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FF16の触覚表現がすごい、というお話

はじめに

7年の空白の期間を経て発売されたFinal Fantasy 16。満を持してPS5で発売されたこのタイトルは、FF史上最高の仕上がりだと感じています。

この作品について、長らく触覚表現について研究・開発してきた僕としては、みなさんが気づいていないであろうFF16の「触覚表現のすごさ」についてお伝えしたくてウズウズしています。

本当は以下のPostにもある通り、プレイを始めて数分で感動し、呟いていました。初めてすぐにこの記事を書いても良かったのだろうけれど、”表現”という観点から言えば全部クリアしてからのほうが良いだろうと判断したので、このnoteは発売から少し時間が経った今、無事エンディングをクリアしたこともあって書いているわけです。

エンディングまで58時間ほどかかりましたが、それを経て、この記事を書けていることが本当に嬉しいです。 (一週目で全てのサブクエストと、一周目最強武器を装備してクリアできたので本当に満足しています)

ゲーム進行度 100%!!!(でも、もしかしてこれってサブクエ関係ない?)
アビリティはこれで決まり

まずは、このタイトルの開発にあたったスタッフ並びに関係者の方々に感謝申し上げたいと思います。FFタイトルの中でも、ストーリーテリング・ゲーム性・デザイン・技術力などトータルで首尾一貫し、FFとはなんたるかについて深く深く議論した上で完成された作品だと感じました。

昨今ビデオゲームは、ビデオゲームというジャンルを超えて、今では新しいエンタテイメント領域を開拓し続けている技術だと改めて認識しました。

なお、触覚研究や技術に興味がある人は、このタイトルをプレイしておくことを強く推薦します!!
いわゆる、推薦作品ってやつですね。


そもそも触覚表現とは、なんなのか

手のひらを彩るのだ

このnoteで頻出する触覚表現という言葉ですが、まだ馴染みのないものだと思います。

僕は触覚表現を、触覚刺激によって、過去の記憶や経験・身体感覚を創発するものと定義していて、単純な振動刺激や圧力刺激などの”提示”とは異なるものとして扱っています。(Dualsenseの触覚表現は、この二つの感覚刺激を扱うので、このnoteでは抜粋しますが もちろん他にもあります)

なぜなら、触覚で表現できる領域の可能性は、例えば「手がブルブル震える〜」みたいな単なる刺激の提示に留まらないからです。(昔はそれでも画期的だったんだけど、最先端の触覚研究から見れば可能性は無限大なのです!)
これは触覚研究の学術的な発展を追うことで見えてくる話だと思っていて、これはこれで面白い話だと個人的には感じているので、また機会があれば。

今回はあんまり難しいことは話をしたくないので、定義についてはこれくらいの情報量で留めておきます。

とりあえずFF16を遊ぼう!!!

本題:FF16の触覚表現がすごい

さて、本題について端的に述べるならば
「触覚表現の歴史は”Before FF16・After FF16”というくらい大きな転換期を迎えた。これは明確なFF16の貢献である。」
と言っても過言ではありません。

僕は、2012年から触覚表現の研究をし続けている身として、純粋に感動しました。ビデオゲームは触覚表現ととても相性が良く、NINTENDO 64の振動パックRumble pak)の頃から、ゲーム体験の手応えを高める技術として取り入れられてきました。これまでにも作り込まれた触覚表現のゲームタイトルは数多くあり、例えば「1・2・SWITCH」や「スーパーマリオ オデッセイ」「ASRO’S PLAYROOM」などが挙げられます。(これらタイトルで活用された触覚表現の良さについては、また別の機会にでも)

一方で、僕もEnhance Experience Inc.というゲームパブリッシャーの会社にいる身としては、触覚表現に開発コストを割くことの難しさや取り入れて価値を生み出すほどの表現を実現することの大変さに肌で感じています。
いわゆる”乗り越えないといけない壁”がいくつも存在する中で、ゲームコントローラに搭載された触覚技術をフル活用する開発チームの意気込みには、ただただ感心するばかりです。

