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小説:ハチジョウのキュウジョウ【第4話】“まさかあるのか飛行場”


前回までのあらすじ50文字


「東京在住の僕はある日突然スマホに現れた海の見える野球場の写真をみてどうしてもそこで投げたくなったのだ。」

1話 球場
2話 都会での心情
3話 1K8畳 はこちらから↑


【第4話】“まさかあるのか飛行場”


とにかくワクワクしていた。
ここで投げる瞬間を想像したらワクワクしていた。
その瞬間を実現するために突き進んでいこうと心の羅針盤は方角をはっきりと既に示していた。

で。まず、この球場はどこなんだ。

こんなマンガみたいな、ゲームのフィールドのような野球場はどこにあるんだ。
「きっと世界中のどこかのリゾート地の海岸線にならあるのかもしれないな」
と僕の第一印象だった。

そこから画像検索や先程の写真の情報から場所を特定するまでたいして時間はかからなかった。
僕はとにかく調べるのが得意な特殊能力があるのだ。
そして運命のキーワードにたどり着いた。

”この球場は八丈島にあり~”

そう

”八丈島”

「ハチジョウジマ??」八丈島ってなんだ。どこだ。

すぐさま八丈島を調べる。

「えっ!日本だ。」
「ええっ!しかも東京都だ。」

驚いた。しかし謎すぎる。

僕の中でのこの時点での八丈島との関連した知識としては

「スネ夫の別荘のある島のモデル」のみである。

ドラえもんにスネ夫の別荘がある島として「四畳半島」という漫画内の島がたびたび登場し、夏休みにジャイアンとしずかちゃんをつれて海に遊びに行くのをのび太くんが羨ましがる。みたいな話が何度か登場するのだ。
これも僕が早稲田大学ドラえもん研究会に入っていたレベルでドラえもんに詳しいので、パッと四次元ポケットから引っ張り出してくるように出してきた知識なのであって、おそらく釣り好きでもない普通の一般的な人は八丈島と言っても関連した知識が皆無の状態なのかなと予想するに容易い。

さらに僕は八丈島について検索していく。

真夏の都内の8畳の日本間から僕はあらゆる情報にアクセスしていた。
古いエアコンを動かしているとはいえ最近の東京都内の夏の暑さは異常で畳に汗が落ちそうになっていた。

暑さのせいなのか、こんなにも検索して出てくる結果を待ち侘びてワクワクすることはないほど興奮しているからなのか、調べている間は畳が揺れていそうなほど心臓が飛び跳ねていた。

次に
島の場所を地図のアプリで表示してみる。

「とおおおおおおおおぉ!!!」

めっちゃくちゃ遠い。想像の何倍か遠い。
東京都の島っていうと、東京湾の先、関東地方の沖に浮かんでいるイメージがあるが、

八丈島は違った。
正確にいうと八丈島”だけ”は違った。

伊豆諸島として関東地方の南に複数の島が連なって浮かんでいる。そのシリーズの中の一つの島として八丈島もラインナップされているのだが、地図を見てみると八丈島だけが一つ飛び抜けて南にポツンとあるのだ。

普通の人ならこの位置情報を知った時、ここで遠いことを嘆き、重い腰がより重くなって、動かなくなり行動を起こすことが遠のくこともあるだろう。

しかし、僕はむしろめちゃくちゃワクワクした。

完全にRPGのマップで裏技でしか行けない”隠しステージ”を見つけた時の気分だ。
「こんなに日本の南に遠く離れた小さな島に、あの美しい球場があるとか奇跡だろ!!」

面白すぎる。

もう地球上はGoogleマップとGPSに調べ尽くされて、ネット上に出てくる有名観光地以外は特に何もないフィールドと住宅街が広がっているだけかと僕は思い込んでいたが、現実にはまだ”隠しステージ”が存在していた。しかも日本。しかも東京都だし。灯台下暗し。ホントに隠しステージ。

