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懐かしくも空しい愛おしさ

風が冷たい。太陽は暖かい。
それでも、なぜか、何かが足りない。

少しも違う事はないはずなのに。
何かが足りない。

風の匂いは懐かしい。
一昨年の匂いがする。

チョコと温かいコーヒーを思い出す。
それに、誰かがいたようなにおいがする。
あの時、一緒に居た人は誰なんだろうか。
もう思い出すことはない。
まだそこに、ずっと、一緒に居るような気がするのに。

—コォォォォォォ—

お湯を沸かす音がする。
ちょっと香ばしい匂いと、誰かの匂いがする。
誰だろうか。優しく温かい匂いがする。
白く、ほろほろと、空から降りてくる雪の匂いはどこか温かい。


冬の朝に、一人、目が覚めた。まだ寒い朝だ。
一階のリビングに降りて朝ご飯を食べた。

「行ってきます。」

歩きながら駅に向かう途中、カバンからイヤホンを取り出して耳につけた。
吐く息はすっかり白くなっていた。電車とバスを乗り継げば学校につく。
授業を受けてそのまま帰る。そんな日々の繰り返し。

「結局、一人が一番あってるんだろうな。」

足元には、枯れた木の葉が敷き詰められている。
木の葉達も、多分、一人で枯れていったんだろう。
噛みしめるように踏みしめた。

すると、知っている人の匂いが鼻の前を横切った。
思わずあたりを見渡した。もう顔なんて思い出せないのに、なぜか探してしまう。暫くたつと、その匂いは風に乗ってどこかへ消えていった。


駅について電車に乗り込んだ。座った座席の向かいの窓には、曇りの一つすらない。そんな済んだ窓ガラスの向こうには、あろうことか、あの人がいる。

「え。」

思わず声が漏れた。その人はまさに、さっき風に乗って消えていったあの子だった。少し背が高くて、掴み所がない。

その子は、こちらには気づいていないようだ。

まあ、そんなことは当然としか言いようのない事実。

忘れられるに値する仕打ち。

私は、今この一瞬、呼吸などしていなかった。


最後までお読みいただきありがとうございます。

寒い朝は、苦手です。

梔子。

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