して出勤すると、ひどい倦怠感で仕事になりません。座っていられないし、画面の字も頭に入りません。
私「倦怠感がひどいので、病院に行きます。早退させてください」
上司「倦怠感?疲れは誰にでもある。早退なんて必要ないんじゃない?気持ちの問題だろ?違うか??」
私「仕事にならないので、とにかく帰ります」と強く言うと、上司は何も返さず。黙認と判断して早退しました。

【反省】相手が信頼しやすい情報を使うべき
「病気です」と説明するために、公的機関の資料を使えば話が通じやすかったと思います。

例:東京都 保健医療局/新型コロナウイルス感染症 企業向け後遺症リーフレットhttps://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kansen/corona_portal/link/kouisyou.html#cmsreaflet

◆言葉の選択は大切
言葉が相手に生み出すイメージも無視できません。
・疲労感
・だるさ
・全身倦怠感
などは、言葉のイメージで軽く思われるのかもしれません。疲労なんて誰でもありますから。体調管理は仕事の一部なので「自己管理」と言う人の気持ちもある程度わかります。

【反省】
倦怠感など、誤解を受けやすい症状を説明する際、相手が「病気だな…」と思うような言い方を工夫するとよいと思います。
「〇〇の(病気の)症状が出ています」「すぐに病院で診てもらう必要があります」、病気を説明したサイトを指差しながら説明する、など。

(2)倦怠感はメンタル疾患と判断されがち

長く続く「倦怠感」を訴えると、メンタル疾患を指摘されることがよくありました。

「倦怠感=メンタル疾患」と書いてある情報も多いと感じます。実際私も、自分でメンタル疾患を疑って精神科を受診。あるメンタル疾患の病名を言われ、治療を受けました。

倦怠感はメンタル疾患の典型的な症状の一つ。下記に引用する「うつ」の本では、症状の最初に載っているくらいです。

症状01 身体がとんでもなく重い(全身倦怠感)

『マンガでわかる!うつの人が見ている世界』大野 裕、 NPO法人地域精神保健福祉機構(コンボ) (監修)(文響社)p.20より引用

◆回復すれば、診断や治療は何でもOK
メンタル疾患の治療でうまく回復すれば「それでOK」と私は思います。診断名は関係なく、自分の身体と仕事、生活が回復すればよいので。

ただ、メンタル疾患の治療だけでは回復しないケースがあることを忘れてはなりません。身体の病気も疑って内科などで診察や検査を受けることを、個人的にはオススメします。

私の経験上、メンタル疾患の治療は思ったより長くかかります。なので、思うような効果が出ないまま年月を費やすかもしれません。

◆「メンタル疾患の治療」か「身体疾患の治療」か
治療効果の観点で分けて考えてみます。
[1]メンタル疾患の治療だけで回復
[2]メンタル疾患の治療に、身体疾患の治療も追加要
[3]身体疾患の治療に切り替える必要がある

[1]メンタル疾患の治療だけで回復
メンタルヘルス系のウェブサイトや書籍でよく紹介されているケースです。簡単に見つかると思いますので、ここでは触れません。

治るなら何でもOKです。

[2]メンタル疾患の治療に、身体疾患の治療も追加要
どちらか先になったかは不明ですが、両方の治療が必要なケースです。この場合メンタル疾患の治療だけを続けていても、なかなか良くならないと思います。私も経験があります。

精神科の主治医に身体の病気を相談したり、自分から内科などを受診したりする必要があります。よほど運がよくないと、自分から動かない限り何も変わらないかもしれません。

[3]身体疾患の治療に切り替える必要がある
実は身体疾患だったケースです。身体の問題を考えない治療を続けていても良くなりません。上記[2]と同じく、自分から変えていく必要があります。

