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『三枚の黃札(イエローカード )』〜暗黒労働おとぎ話〜

※暗黒労働おとぎ話とは:あまりに酷いため、ブラック企業の実態をありのままに書けず、物語にして伝える試み


むかしむかし。
とある大きな展示場のお祭りに、一軒のハンバーガー屋台がありました。

ある日、いっしゅん法師と若者が1日だけの単発バイトで働くことになりました。

いっしゅん法師は祈りました。

「かみさま、どうか今日の店長はヤクザ・チンピラの類ではありませんように。」

こうした屋台には時々恐ろしい怪物が出没するので、いっしゅん法師は毎回必ずお祈りをしました。

けれども残念なことに 店長はチンピラな青鬼だったのでした。

青鬼は「3枚の黄札(イエローカード)」を持っていました。

そのお札は何が起きても「赤札(レッドカード)」で出店禁止、即退場になるのを誤魔化して、「警告」止まりにしてくれる、ふしぎなふしぎなお札でした。

青鬼は、さっそく仕事にとりかかりました。

「おい、お前ら、急いでパンを切っておけ!」

いっしゅん法師は聞きました。

「テーブルと、まな板はどこですか?」

青鬼は黙って、たくさんパンが入っていたダンボールの底を指さしました。

底には土がついています。

いっしゅん法師と若者は「鬼畜だっ!」と思いましたが、お客に土を食わせるわけにはいかないので、頭をひねって考えて、パンが入っていたビニールを敷いて、その上でパンを切ることにしました。

すると、どこからか保健所の人がやってきました。

「衛生面には気をつけていますか?チェックリストに記入しましたか?」

青鬼は黄札を1枚取り出して、大きな声で
「はい、大丈夫!バッチリです!」
と言いました。

保健所の人は、何も言わずに立ち去りました。

しばらくして、ポツポツとお客がやってきました。

最初のうちは数人でしたが、お昼になるにつれ、あっという間に20人、30人の行列になり、とうとう50人の行列になってしまいました。

肉を焼くのが青鬼の仕事でしたが、焦って火を強くしても、外はまっ黒黒こげで、中は生焼け真っ赤っ赤のハンバーグしかできません。それでも青鬼は、なんでもかんでもパンに挟んで、お客に渡しておりました。

すると、それに気がついたお客が「生焼けじゃね?」と、文句を言いにきました。

青鬼は、さっと不思議な黄札を1枚取り出しました。

すると不思議なことにお客は「まあ、大丈夫かもなあ」と、あまり気にせず、周りは黒焦げ、中は生焼けのハンバーグをおとなしく食べてしまったのでした。

こんな青鬼のお店ですが、皆は"肉"という看板につられてやってきます。

なかなか行列はなくなりません。

青鬼はだんだんと、いっしゅん法師と若者に意味もなく八つ当たりするようになってきました。

ハンバーガーの他に、大きな牛串も売っておりました。

青鬼が横から乱暴に油を投げかけると60センチの火柱が上がり、煙がもくもくもくもくとあがりました。

あやうく、いっしゅん法師も腕をまるごと焼かれるところでしたが、半狂乱の青鬼は、なぜかニヤニヤ笑っていました。

すると、どこからか、消防の見回りの人がやってきました。

青鬼は、ふしぎな黄札を一枚取り出しました。

「今、大きく炎があがりませんでしたか?」

青鬼は大きな声でいいました。
「いえ、大丈夫!気のせいですよ!」

消防の人は、何も言わずに立ち去りました。

こうして青鬼は「三枚の黄札」のおかげで、施設の人から怒られることも、お客にクレームを言われることもなく、助かりました。


いっしゅん法師は、すんでのところで腕を焼かれず、命からがらやりとげましたが、この「三枚の黄札」で見過ごされた不正を、だんだん誰かに話したくなりました。

そこで仕事が終わってから、展示場の事務所に電話して、見たことを全部話しました。

不衛生なパンのこと、屋内の会場でふき上がった大きな火柱のこと・・・。

けれども展示場の管理人は「イベントの主催者に言ってください」とだけ言って、気にもかけませんでした。
あの火柱がテントに燃えうつったら大変なことになっていたのに、ふしぎなことに、まるで危機感がないのです。

「三枚の黄札」の効果は絶大だったのでしょう。

こうして、青鬼は今日もどこかで、こんなやり方で大もうけをしているのでした。

おしまい。

元ネタ: 昔ばなし『三枚のお札』


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