箱の世界〜愛が導いた奇跡〜②

World1 光が灯った場所

名乗るのが遅くなりました。私は松森 瑚々(まつもり ここ)。今日、中学2年生になります。
前の学校で色々あった私は虹丘中学校に転校して2年2組になった。
でも、まだ皆、クラスの子達には会っていない。
一応、転校してきたから自己紹介を学年集会でするらしく、その時に"初めまして"になる。
今はその原稿というか集会でなんて言うかを考えてくるよう先生との顔合わせで言われたので少しずつ作業を進めている。
自己紹介なんて本当はしたくない。
友達が欲しい訳でもないし、学校生活を楽しみたい訳でもない。
だって私は病気をもっているんだもん。
でも私に喘息のようなみんなが知っている症状がある訳でもないから入院なんてする必要は今のところない。
ただ、珍しい病名が私の前にあるだけ。
だから問題を起こして親に迷惑もかけたくないんだ。
私が病気になったせいか、お母さんは正社員からパートの仕事量に減らして極力家にいるようになった。
今まで仕事が大変であんまり家で一緒に過ごすことがなかったお父さんも出張先から電話をたくさんかけてくれるようになった。
家族みんなが私の病気で生活を変えなければいけなくなったのだ。
だから、これ以上、迷惑をかけるわけにはいかない。
「名前と、前入っていた部活は絶対って言われたけど、他になにか言うべきことはあるのかな......」
考えていたらそれが口に出ていたのか、リビングで洗濯物を畳んでいたお母さんが〔虹丘中学校での楽しみなこととか意気込みとか言ってみたら?〕と言ってきた。
楽しみなことなんて......。
そんな言葉はもちろん口には出さず、
「確かに!それについて書いてみる!」と言っておいた。
今の私、ちゃんとワクワクしているような表情出来てたかな。
虹丘中学校の案内に学校行事等色んなことが書いてあったことを思い出して顔合わせの時にもらった資料を見ることにした。
「わぁっ。虹中祭ってのがあるんだ。文化祭のことかな。楽しそうっ!えっと、他にはっと......」
お母さんの前だからこんなふうに明るい口調で楽しんでいるけれど、明るい性格を演じるって結構疲れるかも。
そんなこんな思いながら行事等を調べて、いよいよ学年集会の日がきた。「2年2組に転校してきました。松森 瑚々です。
前の学校では、美術部に入っていたので絵を描くのが好きです。他にも本を読んだりして休みの日は過ごしています。虹中祭というものがこの学校では楽しみです。
これからよろしくお願いします。」
ふぅ。よかった。噛まずに最後まで言えた。
そう集会が終わったあと教室に戻りながら思っていたら机に着いた途端たくさんの人が机の周りに集まってきた。
急にたくさんの人に囲まれて、動揺したけど、その中の一人が私に話しかけてきてくれた。
「松森さん、よろしくね。私は佐藤 華鈴(さとう かりん)って言います。」
明るい口調で話すその子が口を開いた途端一気に周りがしゃべりだした。
賑やかな所はそこまで得意ではないけれど、これからここで性格を演じるために「うん!よろしくね!かりんちゃん!」と笑顔で言った。
そうして私は、仮の友達をたくさん作ることが出来た。 〔瑚々、新しい学校生活はどうだ?楽しく過ごせそうか?〕
夜。お父さんがそんな事を聞いてきた。
「うん!すごく楽しいよ!」と言い、初日の朝は友達がたくさん出来たことでお父さんと話した。翌日、新しいクラスになったので、各自隣の席の人と喋る時間が設けられた。
「松森 瑚々です。よろしくね。
『こちらこそ、よろしく。俺は宮槻 香澄(みやつき かすみ)です。女っぽい名前だけど男だからね。』
優しくはにかんだ笑顔がドラマで出てきそうな人ほどはにかんでいて、一瞬見惚れてしまった。
この時の私は知らなかった。

宮槻くんとの出会いが私の人生を変えることになることを"

