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日本一のモグラ駅は現実世界に戻る階段だった

 早朝、谷川岳肩の小屋を午前6時に出発
山頂でご来光も見たしあとは下山して列車に乗るだけだ
下山ルートは幾つかあるが最短時間で下山できる西黒尾根を選択した
地図のコースタイムによると3時間ちょっとで
麓のJR土合駅には到着するはず
小屋前で支度を整えてゆっくりと歩き始める
向こうの斜面にはロープウェイの山頂駅が見える
利用するなら別のルート、天神尾根を下らなければならない
列車の発車時刻は9 時52分だ
慌てる事はない
余裕だ
昨日に続いて晴天
岩だらけの西黒尾根には早くも強い日差しがマトモに当たっている
日本屈指の急登だけあって鎖、ロープの連続下降
こういう場所は案外下りの方が危険だ
しかも滑りやすい蛇紋岩
それにしても通過に予想以上の時間がかかってしまった
昨日の炎天下11時間の縦走の疲れもある
しかも週末の土曜日なので登山者がどんどん登ってくる
その度にお互い道を譲り合う
その中の一人に聞かれた
『きょうは何処から』
『ええ、肩の小屋から、あとは下山するだけです』
『余裕だね』
『あはは、そうですね』
樹林帯に入りしばらく歩くと登山口まであと1時間の表示

この時点で8時40分
かなり時間が押してきていることにここで気がついた
少しペースアップする
喉が渇くので水分補給も大事だ
もう少しで登山口到着という所で
水場があった
両手で掬って飲み干す
美味しい
ついでに汗まみれの顔や首も洗う
そして帽子と手拭いも洗う
いやいやこんな事をしている場合ではない
急ごう
9時18分 ついに登山口に到着した
駅まで2.1kmの表示
ここからは舗装道路だがのんびりしてはいられない
イロハ坂のような道を急ぐ
ロープウェイベースプラザ
インフォメーションセンター
駐車場
スノーシェッド
谷間の狭い土地にさまざまな施設が点在している
近道はない
橋を渡る
そして踏切を渡って左に少し歩くと
駅らしき建物が見えてきた
なんとなく駅らしからぬ雰囲気の建物だが
日本一のモグラ駅と書いてある
間違いなく駅だ
階段を登り待合室に入る
切符を買おうと窓口を見ると閉まっている
職員がいる様子もない
どうすればいいのかな?
近くに男性客がいたので聞いてみると
『そこの箱のボタンを押して整理券を取ればいいから』
『ありがとうございます』
券を持って改札の向こうを覗いてみる
『あのー、ホームまで距離があったりします?』
『うん、今から行けばちょうどいい時間かな』
『えっ!あ、ありがとう!』
すぐに改札口を出て左にしばらく進むと
階段が見えてきた
とんでもなく長い階段が続いている
まるで地底都市へ降下していくようだ
それからは走りに走り降りた
西黒尾根の急坂などなんのその
疲れている場合ではない
それにしてもいったい何百段あるのだろう
モグラ駅の意味をここで実感した
ホームに到着したのは3分前
ギリギリで間に合った
列車が滑り込み身体がトンネルの冷気に包まれた
山の時間感覚から現実世界に戻る長い階段だった

#登山 #谷川岳 #モグラ駅 #焦る #階段 #時間感覚

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