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UGCでUSGに沼ったので、自分のカスタマージャーニーを振り返ってみようと思う

先日、澤山モッツアレラ氏の
「従来の広告は、UGCに太刀打ちできない」らしいけどなぜ?
というテーマの長文ツイートを読み、「そういえば最近新しい推しができたんだけど、その過程はUGC(User Generated Contents)が大きく作用していたな…」と思い至りました。

https://twitter.com/diceK_sawayama/status/1688132501989146624

この過程(かっこよく言うならカスタマージャーニーだよ!)が客観的に見て「タッチポイントからCVまで、従来の広告やマス媒体ルートを全然通らなかったな」というものだったので、フリー編集者として企業様のマーケティング施策にも多少の関わりがある私の目線で、自分の例を振り返ってみようと思います。

きっかけは「THE FIRST TAKE」

私が彼らを目にしたのは、30年以上推している別のアーティストがYouTubeの「THE FIRST TAKE」に出演したのがきっかけでした。関連動画に彼らの「THE FIRST TAKE」出演動画が並んでいて、軽い気持ちでクリックしたのがファーストタッチポイント。

彼らはUNISON SQUARE GARDENという3ピースバンドで、この時点では「そういえば昔、アニメの主題歌で聞いたことあったなー」という程度の認識でした。

私は個人的に音数多めのベースラインが好みなので、このバンドの曲も「ベースラインがよく動いてたな」という感じで記憶の片隅に引っかかってはいたんです。ただ、当時はそこから音源を買ったりとか、ライブに行くとか、そういった能動的なリアクションは取らずに10年以上が過ぎていました。

というわけで偶然のタイミングで、UNISON SQUARE GARDENの楽曲を初めてちゃんと映像つきで聴きました。

発売音源としての「オリオンをなぞる」は未聴だったものの、「THE FIRST TAKE」での彼らは明らかに手練れた演奏技術(この曲10年も演奏し続けているんだから当然)を持っていて、特にドラムがたくさんアドリブを入れて叩いているのはすぐ分かりました。

てか、五線譜を飛び回る系のベースライン ✕ 手数マシマシ系のドラム って、リズム隊としておかしくないですか?(褒めてる)ギターボーカルもピッチ安定してて上手いし、楽しそうに歌った挙げ句ヘッドホンを振り落としちゃうところとか、「THE FIRST TAKE」の映像としても素敵だなぁと思いました。

UGCが興味関心を喚起

暇つぶしのつもりが思わぬ発見をしたぞ、と嬉しくなった私は、何気なく動画のコメント欄を見て、ちょっと唖然。

「田淵が全く動いていない件」
「暴れずにベース弾いててすごい」
「田淵が椅子に座ってる…だと…」

コメント欄の半分以上がベースが大人しく座って演奏していることに言及してたんです。え、ベースってサムネイルで顔隠れてて、演奏中もずーっとそっぽ向いてた謎キャラの人ですよね!?

私はこのコメントにつられて、思わず彼らの2本目の「THE FIRST TAKE」出演動画をクリック。

やっぱりベースの人動いてないうえに、コメント欄で「椅子に縛り付けられてる説」出てるの面白すぎる…

さらにコメントで「このバンド最高だから、動画で気になったらぜひライブへ!」と推してるファンの子が何人もいて、楽曲も気に入ったけど、ファンの子たちの印象がとても良くて、それが相乗効果でバンドの印象を高めていきました。

この「コメント欄の声」がUGCです。Googleマップのクチコミとか、SNSで一般消費者が商品の感想を投稿しているのもそうです。

これはアーティスト側(企業側)がコントロールできない内容で、なおかつ他のユーザーにも「not広告で、消費者の生の声」として影響を与えやすいコンテンツとして認識されています。案件はすぐにバレます。

難しいのが、ただ熱心なファンが付けば良いというものでもない点。例えば、私がずっと推してる別アーティストのYouTubeコメント欄は信者じみた礼賛コメントも多く、そのUGCが第三者から見たアーティストの印象を良くしているかと言うと、正直微妙です。

