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エッセイ「少し歩いていった先に」

  キンコンカンコン。チャイムの音は教師をしていて、いつも傍らにある。時の知らせ。正確な音。授業開始、休み時間、清掃…。

 教室にいるたくさんの人々が一斉に行動を開始する。例えばただいま現代文の授業を担当しているが、話し足りないことがあったとしても、切り上げなくてはならない。 

 少し歩いていった先に学校がある。たまに代休などがあって、平日に家にいたりすると、学び舎のチャイムを耳にする。

 晴れた日は書斎の窓から吾妻の山を眺めるのが好きだ。こだまして届いてくるかのようだ。黒板を見つめる子どもたちの姿を想像する。空に澄み渡るかのような響き。これはもはや習性だろうか。音に合わせて、本を開いてしまったりする。

 近所の方々もみな同じく味わっているに違いないと勝手に想像。毎日の暮らしは、小さな一つひとつの出来事に支えられている。  

 そういえば、教師になったばかりの私の重要な仕事の一つが、チャイムの機械のセットだった。時間を合わせた後の最初の音が、果たして正確に鳴るかどうか、心配して職員室の時計をじっと見つめる。後ろに先輩の先生方の姿も。鳴り始めると皆で微笑んだ。誰彼ともなく。ヨシ。 

初出「福島民報」

 

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