その中でも、FF16の触覚表現はすごい。触覚を動的に制御するシステムも実装されている印象があり、またゲーム体験や映像表現との組み合わせ、大味な触覚と繊細すぎる触覚表現のコントラスト、状況を演出するための表現とキャラクターの心情の演出、Dualsenseの左右の触覚アクチュエータを巧みに制御したパンニングによる微細な触覚表現など、細部に至ってはマニアックすぎてここでは語り尽くせないほど。
なんなら、ここまでの繊細な表現はゲームの手ごたえを伝える、という観点からいえばオーバースペックであり「ある種の執念のようにも感じられるこれらの演出はユーザに届くのだろうか?いや、届かなかったとしても、そのシーンの良さは触覚表現によって、より良いものになっているので、単にそれでいいのかもしれないなぁ」などと勝手に自己完結してしまうほどです。

ここまで、ダラダラと書いておきながら今更かもしれないが、FF16体験せずにこのnoteに来てしまった方は、今すぐこのnoteを読むのをやめて、FF16の体験版をインストールしてプレイして欲しいです。
もし体験したいと思ってくれたのなら、このnoteを書いた甲斐があったというものですね。

本当はエンディングまで見て欲しいところですが、僕が語っていることは体験版でも十分に体感できるので”まずは”体験版をプレイしてみてください。
FF16は触覚表現のお手本としても大変貴重な事例であり、作中の映像美と音楽に合わさる触覚表現が、インタラクティブコンテンツとしてのゲーム体験にどこまで貢献しているかについて自身の手で体感し、発見してほしいと心から願うばかりです。

個人的に強調したい点として、文面通り「これら演出に関連する技術がすごい!!」ということだけではなく、その裏側にある視・聴・触覚が組み合わさった時に生み出され、自分の中で湧き起こる感動心の揺さぶりそのものに注目してください。

このような感覚は分割できるものではなく、ある種の感覚統合されたひとつの感覚によるもので「共感覚的体験」によって生み出されるものだと僕は思っています。


FF16の触覚表現のすごさ ① 「大味な表現と繊細な表現の幅の広さ」

ここからは、とはいえ「すごさ」について言及されていないやん?というアルティマニアックな方への補足です。
そんな話は必要ないという方は、すっ飛ばして「さいごに」までジャンプしてくださいね。

僕がFF16の触覚表現で感嘆したところは「大味な表現と、繊細な表現の幅の広さ」にあります。

そもそも、みなさんは触覚に意識を向けてビデオゲームをプレイしないと思うので「なんのことだか…」と思われるかも知れません。
僕は「触覚は、基本的にゲーム体験を盛り上げるためにあるもの」と思っています。それに関連する話で言えば、桜井政博さんのYoutube動画で、ゲーム体験を盛り上げるための方法を「手ごたえ」と言語化されていますね。

そういう意味で触覚表現の仕事は、ゲーム体験の「手ごたえ」をどれだけ演出するか、にあると感じます。 触覚的な観点から言えば「大味な表現」を実現することだ個人的には思っています。
(どうでもいいことですが、いつか桜井さんの動画で触覚表現についても言及してくれると嬉しいな〜と思っていたりします)

スマブラSPをプレイしていると、鋭く・グッとくるような触覚表現が採用されていますが、そこまで遊びがあるような表現とは言えません。
無論、スマブラSPは特殊で、今でもなおGCコントローラーが好まれるタイトルなので、コントローラーの性能さや表現の差異を極力減らすことも考慮し「メリハリのある振動」の色が強いのかも知れません。と言っても、他の作品と比較してもしっかりと強い表現が取り入れられているため、ゲーム体験の「手ごたえ」を表現する役割として十分効果的な使われ方をしていますし、触覚表現の方向性もしっかり考えられている印象です。

このように基本は「手ごたえ」すなわち、ゲーム体験を効果的に演出する「大味な表現」を丁寧に仕込めるか、が抑えるべき一手だと思っているものの、案外この一手を丁寧に作り切ることも難しいのだろうな、とファースト・サード パーティ、それぞれのゲームに触れてみて思います。
Nintendo Switch・SP5 両者のファーストタイトルあっても、触覚表現を活かした作品があるのかと考えると指折り数えるくらいしかないからです。