コロナ後遺症では、精神科の治療では改善せずコロナ後遺症外来で治療を受けるケースがあるそうです。コロナ後遺症を数多く診療されている医師の著書から引用します。

…(前略)… いずれもこれまでの感染症や、慢性疾患などの診断や処方では改善をみることがなかった。…(中略)…
私の元に受診した少なくない患者たちは、心療内科や精神科を受診し投薬を受けていたが、改善がみられない人だった。

『新型コロナ後遺症に向き合う』和田 邦雄、中川 学 (著)(鳥影社)p.40より引用


(3)倦怠感は身体疾患の場合がある。勝手な自己診断は禁物

ネットで検索すると、「がん」をはじめ色々な身体疾患で倦怠感が出ることがわかります。とはいえ、勝手な自己診断は禁物です。

信頼できる医療機関を見つけて、適切な診断と自分にあった治療を得ることが大切と思います。(実際は非常に難しい課題ですが…)

私がつきあっているME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)の代表的な症状に倦怠感があります。患者の著書から引用してみます。(私が経験した倦怠感に似ています)

高熱やインフルエンザより もっとひどい…
40度くらいの高熱の状態で 何キロも猛ダッシュした直後みたい…
その状態が ずっと続いているみたい…

『ある日突然、慢性疲労症候群になりました。』ゆらり(著)(合同出版)p.17より文字を引用(改行は私が編集)

『ある日突然、慢性疲労症候群になりました。』は、症状や困りごとがマンガでイメージしやすいです。ME/CFSやコロナ後遺症で言われる「倦怠感」や「ブレインフォグ」がどんな感じなのかを知るには最適と思います。


身体疾患を「気持ちの問題」や「心因性」と決めつけると困る理由(私の患者経験より)

[1]患者に必要な治療が手遅れになる
[2]心のストレスの話が優先される
[3]心因性の言葉が偏見を誘発する

[1]患者に必要な治療が手遅れになる
身体の問題は、身体の悪い所を治さねば解決しません。

私の場合、メンタルの問題と自分で決めつけたこともあり、あるレベルから回復しなくなりました。そこでメンタルの問題を切り離して考える選択をした結果、やっとME/CFSの診断につながりました。ME/CFSとしての治療はその後始まったので、手遅れ感は否めません。

(私の患者経験では、)
身体からメンタルの診療に変えるのは、早いし比較的楽です。
一方、
メンタルから身体の診療に変えるのは、時間(というより月数)がかかるし、大変です。例えば、薬をやめるときは医師の指導のもと徐々に減らしていく必要がありました。患者から動かないと、変えるのが非常に難しいと実感します。

[2]心のストレスの話が優先される
「倦怠感」や「疲れやすい」などの症状が「心のストレスの問題」とされたため、心理的カウンセリングに回されたことがあります。

「心身相関」を指摘して、本人に心の問題を整理させたい「お気持ち」はある程度理解できます。ただ私の場合、心理的なものでは改善しませんでした。私には合わなかったようです。

もちろん、「心の問題」「心のストレス」が解決できて、身体や生活が改善すれば、それでOKです。

※心理職の方は難治性疾患や慢性疾患の患者の問題解決を真にサポートしている、と私は思っています。

[3]心因性の言葉が偏見を誘発する
「心因性=メンタルが弱い」イメージを持つ人がいるようです。

心因性でつらい症状があると判断されると、「メンタルが弱すぎる」偏見を持たれ、心ない言葉も幾度ともらいました。かえってメンタルが強くなったと実感します。

倦怠感で動けないと、「怠けている」「サボリ」の印象をもたれたこともあります。通院なんてしなくていい、と指導を受けたこともあります。身体に問題があって、治療を必要としているのに。

心因性と言って安心するのは「言った人のみ」と感じます。もし患者の問題がすべて解決して患者が安心するなら、「心因性と言えば患者が安心する」と言うのも少し理解できますが。実態はどうでしょう?

