店内で悪質な手口でトラブルにあった話

通りがかりの店先で暴風で荒ぶるバルーンのカボチャに体当たりされ、接戦の末に捕獲していると店員が駆けつけてきた。

私とカボチャの救出後、折角なので店を見ていってくれと誘われ暇なので入店すると、椅子に座らされ突如勧誘が始まった。
私の他に既に客が二人おり、店員は痩せるサプリメントを強く推し、特に隣の青年はやんわりと断っているもののそれを勝る熱量で勧められていていた。
もう一人の客のオヤジは明らかに店員の女性目当てであり、サプリメントには1ミリも興味がなさそうであった。

私も痩せるサプリメントを推されたが、
「今パンチ力を上げるために体重増やしてるんですよ」
と、店員に告げると「えっ?」と店員が一瞬素に戻り、場の空気が止まった。

妙な奴を店に招き入れてしまったという後悔の色が一瞬にして店員の顔に広がった。

店員は気を取り直し
「では、他に気になるところは……」
と、訊いてきたので
「逆に体重が増加する物はありませんか?」
と答えたが、もやは本末転倒であり、そんな恐ろしいサプリメントを誰が買うのだという雰囲気が漂った。キャラメルの要領で牛脂でも舐めていろと思った事だろう。

すると、隣の青年も
「僕も……パンチ力、上げたくて……」
と突如肉弾戦に目覚め、同じ道を志す者が増えた。
奥のオヤジは店員に触れようとしては店員がそれを阻止する戦いが繰り広げられ、カンフー映画の攻防戦のようになっていた。

困り果てた私の担当の店員は、奥からベテランらしき者を呼んだ。
ベテランは私の担当から説明を聞くと
「パンチ力……」
と、神妙な面持ちで言葉を漏らした。

ベテランは、「一度痩せたうえで筋トレをすれば、理想的な体型になるうえにパンチ力も上がるのでは」とこちらに提案したが
「脂肪が無ければ打撃がバルクに直撃し良くないのではないか」
と懸念点を述べると、ベテランも黙った。
何故こんなフィジカルオバケのような者を連れてきたのだという顔をしていた。
隣の青年の担当はこの頃には下を向き震えていた。

もう早くコイツらを店の外へ帰したい、という気配を感じた。
しかし、私と青年はわりと容易に退店するが、あのオヤジは生贄に店員を捧げぬ限り鎮座し続ける事だろう。
もはやこの店の従業員達の避けては通れぬ障壁と化し、その存在を知らしめていた。

ベテランは一度奥へ引いた。
そして、少ししたのち店内の照明が消えた。

照明トラブルが起きたため、本日のご案内はここで閉めさせて頂きますとの話があった。
本来ならば青年は押せば買いそうであったので残しておきたいところであったのだろうが、もはや店内トラブルとして一掃する他なかったのだろう。
「えぇーーー…」
と、人間トラブルのオヤジが不満げな声を上げた。

我々は外に出された。
オヤジはつまみ出された。

何となく青年とは互いに会釈をし、一縷の望みにかけ店内を覗くオヤジを横目に我々は解散した。


【追記】
因みに青年は寧ろスマートな体格であり、痩せる類いのサプリメントは確実にいらぬ風貌であった。
何を思ってこれ以上彼を削ろうというのだろうか。

なお
「今でないとお得にならない」
「もう商品を持って他店舗へ行くので今でないと買えない」
などその場で購入の判断を煽るものや、何人かで一人を囲む手法などを用いる店は、大変危険である。
そもそも
「一度家に帰って考えます」
が、通じない店は怪しい。
人気なのでという場合も本当にあるかもしれないが、執拗に帰らせないのは明らかにおかしいので、何としてでも脱出して頂きたいと思う。


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