転校して早1週間。私は吹奏楽部に入部した。
私はトランペットを担当することになり、あと1週間もすれば今の1年生が新入部員として仮入部する期間になる。
それまでにある程度のことはできた方がいいとパートの先輩は、音の音域や楽器の手入れの仕方、吹くにあたっての必要なものや便利なものまで丁寧に教えてくれた。部活にも慣れ、だんだん吹けるようになったある日。
音楽室だけでなく学校中で練習していいことになった。
トランペットパートが主に使うのは3階の教室。
すごく今更だが虹丘中学校は、広くて大きい。
クラスが1学年に5つもある。
前の学校は、1学年3つあって多いくらいだったのに......。
そして、校舎は4階建て。
中学校でこんなに大きいなんてなかなかないと思ってた。
だからまだ学校では迷うことがある。
特別教室が多い1階、2,3,4階は5クラスある生徒が主に生活する教室と1階にはいりきらなかった特別教室がある。ちなみにこの学校にきて一番最初に入ったのは校長室。
校長先生と2年2組の先生に挨拶するためにお母さんと校長室を探した。
私はこの学校にきて、1番驚いたことが、校長室が4階にあるということだった。
会議室や生徒会室が4階にあるのに、職員室が3階ということも驚いた。
トランペットパートがよく使うというのが3階の校庭側にある2年生のプレイルームフロア。
ここは日光なども多くは当たらないし気温も激しく変化しないので練習には最適だった。
転校して2ヶ月経った頃には、毎日の練習で校庭を使って部活をしている人を見るのが私の密かな日課になっていた。
吹奏楽部に同じクラスの子は少なくて話すのも同じ音域の先輩としか話さない。
かりんちゃんはテニス部だから、部活中は別々だけど、プレイルームからテニスコートも見えるから、かりんちゃんを応援しながら練習することも多くあった。
最近の変わったことといえば、サッカー部の宮槻くんが部活中に手を振ってくれるようになったこと。
振り返すと笑顔で返してくれるから、かりんちゃんより宮槻くんを多く目で追ってしまうなんてことは秘密のこと。早いものでもうすぐ夏休み。
夏は吹奏楽部の集大成を発揮するコンクールがあるけれど私はまだ経験が浅いため、マネージャーのような仕事につくことになった。
本番の予行練習以外は自主参加のため、テスト勉強に当てることにした。
7月の上旬、私は宮槻くんにテスト勉強のお誘いをされた。
私はもちろんOKと返事をして、かりんちゃんも誘うことにしたことを宮槻くんに聞くと彼も友達を誘うつもりでいたみたいだから大丈夫と言われた。
どんな子なんだろ......宮槻くんのお友達は。期末テストが1週間後に近づいた土曜日、勉強会が開かれた。
場所は宮槻くんのお家。かりんちゃんと一緒に宮槻くんにもらった住所をスマホのマップに入れてお家に向かっている間、かりんちゃんとたくさんのお話をしながら歩いた。
「そういえば、宮槻の家ってお金持ちで豪邸ってウワサ聞いたことある......。」
「えぇー!そんな人に勉強誘われちゃったの!?
きちんと服とか整ってるかな.......」
かりんちゃんにそう言われた途端、服が汚れてたりしてないかとか急に始まったチェックタイム。
「まぁ、瑚々と宮槻って、イニシャル全く同じだもんね。」
そう、かりんちゃんから言われて宮槻くんの名前と私の名前を頭の中で並べた。
「ほ、ほんとだっ!」
「今気づいたの??案外運命の2人だったりしてね(笑)」
「そんなわけないよ。イニシャルが同じだけで運命なんて、童話の中じゃないんだから(笑)」
「意外とそうかもよぉー!うちの学校でイニシャルが全く瑚々と同じ人なんていないもん。宮槻も勉強を誘うくらいだし瑚々のこと嫌ってはないだろうし、逆に好いてるかも?」
「からかわないでよ。まだ宮槻くんのことよく知らないのに、そんなこと......」
口ではそう言ってみたけど、恋愛とかに興味が無い訳では無い。でもそういうことを考えると必ず、"病気"という言葉が頭を巡った。
宮槻 香澄くん......いったいどんな子なんだろう。
私は1人でそう考えていた。