また、「心因性」で片づけると、問題解決に向けたコミュニケーションが閉ざされる危険性を指摘している資料もあります。(下記は小児に限らない話だと私は考えます)

当事者にとって「心因性」という説明はしばしば「自分の訴えを全否定する」と受け取られる恐れがある.訴えを傾聴し,共感して対応し,十分な信頼関係を築いたうえで元の生活に戻していけるような助言を行っていく.

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第2.0版」(pdf) (第10章小児へのアプローチ)p.47
より引用(掲載サイト: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00402.html

自分の病気を探り、自分の治療を見つける

<私の教訓>
なかなか改善しなかったら、「別の病気の可能性」「自分に合う治療」を考える。

私はわけのわからない倦怠感に悩まされてから、人に言われるがまま、治療やセルフケアを続けてしまいました。病気や治療の情報を本気で調べることなしに。結果、自分の病気の正体もわからないまま、回復に非常に長い年月を費やしています。

何か月経っても調子がよくならないと感じたとき、下記2点を頭に入れておきたいです。
(1)別の病気の可能性がないか、自分の病気を探る
(2)自分に合う治療(自分の治療)を見つける

(1)別の病気の可能性がないか、自分の病気を探る

病名がわかるまで あきらめずに病院を探した方がいいよ

『ある日突然、慢性疲労症候群になりました』 ゆらり (著)(合同出版)p.43より引用(職場の上司が著者にアドバイスした箇所)

【私の経験】ME/CFSの症状発生から診断まで約12年
私は、ひどい風邪のような感染症になった後、ME/CFS(筋痛背脳脊髄炎/慢性疲労症候群)の症状に苦しみ始めました。確定診断まで約12年。長くかかった理由は、ME/CFSという病気の存在を単に「知らなかった」からです。

◆気軽な相談が解決のヒントになった
自分の病気を見つけたきっかけは、薬局で薬剤師さんと雑談するなかで、体調を気軽に相談できたことです。

私「なかなか調子がよくならないんですよね。だるさは変わらないし、急に疲れが出ることがあるんです…」
薬剤師「だったら、〇〇を試してみたら?」

自分でいろいろ調べた結果、ME/CFSの存在を知りました。
通院していた精神科の先生に相談し、ME/CFSを診断できる病院を受診。あっさりME/CFSと診断されました。

客観的に自分を見てくれる人に、気軽に相談できたことが私を救いました。

(2)自分に合う治療(自分の治療)を見つける

治療をあきらめるのはもったいないです。

万人に効く標準的な治療がない病気では、自分に合う治療を粘り強く探さねばなりません。自分に合う治療に出会うのが大変な場合がありますが、希望を持ち続けることが自分を助けます。

【私の経験】私にとっての治療(*)まで、診断から約10年
ME/CFS診断後の治療のおかげで、ある程度改善しましたが、思うような回復にはいたりません。体調を大きく崩すこともたびたびでした。

振り返ると、治療が自分に合っていなかったと痛感しています。また、「確立された治療法はない」の情報に甘えて、現状維持をしたようです。(自分のボスを自分にしなかった…)

診断から10年くらい経ったある日、症状を相談しているときにある治療を教えてもらえました。「治療法で他の選択肢は?私に試せそうなものは?」と気軽に聞いたことも功を奏したようです。

教えられた治療を受けることにしました。受け始めてもなかなか改善がみられませんでしたが、粘り強く継続。通院回数を数えなくなったくらいから急によくなっていき、自分では寛解と言えるレベルに回復しました。

(*)私にとっての治療:私の体感や生活がよくなったと感じる効果があった治療です。医師の認識とは異なるかもしれません。

つきあっている病気がなかなかよくならないとき、

・自分の病気を探る
・自分に合う治療(自分の治療)を見つける

2つの選択が、私を改善に導きました。

「治療をあきらめるな! 情報を集めよう。いろいろ試して確認しよう」と、過去の私に伝えたいです。


(注)一患者による記事です。病気の診断や治療については、信頼できる医師の診断を受け、自分に合う治療を受けることをオススメします。

#あの選択をしたから


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