くちなし書房

梔子書房では、店主兼作家の梔子(くちなし)の書いた作品を投稿しています。 私情により投…

くちなし書房

梔子書房では、店主兼作家の梔子(くちなし)の書いた作品を投稿しています。 私情により投稿が途切れます。店内の雰囲気だけでも楽しんでいただければ店主が喜びます。

マガジン

  • 小言のような詩たち

    💡小言のような詩を集めました!2分もあればサクサク読めます♪

  • ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。

    💡ほっこりしたい時におすすめ! 会社で嫌がらせを受けている主人公が、仕事を辞めて田舎で暮らすことにした。1人で静かに暮らすイメージをしていたが、その予想はすぐにないものになる。ちょっと変わった田舎暮らし、はじまります。

  • 短くてすぐ読めるものたち

    💡5分で読める短いお話集!寝れない夜やほっと一息などにおすすめ。 最大800字程度で5分もあれば読み終わる掌編小説をまとめました。

  • 梔子の考えたこと集

    💡物語というよりも、思ったことを誰かに共有したいために書いた随筆?です

  • 夢の中

    💡読み切りのちょっと怖いお話たち。本当に見た夢が元になっています! ーこれは私が見た夢の話。そう、夢の話。夢であれば納得がいく話。夢であってほしいとすら願うほど、気分が悪くなる話。ー

最近の記事

  • 固定された記事

ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#11 おさんぽ

* リュックの中にサンドイッチの入ったタッパーと、銀マットと、ボトルに入れた水を詰め込んだ。暖かいとはいえ風が冷たいので、薄手のシェルジャケットを羽織ってリュックを背負った。 ごろうちゃんにも何か着せてあげた方がいいのかな。 「ごろうちゃん何か着る?」 「あったかいの!」 多分、ダウンベストのことだろうけど、ごろうちゃんの背丈にしては長すぎるのでいったん却下にした。代わりに大きめのマフラーで上着っぽくアレンジして羽織らせてあげた。ごろうちゃんと玄関に向かって、靴を履い

    • -小言- 自分の中身

      --私は××そうと思った。 髪を伸ばしてみても、 服装を変えてみても、 本当の自分にはなれなかった。 本当の自分が、一体どんな姿をしているのかすら はっきりとわからない。 自分らしさ、本当の自分、個性、特性、アイデンティティ。 そんなものは私にはないと、声に出したかった。 が、私にその権利が保障されている確証が得られない。 ましてや、この声が他人の物でない時点で、そんなことをいうには矛盾が発生する。 ずっとぐるぐると頭の中を、身体中を鬱陶しい鵯〈ヒヨドリ〉の鳴き

      • 小品「幸せの花」

        「ここに赤いのがあるでしょ?これ、実は…」 幼馴染にそう言われて、一瞬で悟った。 もう長くはないんだと。 幼馴染の首元に、赤いニキビのようなものができていた。 それは死期が近い人に現れる「幸せの花」の種らしい。 それを伝えてくれた時の幼馴染の笑顔が、 あまりにも綺麗で泣きたくなった。 そのあとは頻繁にドライブに行った。 春には桜を見て、 夏にはひまわり、 秋にコスモス、 そして冬には、幸せの花。 あっという間だった。 幸せの花はスミレの花によく似ていた。 失

        • 小品「非常」

          このマンションには、頭のおかしい奴が住んでいるらしい。 上の階に住んでいる奴がそんなことを言っていた。 頭のおかしい奴とはどんな人間なのか。 全く見当はつかないが、とにかく近づかない方が良いことだけはわかった。 なんでも、日の暮れた夕方によく目撃されているらしい。 私が仕事を終えて帰ってくる頃の目撃例は少ないらしいが、 安心はできない。 そう考えていたのは、上の住人からその話を聞いた後の数週間だけだった。 その頭のおかしい奴は、一人ではなかった。 五人ほどだろうか。

        • 固定された記事

        ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#11 おさんぽ

        マガジン

        • 小言のような詩たち
          9本
        • ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。
          12本
        • 短くてすぐ読めるものたち
          6本
        • 梔子の考えたこと集
          1本
        • 夢の中
          3本
        • 居場所
          5本