UNISON SQUARE GARDENのUGCに話を戻すと、当然「ファンがこんだけ言及してるってことは、ベースの田淵さん、普段はどんだけ動いてるんだろう」って興味が湧くわけですよ。
そんな私に、親切なYouTubeさんが関連動画に「明らかに田淵さん動いてそう」なサムネイルを出してくれました。ポチリ。

…動いてたわ。田淵さんめーっちゃ動いてたわ。高層ビルの窓から落ちそうなくらいあっちこっちしてたわ。

通常運転がこうなら、そりゃあファンは「THE FIRST TAKE」の田淵さんの様子にビックリするよ。顔を見せないこと含め明らかに狙ってやったよねアレ。そうか策士か。お茶目じゃないですか。

いやー面白いなこのバンド、歌も演奏もレベル高いし、他の動画も見てみようかな…と、この時点でようやく彼らのYouTube公式アカウントを探すに至りました。

ということは、ファーストタッチから公式アカウントに遷移するまでに影響したのは、UGCとYouTubeのアルゴリズムのみです。ただし、どこまで意図的かは不明ですが、UGCを喚起させるような演出をアーティスト側も仕込んでいました。

とはいえ、最も大きいのは楽曲自体のパワーです。どんなにUGC良くても、試しに聞いてみた楽曲を良いと思わなかったら「他の曲も聴いてみたい」とはなりません。いくらSNSで高評価のクチコミを集める化粧品でも、試供品で自分の肌に合わなかったら本体を買わないのと同じです。

YouTubeのMVからCVへ

UNISON SQUARE GARDENの公式アカウントでは、各種タイアップ曲のMVがフル尺で公開されていたり、ライブ映像がダイジェストでなく1~2曲分まるごと公開されていたりして、その気前の良さに驚きました。あと田淵さんは全曲楽しそうに暴れてました。

その公式アカウントで公開されてるMVをあらかた視聴して、たいへん気に入ったので「よし、音源全部聴こう」とTSUTAYAでアルバム全部借りました(流石に既発アルバム9枚を大人買いはできなかった…)。現物購買ではなくレンタルではありますが、CV(コンバージョン/成果獲得)です。

ちなみに、Spotifyでもほとんどの曲が公開されていたので、当初は「わざわざレンタルまではしなくてもいいかも」と判断していました。

ところが、ドラムの貴雄さんによる、曲のコツから練習法、ライブでの見せ方からレコーディングまで全て本人解説でお届けしている超マニアックな動画を見て「このバンドは絶対きっと好きになるので、サブスクじゃなくて、CD音源のデータを手元に保有しとこう」と考えを改めました。(電子書籍ストアのサービス終了があったため、サブスクへの信頼度が低いのも影響しています)

「商品のこだわりや生産者ストーリーを知ると、よりロイヤルティが高まる」というのがマーケティングの定石ですが、まさにその通りの挙動です。

ちなみに、ライブのチケットも取る気満々です。X/Twitterでユニゾンファンの子たちがイラスト付きでライブレポ(これもUGCです)をUPしているんですが、それがまぁ面白い。ファンの子が「このバンドの真骨頂はライブ」と言ってるのはこういうことか…と思ったので。UGCでクロスセルまで大成功ですね。

以上が、今回UGCによってUSGに沼った際のカスタマージャーニーです。

いやあ、こんなにアーティストに一直線に沼るのは学生時代以来で、自分のムーブがむしろ面白い。ちなみに学生時代は「歌詞をすごく読む」タイプのハマり方をしたんですが、今回は歌詞ほぼノールックです。

思うに、思春期特有のセンシティブな精神状態って「目に見える歌詞」にすごく心惹かれやすかったんでしょうね。今は仕事家事育児で完全フリータイムが少なく、歌詞の行間を読むような思考の娯楽に手を染める暇がないのもあるかもしれません。

個人的な感覚ですが、UNISON SQUARE GARDENの場合、ところどころフックになる歌詞があるんだけど、譜割りが細かすぎて歌が「言葉」というより「メロディライン」として耳に入ってくるタイプの楽曲(洋楽聞いてる感じに近い)が多いように思います。ギターボーカルの斎藤さんもあえて楽器っぽい歌い方をしているのかなと。