そのなかでもFF16の「大味な表現と、繊細な表現」の幅がすごく、主人公 クライヴが攻撃する「手ごたえ」の違いを表現しているのはもちろんのこと、キャラクターが踏み鳴らす地面の質感に違いがわかったり、キャラクターから離れたところにいる敵の動きが微かに感じられたり、建築物を豪快に破壊し大地を駆け巡る壮大な召喚獣合戦の壮大さを手のひらでも彩る演出は、圧巻です。手に汗を握るレベルではない。

特に序盤の作り込みが素晴らしく、価値を最大限伝えるためのイントロとして、とても巧妙な演出だと感じます。

特に冒頭のストーリーテリングは作中でも飛び抜けてる

FF16の触覚表現のすごさ ②「映像作品をより強調する表現」

吉田:はい。おもしろいところとしては、召喚獣どうしのバトルに関しては、システムの使いまわしは一切しておらず、バトルごとにすべてフルスクラッチ、かつゲームコンセプトを変えていることです。たとえば、3Dシューティングを髣髴とさせるバトル、プロレスのように重量感があり組み合うようなバトル、マップすべてが超巨大な召喚獣になるバトル、といったように、召喚獣同士の戦いごとにゲーム体験そのものを根底から変えて作っています。それらがすべてシームレスに、一切のロードがなく、ストーリーとリアルタイムバトルとドラマがジェットコースターのようにつながっていて、いままで体験したことがない興奮が味わえるというのが今回の『FF16』です。

――ここまでいろいろとお話を聞いてきましたが、改めて『FF16』のコンセプトをひと言でいうなら?

吉田:“超ド級超高速ジェットコースター”ですね。

ファミ通.com https://www.famitsu.com/news/202206/22265843.html

FF16は“超ド級超高速ジェットコースター”でプレイヤーが操作するシーンとムービーシーンに途切れがありません。映画とゲームの良さがハイブリットになったインタラクティブ・コンテンツみたいなもので、類似する作品だと小島秀夫監督のメタルギアソリッドシリーズDEATH STRANDINGが挙がると思います。もちろん同じジャンルではないけれど、FF作品の歴史を俯瞰して見れば映像美は間違いなくFFの要素であり、今作の方針は間違いないんじゃないかと個人的には思うところ。

ゲームの良さは、主人公の意思を一時的にでもプレイヤーに委ねることができるので、プレイヤーは主人公に没入し、ゲームの世界を堪能することにあります。 そのため、ゲームのプレイ時間の総数や、サブクエストやミニゲームをしてどれだけ寄り道したかはプレイヤーに寄ってしまいます。それによって、ゲーム内に組み込まれたストーリーや小ネタ、音楽などへの感情移入の深度も異なってくるでしょう。

このゼルダの伝説 BotW/TotKの音楽について言及している動画の内容がとても共感するものがあったので紹介します。

詳しいことは見て欲しいのですが、要約すると「ゲーム体験は、プレイヤーの介在が入るために映画音楽とは異なる音楽表現が取り入れられてきたが、ブレスオブザワイルドの音楽はその境地に達している」と述べられています。

プレイヤーの何気ない行動の裏側で、自然と流れている些細なBGMやメロディ、フレーズが、プレイヤーの中にすぅと入ってるため、いざ ゲームの盛り上がるシーンでそれらがピースのように活かされていると、その効果は絶大である、というところでしょうか。

ゲーム体験を演出するという点では、触覚もその役を担っている。僕自身まだまだ開拓の余地はあると思っているのだけど、FF16のムービーシーンでも触覚表現は活かされていて、コントローラを手放す隙がありません。
前記に「大味な表現」と言ったように、基本的に、触覚表現はキャラクターの身体の表面や外側(環境など)の変化、映像的な状況、音楽的表現と交わるような演出で選択されいます。概ね、これらの組み合わせで効果は絶大で、プレイヤーはゲーム中の映像的な・音楽的に表現に意識を向けているわけですから、そこに触覚が組み合わせれば手応えはバッチリでだと言えますね。