これから連載されるであろうルフィがONE PIECEのお宝が隠された島の情報にたどり着いたシーンの時の感覚に近いかもしれない。ワンピースが眠る最後の島「ラフテル」は八丈島なのかもしれないと、本気でこの時の僕は想像していた。

いくしかない。

楽しいことを調べていると時間はあっという間に過ぎて夜になった。
そこでさらに不思議な面白いことが起きる。

毎日見ていたNHKの天気予報に「八丈島」が登場したのだ。

うそだろ。
目を疑った。

1週間の天気が3段になって並んでいる画面で

関東北部 前橋
関東南部 東京
伊豆諸島 八丈島

なのだ。
うそだろ。
3列しかないのに、1列八丈島になってる!!!

これは僕のテレビだけに起きている現象じゃないはず。
この小説を読んだあなたのおうちのテレビも今日から1列八丈島の天気が表示され始める現象が起きます!!!

例えばドラクエなどのRPGの世界だったら、特定の村人から新しい街のヒントの話を聞くイベントが起きた後に、初めてマップ上の選択肢にその街が出てくる。なんて現象はよくあるんだけど。現実のテレビで起こったぁぁ!!と思った。

もしかしたら、というか当然、以前からその列には八丈島の天気が存在していたし、関東地方の天気が地図で出る画面でも右端に八丈島がずっと出ていたのだが、人間は知らないと視界にも入らないのだということをこれでかなり実感し、学んだ僕だった。

知識とはこの世に見えているものを増やすのだ。
知っているとはいろんなものが見えるということだ。
世界の解像度があがるというか、
知らないと存在している素敵なものを見落とすのだ。


テレビのお天気ニュースは僕がこの夏の日に八丈島を知るという
運命の日までず~っと、
気がつく日までず~っと、
そこに八丈島という表示をこっそり出して放送し、待ち続けていたのかもしれない。
お待たせしましたお天気担当のお姉さん。僕は今日見つけましたよ。八丈島を。

それにしても人口6900人の島の天気予報に1列使ってくれているのは贅沢である。
関東北部、関東南部の天気を必要としてる人はその何倍いるというのか。
ピンポイント情報すぎるぞ。やはりなにかお宝があるのか。

これだけでもかなりびっくりする程、僕の世界の解像度が上がって見えた世界が広がったと思った。

だがしかし、ここで終わらないのが八丈島。

次についに僕は八丈島への行き方を調べ始めた。
この遠い不思議の島にはどうやって行けばいいのかを。

おそらくONE PIECEのようにはるばる船で旅をしないと辿り着けないのだろうと当然覚悟している。
隠しマップの島なんてそう簡単に行けないと相場は決まっているからだ。

以前に僕は小笠原諸島に旅をしたことがあった。
小笠原諸島の行き方は、1週間に1回しか出ない船に乗り24時間海の上を進み続けてようやく到着できる世界遺産の島だった。行くのも帰るのも大変だったが、とても感動したのを覚えている。そんなイメージだ。


「八丈島_行き方」
恐る恐る検索した結果は驚くべき情報だった。


「ANAで片道55分」


んんんんんんん!!!!!!なに!!!!!ええええ!!!

とんでけるの!!!!しかも1時間かからん!!!
しかもANA!!ANAってあの青いANAだよなぁぁ!!!

僕の中の大航海を覚悟していたゴーイングメリー号は空を飛んだ。あっという間に島に着いた。


この時、天気予報の画面と同じ現象が起きた。

東京都の空港一覧をみてみると、

東京(羽田空港)HND
東京(成田空港)NRT
八丈島空港   HAC

と3つ並んでいるのだ。
東京都の空港は羽田と成田だけだと思っていた。思い込んでいた。
ここに八丈島空港が現れているのだ。


まさか、あるのか飛行場。


夢の野球場とANAの飛行場があるめっちゃ遠い隠しステージの島。
八丈島に出会ってしまって僕の世界の見え方がこの日大きく変わったのだ。


5話に続く。

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