蛇足:音楽業界のマーケと購買行動と持続可能性について

ここからは蛇足。UGC関係なく思ったことをつらつら書きます。

さて、振り返ると私が今回CVに至るまでに、音楽雑誌とか音楽番組の類を一切見てないんですよ。これも学生時代と大きく違うところです。

昔は、音楽雑誌や音楽番組でしか、アーティストの考えを知ったり演奏風景を見たりすることができなかったのに対して、今はアーティスト側がYouTubeやSNSで自ら情報発信が可能になっている。つまり、媒体経由じゃない直接のタッチポイントが増えているんですね。

出版業界出身者としては、直接タッチポイントの増加に比して雑誌媒体が減り続けている(WHAT's IN?も月カドもGiGSもPlayerすら休廃刊ですよ…)のは、なんとも言えない気持ちになります。一方で、いち音楽リスナーとしては直接タッチポイントがあれば特に困らないのも確かです。

新たなアーティストと出会うきっかけが、雑誌のインタビューやお気に入りの音楽ライターのレビュー記事だったのが、YouTubeの関連動画やSNSに流れてくるUGCに変化しただけ。しかもCDショップの試聴機に行かずともSpotifyで楽曲をフル尺試聴できるんですから、昔よりも多くの楽曲と接点が増えたのも確かです。さらにYouTubeでMVも視聴できるんだから、そりゃあ地上波の音楽番組もなくなります。

私は音楽業界のマーケには縁がないので、素人目線の素朴な疑問なんですが、YouTubeでMVやライブ映像を長尺で公開したり、サブスクに全曲解禁したりするマーケティング施策で、楽曲の利益率は良くなった/悪くなったどっちなんでしょう。

昔なら「気になったからシングル買おう」ってCVしてた人が、「YouTubeでMV見たからいいや」と未購入のままで終わっちゃう可能性もそれなりに高くなっているのでは?

というのも、まったく別のアーティストの楽曲で、YouTubeのMV視聴で満足してしまい、結局何も購入しなかったケースが結構あって。これってCV機会損失なんじゃないかと。

別の見方をすると、楽曲が誰かの好みにぶっ刺さって購入まで至るCV率が、仮にMV視聴者の100人に1人の割合(1%)だとしたら、YouTubeでより広範囲のユーザーの目に触れる戦略をとればいいってことなのかな。例えば、MV再生回数が10,000回まで伸びれば、1%=100人が購入に至るだろうって計算です。でも、それってかなり厳しい戦いなんじゃないでしょうか。

私の場合ですが、話題になったアーティストのシングル曲MVをYouTubeで視聴して、このシングル入ってる最新アルバムを買おうかな…という気になったとします。

でも、すぐアルバム購入しちゃうんじゃなくて、ひとまずSpotifyで確認しよう…という予備動作が入るんです。そこでアルバム曲を試聴した上で「あ、アルバム買うほどでもないな、気に入った曲だけSpotifyで聞けばいいや」と判断しちゃったことも多々あります。

もちろんその逆で「全曲面白い! アルバム買ってよかった~!」という出会いもあるんだけど(レキシは良いよ)、昔よりも手軽に音源をフル尺で確認できる分、ちょっと気になった程度の楽曲や購入して手元にデータ確保しておくまでもない楽曲は、Spotify等のサブスクサービスで聞けばいいや…というムーブになりがちです。

Spotifyがあれば無料ユーザーでも楽曲をバンバン吟味できるので、よっぽど楽曲の力が強いか、アーティストへのロイヤルティが高い状態でないと、有料CVに至らない。購買行動が変化して、以前に比べて有料音源を購入する機会が減ったのは確かです。

他方、サブスクサービスでの楽曲再生によって、アーティスト側にどれくらい利益が分配されているのでしょう。この音楽流通・消費の仕方で、アーティスト側の音楽活動は持続可能性があるのだろうか?というのは、いち音楽リスナーとして気になるところです。


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