…ただしFF16は違いました
FF16での触覚表現は(触覚的にというよりかは音楽的な演出を触覚表現に転用したと言ったほうがいいかも知れないけれど)画期的なシーンがいくつもありました。

ネタバレになるのでほどほどにしておきたいが、ゲーム序盤でクライヴが過去を思い出し、恐怖と後悔が入り混じった焦りのような感情に苛まれるシーンでの触覚表現について言及しておきたいと思います。

これこそが触覚でないと演出できないもので、プレイヤーがキャラクターに自然と自己投影をしてしまう効果を及ぼす最高の演出だったのではないでしょうか。
触覚研究では、手のひらで「XXXX」を感じると、言葉にし難い感情を想像しやすくなったり、相手に親近感を持ったり、生命的なものを想起することが知られています。

僕個人として「XXXX」は、触覚表現としてはわかりやすく強力なピースだと思ってるので完璧なんですが、ゲーム作品でこれが取り入れられるのはもっと先だと思っていたし、なんならFFというビックタイトルで取り入れられるとは微塵も思ってなかったので、このシーンを体感した時は開いた口が塞がりませんでした。

FF16のFirst Trailer “AWAKENING”から
主人公 クライヴの瞳に映る炎、その先にあるものとは?

FF16の触覚表現のすごさ ③「コントローラ上で触覚をパンニングさせる変態技術」

FF16の触覚表現は、基本的に実時間で触覚をレンダリングしているのかな?という印象がありました。自社製なのか、ミドルウェアによるレンダリングなのかはわかりませんが、素晴らしい技術によって緻密で繊細な処理がされていました。

その技術によって動的に演出されていることは理解しますが、例えば『3次元空間で制御しているし、おおよそこれくらい距離が離れてているから、画面の左奥で閉まった時の「パタッ」という触感をコントローラの左から弱く微細な触感として表現しよう』とは(特定のシーンにおける扉が閉まった時の状況をゲーム空間として計算されているからとて)到底従来のゲームにおける触覚表現という観点から考えるとOKが出るものではないと思うんです。
「コントローラの左右両方で「バタンッ」といった触感をしっかりと表現する」もしくは「そもそも扉の閉まる演出は重要ではないから触覚表現しない」というのが、通例なんじゃないでしょうか?

再三述べていますが、基本的に「手ごたえ」をしっかりと演出することが第一なので、状況に応じて必要な触覚を表現するシステムを開発したことも、その演出を取り入れて且つOKしたことも、触覚表現についてずっと研究し、こういう拡張性がある、こういう可能性がある、と悶々と考えてきた身としては変態すぎるよ!!としか思えません。
(煽っているようですが褒めています)

いち研究者として到底実現できないことを、300万人以上のプレイヤーの方に提供できているこのタイトルの凄さを、改めて目の当たりにしています。

いやぁ、ほんとにすごいんです。

個人的に好きなキャラクター フーゴ・クプカ。
ごっつい見た目してるけど、可愛いところあるねん。

ちょっと辛口なコメント:Dualsenseの触覚提示技術について、振動触覚とトリガー制御。

まず、前提として圧倒的なクオリティを提供しているFF16。
触覚技術という観点から見たDualsenseのポテンシャルを考えると、音 → 振動触覚の技術展用として持て余すことなく、変態技術が使われていました。

その一方で、Dualsenseに搭載されたトリガーの活用については、ほんのちょっとの工夫だけで、もっと良いものにできた印象があります。
(とはいえ、ゲーム開発における触覚表現の比重は、全体の開発コストや時間を考慮すると限りなくゼロに近く、他の工数に比べるとそこまで工数はかけられなかったのだと思うので程度だと思うので「これは触覚研究者の妄言だ」と思って欲しい。本当はやりたかったけど、そこに時間をかけられるひとも時間もコストもなかったのだろうと愚推します。)

