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『もののけ祭りのようかい屋台』①〜暗黒労働おとぎ話〜

※ 暗黒労働おとぎ話とは:あまりに酷いため、ブラック企業の実態をありのままに書けず、物語にして伝える試み



お江戸のあちこちで「食のお祭り」が開催されておりました。

おいしいたべものを全国からあつめたお祭りです。

いっしゅん法師(日雇いバイトの一瞬奉仕)はいっとき、あちこちのたべものの屋台を手伝っておりましたが、どうやらお祭りには

「にんげんのお祭り」と

「もののけのお祭り」があるということがわかってきました。

この2つのお祭りは見た目はそっくりなので、よぉぉく観察しないと、ふつうの人には違いがわからないのですが「もののけ祭りのようかい屋台」を、幾度も見てきたいっしゅん法師には、見分けがつくようになったのでした。

「にんげんのお祭り」は、食べ物を汚くあつかいませんし、店員も怒鳴ったり、人をおどしたり、ウソをついたりしません。

「もののけのお祭り」は、食べ物をとても汚くあつかいます。

平気でウソをつきます。

手伝いにきたアルバイトやお客をだますのも、お手のものです。

それでは、いっしゅん法師が見てきた、
世にも恐ろしい「もののけ祭りのようかい屋台」の数々のものがたりの 

はじまり、はじまり~。


【嘘つき大狸のかき鍋屋台】

いっしゅん法師はある時、紹介された大狸のかき鍋屋さんを手伝っておりました。

「韓国産かき」と書いてあるダンボールがテントに中に、たくさん積んでありました。

そこから大狸が、かきを取り出して鍋にぽんぽん入れていました。

でも屋台の大きな看板には「広島県産のかき鍋」と書いてあったのです。

大狸は「今回は広島から、かきが取り寄せられなかったんだよ」と言いました。

「まあ、どうせ味にたいした違いはないんだ。わはは」と平然とした顔つきですましておりました。

つぎの日には別の屋台で狸一族が「北海道のカニ鍋」といって、別の産地のカニをたらふく使っていまいました。

いっしゅん法師は、それからというものの「食のお祭り」のたべものの産地を信じなくなりました。


【から傘お化けの虫ダレ牛串屋台】

いっしゅん法師はあるとき、からかさお化けの牛串屋台を手伝うことになりました。

から傘お化けは、見るからにガラの悪そうな、汚いかっこうの妖怪でした。

から傘お化けが牛タン串にかける塩ダレの壺を持ってきました。

すると壺の中に 丸・三角・だ円の形をした 黒い何か が入っておりました。

いっしゅん法師が塩ダレをかき回して見てみると、

丸は、かなぶん。

三角は蛾。

だ円は、よくわからない虫でした。

いっしゅん法師はおどろいて
「きたないので、中身を全部とりかえよう!」と思いました。

そこで、から傘お化けにそのことを話しましたが、から傘お化けは
「てめえ、勝手なことすんじゃねえぞ。絶対だぞ」と、いきりたち、塩ダレをそのまま使えと言いました。

しかし、いっしゅん法師は「虫の足が牛タン串についたら気色わるいぞ」と思い、
から傘お化けがタバコを吸いにいっているうちに、そぉっと虫を紙に包んで捨てました。

それからというもの、いっしゅん法師は、「見るからにガラの悪そうな店員」のいる屋台は絶対にさけるようになりました。


【カワウソのずぶ濡れポテト】

から傘お化けの牛串屋のとなりでは、から傘お化けの友だちのカワウソのおやじが「からあげ」「フライドポテト」を売っておりました。

妖怪たちの日頃の行いが悪いからでしょう。

とつぜん、はげしい夕立がやってきました。

雨がテントにふきつけ、からあげもポテトも雨ですっかりずぶ濡れです。

「あ~あ、今日は店じまいだ」

カワウソのおやじはおしゃべりでしたので、いっしゅん法師が話しかけてもいないのに、ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ、勝手におしゃべりしていました。

雨に濡れたからあげとポテトを、大事そうにビニールぶくろに包んで、発泡スチロールの箱にいれたカワウソのおやじは

「君はまだ、この世界の本当の怖さを知らない」と言いながら、 ふふふ と笑いました。

ごみ箱に捨てなかったこと。

ていねいにビニール袋にくるんで、食品用の発泡スチロールの箱に入れなおしたこと。

あしたもお祭りがあること。

「どんなものでも揚げかえせば、なにをしてもいいのか」

いっしゅん法師は、カワウソのおやじの言った「この世界の怖さ」を知ってしまって、思わず身ぶるいをしました。

でも「もののけの世界」では、こういうことは普通で、めずらしくもないということです。

続く

不運な人を助けるための活動をしています。フィールドワークで現地を訪ね、取材して記事にします。クオリティの高い記事を提供出来るように心がけています。