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映画「初恋」


1968年

日本は学生運動真っ只中。
機動隊が角材を振り回し、学生達は地にへばりつきながら自由と尊厳を求めていた。

秒針の音と軽やかなアコギが教室の机にしがみつく、みすず(宮崎あおい)の声に寄り添う。

「心の傷に時効はない。」

この作品は当時、日本で起きた「府中三億円強奪事件」が題材となる。
1968年12月10日、東芝電気工場社員の給与、現金三億円が輸送車ごと強奪される。
誰も傷つけられる事なく。
捜査費用は7年で九億に登るというから驚きだ。日本犯罪史では20年の時効が成立し、未だ未解決事件として扱われる。(wiki)

母に捨てられ、叔母の家で居候生活をしながら、居心地の悪い高校生活を送っていた主人公みすずは、生き別れの兄に貰ったマッチのラベルを頼りに、新宿2丁目JAZZ BAR「B」を訪れる。
入口で立ち往生する学生服のみすずに声をかける常連のユカ。
暗がりを抜けた先、薄暗い光を放つその場所はひっそりと、若者と呑んだくれで賑わっていた。
バーカウンターを抜けた奥のテーブル席へと通されるみすず。
「可愛い女子高生ナンパしてきたよ」
ユカは楽しげにみすずを紹介するのだった。

キーとなるのは単車とランボーの詩集であろうか。はたまた独裁と民主の抗争を頭で勝負すると謳える、岸(小出恵介)の貪欲な希望だろうか。

筆者としてはまだ若く、これからの宮崎あおい、柄本佑がキャスティングされている事、そして宮崎あおい実の兄、宮崎将が兄役として登場するのが面白い。
これがまたイケメンなのである…
その後「ユリイカ」でも兄妹キャスティングされているが。
柄本佑は、直近「火口のふたり」の体当たりぶりがよく「ラストコーション(R18)」のトニーレオンもびっくりのエロス作品で愛おしい。
話が脱線したが「初恋」ではそういったエロスという部分より、もっと純粋で清い何かを描こうとしたのかと思う。なにせ、高校生のみすずと東大生の岸なのだから。

みすずのミニスカート姿にはグッとくるが、(当時の流行ファッションを再現する為?読者はツイッギーで検索)筆者は単車を覚える、みすずのツナギ姿や柏田モータース店主役、藤村俊二も着用しているBarbourのアウターがよいのだ。Barbourといえばイギリス王室御用達の100年の歴史を持つアウトドアブランドであるが、それを着用してチャリのパンク修理をする宮崎あおいがよいのである。
後半にかけて藤村俊二のスタイリングがハイセンス化してくるのも、主人公より目立っている様でニヤついてしまう。
とはいえ、時代はアングラ劇場が出てくる程であるから、どの登場人物もハイセンスで目が離せない。

世の中の流れを追う様に、ラジオからは首都高速道路開通の知らせと共に、ジャッキー吉川とブルーコメッツによる「ブルーシャトウ」が流れるのだが、これが後半、岸とみすずが落ち合う事となるラブホ街で「ブルーシャトー」というラブホのネオン看板として登場する。筆者は吹き出す程に笑えたが、読者の皆さんはどうだろう。監督の遊び心が垣間見えるのでよ〜く観察してみてほしい。

時計とジッポの蓋が音をたてる中、
刻一刻と彼等が共に過ごす時間は短くなる。
ヌードスタジオの看板を背に、岸を想い微笑む17歳のみすずと、
「17歳、まだやや分物にかけるか」
と、ハイライトを手に想いを伝えない岸。

雨天決行。
黒のセドリックに辿り着き、あどけない女子高生は三億円強奪の任務を終えるのである。
岸の腕時計を車内のバックミラーにはめる
ミラー越しにうつるみすずの瞳は、真っ直ぐにゆれる。
泣くことのない彼女にかわって、地面に叩きつけるように沢山の雨水が降り注ぐ。

もう10年以上も前にみた作品だが、
ここで静かにピアノの伴奏が入る。
元ちとせの「青のレクイエム」だ。

原作と映画のラストは違うが、それぞれによさがあり、ロマンと現実がみえ隠れする。観た人達がそれぞれ何かを感じ、持ち帰るといい。

あの時代、権力に勝るものは何か。
三億円事件だけが、学生達の光、一つの希望になった事は事実ではないかと筆者は思う。
出来る事ならあの時代を生きてみたかったとさえ願うのだ。

筆者は府中刑務所を訪れた事がある。
年に1度だけ受刑者が造った家具等の作品が販売され、刑務所内部が一般公開されるからだ。余談だがマークシートで性格診断も出来る。

受刑者が造った作品はあまりにも美しいものがあり、それはその人の性格であったり不器用差さえうかがえる。
どんな気持ちだろうか。
時より考える。
誰でもすぐ隣に、道の外れは存在する。
それは見えずとも、忍び寄る。
一瞬にして転落し、踏みこえる。
踏み超えて彷徨っている事にすら気づかないであろう。
今この時代だからこそ、特に強く感じる。
人というのは自分には才能も財力もない「無」という壁を登れなくなった時、その場で奪い合いを始める。
それが戦争という誤ちの繰り返しをうむ。

「俺は角材や石ではなく、頭を使って国家権力に挑む」

岸は今、どこにいるのか。



書くにあたり影響を受けた音楽

"青のレクイエム" 元ちとせ
"暫し空に祈りて" 高橋洋子
"Good Gift =3EM31=" 鷺巣詩郎
"So What" MilesDavis (feat.JOHN COLTRANE&Cannon ball Adderley&Bill Evans)

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