玄関ドアを開けたら男が待ち構えていて怖い目にあった話

四人で友人宅で飲む事となった。
そのうちの一人が遅れて来る為、先に始めていると、ようやく到着したのかインターホンが鳴り家主がドアを開けにいった。

その少し後に私はトイレを借りようとしたが足が痺れ、歩けないながらも必死に向かう羽目となった。

玄関では家主は困惑していた。
遅れてきた友人と思いドアを開けたが、そこに居たのはしつこい訪問販売員であった。
販売員は家主のミスにこれ幸いと軽快な営業トークを始めたところ、電球の切れている仄暗い廊下の奥の地を這う影が視界に入った。
彼は汗ばみ苦悶の表情を浮かべた人間が海亀を思わせる体制で徐々に暗がりから己の方に近づいてきている事に気が付いた。
私は販売員と目が合わさったが、痺れと事情が事情な為私はそのまま進んだ。
販売員の軽快なトークは止まった。

せめて感じが悪くならぬようにと私は販売員に笑顔を向けた。私の脳内では爽やかに微笑んだつもりであったが、家主と販売員の目には地を這う赤ら顔が不気味に笑みを浮かべて這い寄る様が映った。

何故この体制かについてを説明したく「違うんですよ、足が痺れた末路なんです」と口を開こうとしたが
「……ちがぁ……いひぃい……」
と、人の生き血を求めているようになり不気味さに深みが増した。
現代社会において献血以外でこんなにも血を求められる事があるだろうか。
因みに最後の「いひぃい」は「足」といったつもりであったが、家主曰く「山姥を彷彿とさせる息遣いであった」と申しているので、恐らく販売員もそのように受け取った事だろう。
山姥ですら、序盤では喰らう気持ちを感じさせまいと振る舞うというのに、初見から生き血を啜る気に満ち溢れた現代人が「いひぃい」などと現れてしまった。

友人は何となくフォローをしようと思ったのだろう。しかし
「あの人は友人でした」
と、何故か過去形となり
『かつて人としての自我保っていた時は友でした……今は違う』
というような悲しき背景が仄めかされた。
口下手が揃うと碌な事にならぬと私はその日学んだ。

すると奥からリビングにいた友人が様子を見に現れた。
しかし、その友人は少々酔っており、バランスを崩し私の横を駆け抜けていった。
結果、地を這う化け物の背後から突如恰幅の良い男が現れ、廊下の壁にバウンドを繰り返しながら販売員に走り迫る形となった。
その動きは、進撃の巨人の奇行種に酷似していた。

販売員は踵を返しドアノブに手をかけた。
あまりに必死な為にドアノブが上手く回らないのか、ゾンビから逃れる際に車のエンジンがかからない現象が起こっていた。
ドアが開くと販売員は全ての荷物を置き去りにし飛び出して行った。
妙に気を利かせた奇行種は
「おーい、忘れてるぞー」
と、外に出て販売員を追いかけたが、それがこのホラー展開に拍車をかける結果となった事は想像に容易い。

我々は反省会をした。
互いに「海亀でごめん」「確認しないで開けてしまった」「俺は悪くないぞ」と口々に反省点を述べていった。
その数分後、遅れてきた友人がインターホンを鳴らした。
我々は全員で「本当に遅れてきた友人か?」と声かけ確認し、恐る恐るドアを開けた。
遅れてきた友人はドアが開くと共に訝しげな三つの顔が暗がりから浮かび上がる様を目にした。
非常に心臓に負荷のかかる出迎えであったという。

【追記】
荷物について、家主は販売員の会社へ電話をし、すぐならば取りに来てくれても構わぬと述べた。

私が販売員ならば、確実に取りに戻らない。
その会社の者と通話が繋がると、逃げ出した販売員と連絡を取るから待ってくれと言われ、その後折り返し電話がかかってきたが、「大変申し訳ないが、お近くの交番に届けて頂けないだろうか」と伝えられた。
販売員の二度とあの家には戻りたくはないという強い意志を感じた。

その後、荷物を交番へ取りに行く販売員はどのような気持ちであったのだろうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?