香澄side
数ヶ月前、俺のクラスに転校生がきた。
今まで見た事がないくらい容姿が整っていて、絶句するほどの。
同じ学年にいる女子の中でダントツ可愛いと思う。
そんな子が隣の席なんて......。
あの子を見てて恋をしない男はいないんじゃないかと考えたほどだ。
実際。めちゃくちゃ羨ましがられた。同じクラスの男子たちに。
そんな見かけでしか判断できないやつに松森さんを渡すわけにはいかない。と謎の対抗心が芽生えた頃には俺は恋をしていたんだと思う。
試しに勉強会に誘ってみたら、快く承諾してくれたし。
そんな、いつもならなんとも思わない一連の行動が、あの子に対してはよく言う胸キュン的な感情に支配される。
小学校から周りにモテた俺は自分から誰かを好きになるどころかひとつの事に夢中になることがほとんどなかった。
だからこそ、松森さんを見た時に抱いた"好き"という感情が不思議で仕方なかった。
自分から誰かを好きになるなんて経験したことがなかったから。                    
                                                                              香澄side fin

喋ってたらついつい足が遅くなっちゃってた......っ!
大丈夫かなぁ。
少し急ぎ足になりながらも宮槻くんのお家に着いた。
もう見ただけでお金持ちと分かるくらい立派なお家だった。
華鈴ちゃんとチャイムを鳴らすと宮槻くんが出てきた。
「ごめんね。喋りながら歩いてたら遅くなっちゃって!」
『全然大丈夫だよ。佐藤さんもいらっしゃい。暑かったでしょ?上がって......!』
遅れたかもしれないのに、なんだか宮槻くんの機嫌はよかった。
案内された部屋に入ると知らない子が部屋にいた。
『あぁ、迅(じん)と松森さんは初対面だよね。迅、松森さんだよ。今年の春に転校してきた。』
[知ってる。学年集会で見てたから。俺は西丘 迅(にしおか じん)クラスは2年4組。よろしく。]
「あ、よろしくお願いします。松森 瑚々です。」
『えっと、佐藤さんは、迅のこと知ってる?』
「知ってる。1年生の時同クラだった。」
『じゃあ、みんな揃ったし、お互いのことも知れたし、勉強始めよっか。』
宮槻くんがそう言って私たちは一斉に真剣モードになった。

お互いに分からないことを教えあっていて、わかったことがある。
わたし以外、みんな頭いい......!
私なんて、授業きちんと聞いてても分からないことだらけなのに。
教え方もすごく上手いし、なによりすごくわかりやすい。
そんなことを1人頭の中で考えていたとき、宮槻くんが口を開いた。
『結構、勉強したし、飲み物もなくなってきたから、じゃんけんで負けた2人がコンビニに買いに行くってどう?』
全員が賛成し、私達はじゃんけんをした。
結果は......
『佐藤さんと迅が負けね。じゃあ、よろしく。俺メロンソーダ。松森さん、なににする?』
「あ、じゃあ、オレンジジュースで。」
そんな会話をしてて気づかなかったけど......
私、宮槻くんと2人きりじゃん!!!!
2人が部屋を出てったあとも沈黙が続くので口を開いた。
「『あのっ!』」
宮槻くんと言葉が重なった。
逆にもっと気まずくなって再び沈黙に......。
もうっ!華鈴ちゃんが運命だとかなんだとか言うからぁ。 
『松森さん......あのさ。』
「ふぇっ!?」
急に呼ばれたから思わず変な声出しちゃったぁ!
『瑚々ちゃんって呼んでもいい?これから。』
急に名前で呼ぶことを提案されたけど「あ、はい。」私は何も考えずにそう答えた。
名前で呼ぶのに許可なんているのかな。と、考えたけど隣の席だし、苗字呼びだと他人行儀過ぎるかな......。
いや、他人だし、隣の席ってことしか繋がりはないけど!!
「あ、じゃあ、この際、私も香澄くんって呼んでもいいですか?」
『いいよ。てか逆に呼ばれたい。それに敬語もやめよ?』
呼ばれたいって......なにか意識してる??
私から見る限り、耳とほっぺが少し赤らんでいる気が.....。風邪ではないだろうけど......。
『ごめん。ちょっとトイレ行ってくる』
「あ、うん。」
そう言って宮t....香澄くんは部屋を出てった。