R2トリガーを押して重厚な扉を開ける演出が何度か差し込まれていました。これはDualsenseのアダプティブトリガーの活用例として正解な演出であり、大きな扉を開ける「手ごたえ」を出せていたと思います。
加えて、この演出を差し込むことで次のマップやイベントを読み込むためのロード時間を確保するためのインターバルを自然に組み込むことができるため、とても優秀で透明なインタラクションであるとも言えるでしょう。

すっごい重たい扉を開けてる様を感じ取れる

一方で、ゲームプレイヤーからすれば、この所作を何度も差し込まれると、この効果的な演出は単純作業に変わってしまい、扉の重みを提示する・扉の向こう側で待ってる強大な敵を想起させることのできる演出が、単調な刺激になってしまいます。

ゲームの進行が進めばトリガーでの入力を必要とする場所が予期できてしまうので、先んじてトリガーを押してしまうことが多々ありました。その結果、2度トリガーを押すことになってしまう場面が頻発し、テンポが悪くなってしまいました。これはもったいなかった
無論、トリガーの機能をONにするためにXボタンを押す必要だったんだろうか?などと推測するけれど、なんとかならなかったのかなぁ。

ユーザは、序盤の扉演出を通して「トリガー入力のエネルギー効率が変化する」ことを知っているわけだから、扉の演出だけに留めなくても良かったかなと思います。
一見すると、無理矢理R2入力を要求することが無駄に見えても、ゲームの手ごたえという観点からいえば、ついつい感情移入して力んでしまう場面ではあえてR2入力を導入してもいいように感じました。例えば、シネマティックアクションはR2・L2でやってみる、とかね。

QTEのような演出「シネマティック ストライク」

他にもムービー中はR2・L2が連動していて、映像で表現されている主観/客観の演出への没入感を巧みに誘発すること目的とした反力の提示なんかも面白いかも。それに振動触覚を組み合わせて状況説明の強化や、キャラクターの心情を表現するなど、考えてみると効果的な場面は多数存在していて可能性があるなと思ったりします。

あと、これはやっぱりこれも工数の問題だと思うんだけど、中盤の触覚表現がやや少なくなって、終盤で若干ながら触覚表現が息を吹き返したかな〜という印象ではありました。最終局面ではやりすぎってくらいに触覚表現を多用しても良かったと思うんだよね。

…とはいうものの、これはいちプレイヤーの妄言であって、先ほども引用して述べたとおり、触覚が生かされるのはゲーム体験やゲーム音楽が発展した現在において、従来の演出が十分作り込まれている前提です。

ですので、これは超絶マニアックなひとの超個人的な意見だというくらいに思ってください。ユーザが時間をかけてゲームをプレイし、身体的な経験を通して架空の世界に没入し、世界観に自己投影した結果作り出せるゲーム体験だからこそ、触覚は活かされてくると思っています。

触覚表現は、常に必要ではないかも知れないけれど要所要所で工夫して取り入れていくことでコンテンツをより良いものに演出できる、ってことですかね。

まとめ: 触覚表現について思うこと

さて、このnoteでは、FF16の触覚表現を「大味な表現と繊細な表現の幅の広さ」「映像作品をより強調する表現」「コントローラ上で触覚をパンニングさせる変態技術」の3つに分類して、僕個人の感想を述べました。

触覚表現は、プレイヤーがゲーム内のキャラクターのアクションをあたかも自分が本当に身体を使って動かしているかのように感じたり、ゲームの世界に深く没入したり、キャラクターの感情に強く共感したりするような、身体的な感覚を想起させるための表現であって、単に振動したり、反力が変化するようなことそのものではないんだよ、ということが言いたいのです。

そして、触覚表現は、将来的には視覚表現や聴覚表現と同等に扱われる言葉になる(なってほしい)と願っています。
また、コンテンツ・クリエイションやアート・インスタレーションの手段として視覚・聴覚・触覚の3つを巧みに活用できるひとは、業界的にとても重宝すると思っているので、興味のある方は視覚・聴覚と一緒に、触覚にも手を出してみてください。

さいごに

FF16(一周目)をクリアした記念に、みなさんに伝えたくて仕方がなかったFF16の触覚表現についてまとめました。
長らく触覚表現について研究開発していた人として、FF16のゲーム体験に感動していて「これだけはあらゆる人に伝えたい!!」という気持ちが溢れてしまいました。

