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愛と勇気を溢さない夜

先日、急に友人から
飲みに行こう、サシで。
と誘われた。

私たちは同じサークルに所属していて、
入学した頃から仲が良かったと思う。
持たず持たれず、そういう関係が心地よかった。

そんな彼女は最近、"仲良し"とか"隠し事なし"とか
そういうことに強くこだわるようになった。
彼女がわたしを必要として、
仲良くしたいと思ってくれていることには
嬉しくも思うが、それが重荷ともなっていた。

なんでも全部話す、というのは難しいことで、
あのことはこの子に話せるけど、この事は、
ということが私はよくある。
その度に、深い友達が少ないのかと不安になる。

誘われた夜は、偶然お互い空いていたため
早速飲みに行った。
その夜の彼女は今まで以上に、"深い仲"に
うるさかった。
全部話すから。という彼女は、交換条件として、
私も全部話せ、と言ってきた。
勝手だな、と思った。誰も頼んでない、と。

だけど、彼女は、
私とあと1人しか親しい友達がいない、と言う。
あなたには自分以外にも友達が
たくさんいるかもしれないけど、そう言う彼女の
抱えている気持ちは、私も少し分かる気がした。

私は出来るだけ、最近の気持ちとか、
出来事とかを話した。できるだけ。

もう言うことない?と何度も不安そうに
聞いてくる彼女に、ないって、と笑いながら
何度も小さな嘘をついた。ごめんね。

当の本人である彼女は、話したいことが2つある
と言い、1つ目はポッケから、ポンと、
タバコの箱を取り出して、これ、と言った。
まあ予想外ではないことだったので、へえ、と
軽く受け入れた。

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だけど、2つ目の話題は何もなく、はや3軒目。
痺れを切らし、何?と催促をした。
それでも渋る彼女の姿をみて、なぜか、ふと、
予想外というか、直感みたいなものが働いた。

私そんなに繊細な人間じゃないよ。
地元にも周りにもいろんな友人がいる。
家庭環境も、病気も、性的な面も。

その直感や予想を信じて、彼女に言葉をかけた。
ほんとに?と聞く彼女に、なに、と
軽く笑って見せると、彼女はチューハイを
一気に飲み干し、私の目を強く見つめて言った。

私の、好きになる相手は、女の子。

直感が当たった。
彼女が信頼とか、強い友情に固執する理由が、
なんとなくわかった。

今までも彼女は私に自分の秘密や、
しんどいことを打ち明けてくれていたが、
彼女はずっと昔から、本当に自分の中だけに
しまっていたジェンダーの話を、
ひとつひとつ私に話してくれた。
私もその彼女の勇気を溢さないように、
ひとつひとつの言葉を拾うように聞いた。

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この小さな街で、彼女が堂々と恋愛する事は
難しい。それは2年半しかいない私にも分かる。
そんな街で彼女は、10年以上もの間、
自分の気持ちと世間体との間で悩んでいた。
彼女は卒業後、この街を出て、
堂々と恋愛したい、と言った。

どうかせめて、その街では、
彼女が堂々と好きな人や恋愛の話を
できますように。
そして彼女が、私以上の、
信頼と愛を抱きしめてくれるような人達に、
たくさん出会えますように。

もちろん私も大好きだよ。
この愛を伝えることも、あなたからの愛を
抱えることも、とても下手だけど、
精一杯の力で、この街でのあなたの
拠り所になりたいと思う。

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