I can do
閉店間際の100均に駆け込んだ。
それにしても、どれも108円なのに100均って変だね。変だよ。増税反対。
キャンドゥはまだしも、ダイソーよ、てめーは100均を名乗るのをやめろ(200円商品とか500円商品とかがザラにあるので)。
どうして100均に駆け込んだかというと、草を買おうと思って、草を買いにきたからだ。
なぜ草を買おうと思ったかというと、草を育てようと思ったから。
なにゆえ草を育てようと思ったかというと、心がクソになってこの世から消えたくなった時に、自分がいなくなったらただ部屋で枯れるのを待つものが欲しくなったから。
あと、草は喋らないのがいい。言葉に救われることもたくさんあるが、追い詰められることもたくさんある。草は絶対に喋らない。
なるべく元気で丈夫な草を。108円の値札を付けられても腐らず健やかに育つことができる草を。明日は自分もこの草みたいになろうと思える草を。
閉店間際のキャンドゥには人が店員しかおらんかった。
そんで、店内放送ではRADWIMPSが流れていた。天気の子のやつ。
そうそう、そういえばね、天気の子を見てきたのさ。『君の名は。』以降の民衆にウケることを覚えた新海誠の主人公とヒロインは、こう、社会で真面目な顔して明るくふたり助け合って愛でもって生きていくぞ!愛と平和!的な純粋から足が生えたみたいな生き方をしてるツラしてるくせに、セックスと水分補給だけしかしない暑いだらけきった夏の休日の一日がありそうなのがいいよね(おれはおわりきった俗物だ)。瀧くんと三葉ちゃんも、穂高くん陽菜ちゃんもズッポシガッシリだと言い切れるね(おれはくさりきった俗物だ)。カシオミニをかけてもいい(ご存知これは『動物のお医者さん』の第一話で漆原教授が言うセリフだよ。頭の中で考えてることまでそんなミームに侵された言葉しか出てこんおれは……)。
そんなことはどうでもいいんだ。草だ。
店内の隅のほうのなんか陰気っぽいコーナーに草はいた。葉っぱが細長いやつ、でかいやつ。緑っぽいやつ、黄緑っぽいやつ。くたっとしてるやつ、ほとんど枯れてるやつ。
いろいろな草がいるね。だけど元気そうな草だけがどこにもいなかった。そりゃそうか、108円だし。
どことなく元気のなさそうな草のうちから、その中でも一番元気そうな草を選んで、レジへと向かった。こんなシーンでも、競争・選択は起きてしまうのが悲しいね。でも仕方ないよね。これから僕と元気になる草だ。選ばざるを得ない。世の中どう生きてたって競争はついてまわる。そうだ。この草は自分自身だ。なんとか働けてるし、家もある。底辺かもしれんが最底辺ではない。おれは100均の草のトップなんだ。金魚すくいの金魚だ。まだやれる。元気になろうね。がんばろうね。
レジに立って草を店員さんに渡した。どの店員さんが草の面倒を見てくれていたんだろう。悪いわね、ありがとね。いただいてくぜ。
ところが、財布の中の小銭ポケットには日高屋のクーポンしか入ってなかった。まあ、まあ、お札があるだろうと思ったけど、全然なかった。
今すぐにでも消えたくなりながら、お会計のキャンセルを店員さんに申し出た。ちょっと泣いてたかもしれない。あるいは泣くことすらできてなかったかもしれない。泣いていいのは価値のある生き物だけなので。
天井についてるスピーカーからは、さっきのRADWIMPSの続きが流れていた。
「愛にできることはまだあるかい?」
そういえば、この3週間で8人から薬を飲んだり精神病院に行くことを勧められた。愛にできることはあんまりないのかも。ないってさ、洋次郎。へけっ!でもね、学問と技術と歴史と体系に裏付けられたお薬にできることがあります。それを勧めてくれるのは、愛なんだろうなぁ。ほんまか?愛ってなに?ひとりぼっちか?あ?僕は頭がおかしいと思いますか?おっ?あ?
「僕にできることはまだあるかい?」
僕思うんすけど、ああいう歌詞書く塩顔のボーカリスト全員絶対に日常的に女殴っててほしいっすよね!おわり
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