このnoteで伝えたいことは、シンプルに「FF16の触覚表現がすごい」という話で、PS5をお持ちであるならば、できれば無料体験版があるのでDLしてもらって体験してもらいたい、ということです。

その上で、できれば、ほんの少しでいいで、Dualsenseで表現されている触覚技術にも興味を持ってもらいたいと願っています。
触覚表現が気になった時にはDualsenseを耳を当ててほしい。
開発した方々のこだわりを感じるはずです。

Dualsenseで実現できる触覚のとても繊細な表現を、とても巧みに、そしてこの技術を超絶理解したひとたちの努力の結晶の一片に触れられるのではないでしょうか。

これは一重に、ゲームが好きで、FF14も手がけて演出し続けてきたスタッフの方々の熱意があって実現した究極の触覚表現なのではと思います。
今後も触覚技術は発展していくと願っている一方で、2023年現在では、まだまだ触覚技術や表現に関連する市場規模も、正直なところ費用対効果もそんなに良くないのが事実です。
ですが、僕としては触覚は視覚・聴覚に次ぐ新しいメディアとして、わたしたちの生活を豊かにする感覚だと信じています。

触覚が第三のメディアとして広く社会に受け入れられるためには、FF16のような作品で触覚が使われたり、触覚を活用した事例を通して、誰しもが感動するようなアート体験として一般に提供できたり、学術領域で触覚の新しい可能性を提供したりするような、地味な活動が必要なのだろう、と言うのが僕の回答であり、僕のミッションだと思っています。

また機会があれば、過去に慶應(KMDとSFC)の授業でさせてもらった触覚表現WSの、DualsenseとAbleton LIVEやMax8を活用して、みなさんの手元のPCで触覚表現をデザインする方法に関するお話など、できればとも思っています。いざ、自分でFF16のような触覚表現をデザインしてみようと思うと、案外難しいものだったりします。

触覚表現は、単純に「触覚刺激を提示する」ことよりも「ユーザに対してどういう状況を演出した上で提供するか」であったり「映像表現や音響表現とどのように組み合わせるか」といった、様々な外的要因を統合的に考える多感覚的なデザインが重要になってくるだろうと個人的には思っています。

その全ては、このnoteだけでは語り尽くせませんが、今回はこのへんで。
『FF16の触覚表現がすごい、というお話』でした。

ここまでおつきあいいただき、ありがとうありがとうございました。

エンディングはマジで泣けます。

Appendix

執筆者について

このnoteの執筆者である はなみつは、2012年から現在まで、触覚表現や身体感覚を専門として研究・開発を続けています。2017年から7ヶ月ほどDisney Research Pittsburgで触覚研究を行い、2018年からはEnhance Experience Inc.で共感覚体験の研究・開発に携わっています。2022年 3月には慶應義塾大学大学院メデイアデザイン研究科でPh.D.を取得し、10月からは同大学の南澤研究室(Embodied Media Project)にも所属しています。触覚表現や身体感覚、シナスタジア体験のデザインを主軸に、個人や企業・大学機関に所属しながらジャンルを問わず活動を続けています。もし、このような事柄に興味があれば、気軽に僕までDMくださいね。


誤字・脱字などの修正について

読んでいただいた方、ご指摘ありがとうございました!
適宜、内容を更新し、より良いnoteにしたいと思っております。

2023/08/23 9:27
クライヴをクライブと誤って表記していたので修正しました。
ヤタガラスさん、ありがとうございます!!

https://twitter.com/ytgrs5678/status/1694138385286513046?s=20

2023/08/23 10:28
「ですます調」と「だ・である調」が混在していたので、できる限り「ですます調」に統一しました。(また不十分かもしれません。)より読みやすい文体を心がけたいです。黒羽さん、ありがとうございます!!

https://twitter.com/KurohaKaede/status/1694135429627605501?s=20


触覚の先端研究やデザインなどについて日々発信しています。 𝕏 https://twitter.com/873ch