香澄side
あー。もう!ほんとあの子何したいんだよ!!
トイレに行く振りをして部屋から出てきたけど、あの子どんな気持ちで俺が見てるか絶対分からないだろうなぁ。
今、好きな子が自分の好意に気づかないで自分の部屋にいるってことだけで頭がどうにかなりそう......。
俺がどれだけ君のこと想っているかも知らないで。
理性かき乱しといて......。
本人が自分の可愛さ分かってないのが1番タチ悪いだろ。
俺の気持ちって教えた方がいいのだろうか。
自分の中で勝手に始まる葛藤が全てあの子によって生み出されたものなんだと考えると不思議になる。
"元気すぎる子より少し静かな子の方が好き"
"ショートヘアよりロングより短いセミロングが好き"
なにより、見ただけで健康に気を使ってそうな純粋な子が可愛くて仕方ない。
あの子は、好きだと思うポイントが全て詰まっている。
本人が自分の家にいてもなお、こんなことを考えてしまう俺が1番やばいのだと気づくのはまだ先。
                                                                         香澄side fin

香澄くんがお手洗いから戻ってきてなにか考えているような顔をしながら場所に座ったので"香澄くん?"と名前を呼んでみた。
途端に我に返ったのか、『あっ!』と香澄くんが声を出す。
「大丈夫?」
そう聞いただけなのに首を何回も縦に振る香澄くん。
もっと心配になったけど、「ほんとに?」と聞く前に香澄くんが喋りだしてしまった。
『いい機会だから、連絡先交換しない?』
まだ、よく知らないけど、隣の子だからいっか。という気持ちで私は香澄くんと連絡先を交換した。
そのあと、お互い挨拶がわりのスタンプを送っておいた。
交換したあとも香澄くんの様子は部屋に戻ってきた時とさらさら変わらなかったけど、2人で学校のこととかお互いのことを話していると、買い出しの2人が帰ってきた。
その時に香澄くんが『今の会話、2人だけの秘密ね』と言われたので秘密にする理由を聞かないで約束をした。
そのあと、みんなで華鈴ちゃん達が買ってきてくれたお菓子を食べながら勉強をした。

それにしても、あの時の香澄くん、なんだったんだろう。
楽しかった勉強会が終わり家に帰る道を歩いていた時に鞄に入れていたスマホがメッセージを知らせる着信音を鳴らした。
誰からだろう。と思い確認すると、「KASUMI」と書かれたところに①とついていたのでタップして開くと、
『今日はありがとう。瑚々ちゃんのおかげで楽しく勉強が出来たよ。』というメッセージが届いていた。
すぐに返信を打とうと近くにあった公園のベンチに座った。
お家にお邪魔させてもらったから、お礼と「私も勉強教えてもらえて嬉しかった。」と送った。
すぐに既読がつき、香澄くんから新たなメッセージが送られてきた。
でも、そのメッセージは私には理由が上手く理解できないものだった。
『瑚々ちゃん、あのね、お願いがあるんだ。学校では今まで通り苗字呼びのままにしてくれないかな。』
さっき、自分から呼んで欲しいと言っていたのに??
なんでだろう。
でも、その本人がお願いしてきたんだし、なにか理由はあるんだよね。
私は了承のメッセージとスタンプだけを送り、理由は聞かないままスマホを閉じて帰路に戻った。

                                                                    次回へ続く