まさかと思うものが燃えて危なかった話

習字の宿題をしている最中、近所に住む友人たかしの邪魔が入った為に途中で手を離し「おとし玉」が「おとし王」になってしまった。

受験生が悲鳴を上げる嫌な王が君臨してしまった。
後から「、」を書き足せばバランスが崩れる為、初めから書き直しとなった。
更にたかしは私の隙を突き、和紙に「勝訴」の要領で大々的に「たかし」と一筆したためていた。
貴重な和紙が「たかし」にされてしまった。
持っていても仕方がないので、使用済みの正月飾りを入れていた箱にそっと入れた。
藁を高さ15メートル程の塔のようにし正月飾りを焚き上げる「どんど焼き」で共に焚き上げられれば良い。
たかしはそれを見ると
「これ、俺あとで燃やされるやつじゃない?」
と、どんど焼きの存在を思い出し、己の名の結末を悟った。

たかしの妨害が入ったものの、何とか過去最高の「おとし玉」を書き上げ担任に提出した。
担任は「習字の宿題は誰一人忘れた者がいなかった」と喜び教室を去っていったが、職員室で皆の習字をめくり確認していると、突如「おとし王」が視界に現れた。
間違えて「おとし王」の方を提出してしまった。
生徒達の宿題の「おとし玉」の中に何か似て非なる王が混ざっている。
担任は一人では脳内処理が追いつかず、思わず隣の席の教員に見せたという。

「隣の先生が犠牲になりました」
というコメントと共に、その日のうちに「おとし王」は私に返却された。
王の帰還である。
しばらく和室に飾ったが大変不評であった。
一応一国の主であるので、捨てるのは気が引けるという事で、おとし王にもどんど焼きにて正月飾りと共に天に還って頂く事とした。

どんど焼き当日。
現地に着くと皆が出したダルマや正月飾りが地域の組織によって藁の塔に装飾されていた。
ふと、たかし が一点を見つめていたので、その視線の先を辿ると
「おとし王」
が塔に高々と掲げられ王城のようになっていた。
配置をした者の悪意を感じる。
まさかこんな目立つ位置に貼られるとは思わなかった。

どこぞの王がダルマと共に燃やされようとしている。しかも、おとし王の下に「たかし」が貼られていた為
「おとし王たかし」
と、すぐに打ち切られそうな少年漫画のようになっていた。
飾った者は何故この配置にしたのであろうか。
「俺が……おとし王……?」
たかしが混乱し始めた。
お前はただの たかし である。

遅れて参加した担任は、保護者達に挨拶をして真面目な教育者の顔を見せていた最中、塔にそびえるおとし王と再会を果たした。
いつの間にか城まで築いている。
担任は配られた甘酒が気管に入り危険な目に陥った。
「あの王、まだ俺を苦しめやがる」と思ったに違いない。

挨拶の後、ついに塔に火がつけられた。
焼き討ちのようであった。
和紙は端から燃えていくかと思えば、何故か「王」の部分から灰になっていき、
「おとし たかし」
となり、たかしは王座から引きずり落とされた。

ふと、横を見ると初めて見るおっさんが立っていた。
何だろうかと見ていると
「俺、燃えてるなぁ……」
と、呟いた。
恐らくこのオヤジもたかしの名を持つ者である。

【追記】
友人たかしと、推定たかしのオヤジは同じ目をしてどんど焼きを眺めていた。
配置したのは地域の組織の中でも、手先は器用であるが一番信頼の置けぬオヤジであった。

私の地域では、これを燃やした火で棒に刺された餅を自分で焼き食べるのだが、何だかとても美味しく感じられた。
場所によって違いがあるのも面白い。
普段見られぬ火の大きさというのも圧巻である。
皆さんも地域で開催されていたら一度参加してみるのは如何だろうか。

【お詫び】
※フォロワーさんが教えてくださいましたが、「ちびまる子ちゃん」で「おとし王」が出てくるそうです。
かぶってしまい申し訳ありません。
調べたところコミックス11巻に収録されているようです。
検索するとそのシーンが出てきましたが、その後の展開もやばかったです。



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