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マイキー・ウォルシュ著 自伝『ジプシーと呼ばれた少年』

 イギリスに暮らすロマ族に生まれた男性の少年期を描いた自伝。

ジプシーと呼ばれた少年

 この本を手に取るまで私はロマ族をよく知らなかった。欧州ドラマや映画に時々出てくる移民と同じように思っていた。しかし、蓋を開けてみると予想以上だった。

 ロマ族の考え方や仕来たりなどの具体的な描写を読み、大変申し訳ないのだが、正直、ロマ族に生まれなくて良かったとすら思ってしまった。恐らく、筆者がそれだけロマ族の文化に対しての嫌悪感や違和感などを抱えておりそれが直に伝わってしまったのだろう。

 確かに幼少期からの筆者の父親からの虐待を考えればそれは当然だろう。ロマ族の文化や社会では男性は暴力的な強さだけが重要視されていたようだった。特に筆者の父親にはその傾向がとても強く、穏やかで繊細な筆者が一族中では異端の存在だった。だからと言って、継続的な暴力や罵りの言葉を浴びせ続けて良いわけではない。

 子供を学校へは行かせない。イギリス在住だが、イギリス人ともかかわってはいけない。女性は10代で結婚して、働いてはいない。他にも様々なロマ族の慣習を知って、私は恐怖を感じた。字が読めないのが当たり前だったり、何の学もなく、文明国で暮らすことはとても危険な事のように思える。それ故に外の社会とは分断して彼らだけの世界から出ないようにしているのだろう。

 そして、ロマ族以外の人間に対して何をしてもいいという感覚。自らの民族を誇りを持つのもいいし、文化を継承するのも構わないが、それは自ら差別の海に身を投じているようにしか思えない。

 たまに思うことがあるのは、知ってしまったが故に差別が生まれるという事。知らなければ偏見や差別を生まないことがある。とても難しい問題だし、私はまだそこへの向き合い方は見出せないでいる。とても悲しいことだ。

 この本で筆者が父親から受けた虐待の様子とその心理描写が辛くて、ページが進まなくなることが多々あった。純粋で優しい少年が踏み躙られているのがとても辛い。ただ、これも現実で目を背けてはいけない。折角、上げた声から遠ざかってはいけないのだ。この本を読み進めていくのが私の責任なのだと変な義務感すら生まれてしまった。


 散々な感想を書いているが、この本はとても面白い。悲惨な描写も多いが、見たことがない世界にピントを合わせ、違う価値観概念を知ることができる。本を通して違う人生を追体験出来てとても良かった。是非、手に取って読んでほしい書籍である。

https://www.harpercollins.co.jp/hc/books/detail/13474

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