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映画『わたしの見ている世界が全て』 感想

いやーーー良かった。
泣けるとか、感動するとか、そういうわかりやすい感じの展開・結末ではなかったのだけれど
なんだか良い意味で予想を裏切られた。

周囲の人々の仕事・考え方・価値観に触れることで
次女遥風の見ている世界が広がった結果、
彼女自身の世界の見え方に少しずつ変化が生まれていった・・という
堅実で現実的なタイトル回収が非常に面白かった。

すべて丸く収まって解決、とならないのが逆に良い。
過剰な演出は取り入れず、メッセージ性のある主張はあえてしない淡々とした映像の見せ方が、とても心地が良かった。


■印象的だったシーン

「自己責任」がひとつのキーワードだったのかなと思う。
印象的だったのは、次男拓示が30万円を取り戻しに行くシーン。

長男啓介は、ボロボロになって帰ってきた次男拓示を見て「とりあえず座れ」と食卓に着かせ、
事情を把握すると、長女実和子に車を出すことを指示してすぐにお金を取り戻しに行こうとする。

お年玉貯金の30万円を手渡す時、「自分で責任取りなさいよ」と言っていた長女実和子は、
自身の発言と行動の矛盾を知ってか知らずか、当然のように長男啓介の指示に従って一緒に付き添う。

一方次女遥風は、次男拓示の自嘲に対して見るに見かねて
「30万くらい私があんたに投資してあげるよ」
と、彼女なりの救済の方法を彼に提示している。
これも、「何があっても自己責任だからね」という彼女自身の発言と矛盾している。


「次男拓示の自己責任」という言葉を行動で示している人物は、誰一人として居なかった。
全員、次男拓示に起きた出来事を自分事のように扱って、自分事のように解決しようと動く。

最終的に、次男拓示は兄姉が取り戻した30万円を相手に叩き返すという行動を取る。


■大事なのは自己責任?

この一連の流れから思ったのは、

精神的自立のきっかけとなり得るのは、
『自己責任が大事』という観念ではなく
『味方が居る』という安心感

なのではないかなということ。

大事な人であればあるほど、心配する/されるの共依存が心地良く
『自己責任』というわかりやすい『正しさ』を掲げ
「あなたは未熟だ」「自分は未熟だ」という風に
お互いの共依存を無意識に正当化してしまう。

この共依存の状態から抜け出す術は、自分が必要とされなくなってしまうかもしれない恐怖心を乗り越えて
いずれかが「あなたは大丈夫だ」「自分は大丈夫だ」と信じる他無い。

兄姉に付き添いでお金を取り戻しに連れていってもらったり、妹に金銭での救済を提案されたり、という行為は
次男拓示の自尊心が失われるきっかけ足り得たと思う。

一方、「弟を/兄を放っておけない」という態度を
行動で示していることにも他ならない。
それは、彼にとって『味方が居る』という安心感でもあったのだと思う。


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