        記事

          —啓蟄—

          季節という概念が曖昧になったまま、十一月が顔を覗かせた。 その日、私は何故か慌しかった。 稽古場へ行き用事を済ませた後、近所の書画展へ行った。 筆の跡が、黒く淀んだ蚯蚓の様だと思った。 書画を見た時の、言葉になりきらない感情は、 私ではない誰かの感情であると思えた。 私は初めて、文字が人の口から生まれるものではないと知った。 また、友人がギャラリーを構えたと聞いて、京都へも飛んで行った。 私は産まれて初めて、人にシャンパンを贈った。 そこでは、ある種の既視感を覚え

          階段の誘惑

          その階段を一目見たとき、私は心を惹き付けられたように眺めてしまった。 その階段は、特段これと言った特徴はないものの別な階段とは違った異質な雰囲気を醸し出していた。有名な画家が最後に描いたと噂される絵画を見たときと同じ気分になった。なんでもない風景を描写した絵画のように、何でもないその階段にだけしか目が向かなかった。 私の心は、その階段に誘われているような気がした。それも、一度や二度の話ではない。この洋館を改装した図書館へ来るたびに、その階段に見惚れてしばらく足を止めたまま

          箏の稽古をしているのが二人。 一曲を終えて溢れた「詰まらなくなってきた」についてのお話。 初見では詰まって間違うことがあるが、慣れてくるとそに詰まりが取れて流れるように演奏できるようになる。 「つまらない」は出来ないながらに練習する楽しさを忘れた時に訪れるのかもしれない。

          箏の稽古をしているのが二人。 一曲を終えて溢れた「詰まらなくなってきた」についてのお話。 初見では詰まって間違うことがあるが、慣れてくるとそに詰まりが取れて流れるように演奏できるようになる。 「つまらない」は出来ないながらに練習する楽しさを忘れた時に訪れるのかもしれない。

          切れ端の記録—㸅—

          —3月某日。数日間にわたって、連続して火災が発生した。 火元が不自然であったため、警察は放火魔の仕業とみて捜査を進めていた。その矢先、人間に偽装したカゲが遺体で見つかった。死因は不明らしいが、その見た目から焼死であると鑑識の判断が下りた。 警察がカゲの遺体を黒い鞄のような袋に移しているところが、ブルーシートの隙間からちらりと見えた。カゲの遺体の口が開いているようにも見えた。ブルーシートの隙間はすぐに黒い靄が掛かって何も見えなくなった。最近、警察でもカゲと協力する方向に可決し

          切れ端の記録—㸅—

          昨日は大学の友人と美術館へ出かけた。 そこで見た展示では、大きな問いに対して、作家それぞれが発表する作品で溢れていた。空間自体が、それぞれの作家達が見聞き、感じ、考えたことであった。 私も考えずにはいられなかったのだが、一気呵成に済まさなかったのが少し悔いだった。

          昨日は大学の友人と美術館へ出かけた。 そこで見た展示では、大きな問いに対して、作家それぞれが発表する作品で溢れていた。空間自体が、それぞれの作家達が見聞き、感じ、考えたことであった。 私も考えずにはいられなかったのだが、一気呵成に済まさなかったのが少し悔いだった。

          ご無沙汰しております、梔子です。

          以前からよくしてくださっている皆様、 ご無沙汰しております。 梔子です。 危険な厚さが続いていますが、 皆様お変わりないでしょうか。 私はなんとか元気に過ごせています。 さて、約半年ほど投稿できていませんでした。 楽しみに待ってくださっていた方には本当に申し訳ない思いでいっぱいです。 そこで今回は近況報告として、記事を書いています。「最近どうしてたの?」と感じていた方は特に最後まで読んでいただけたらと思います。 以下に今回の内容をまとめておきますので、気になるところ

          ご無沙汰しております、梔子です。

          コーヒーとチョコ

          * 最近元気の在庫もない、製造ラインも止まってるなんて話をお友達としてた。 自分じゃどうしようもない悩みが、忘れていただけでずっとあったこと。 最近また思い出して、元々自分を許せたわけじゃないけど、やっぱり、自分のことをなんだか許せなくなった。 「私ってなんなんだろうね。」 ずっとそんな、すぐには答えが出ないような、出さなくてもいいようなことを考えてしまう。 でも少しは、気分が良くなったかな。 多分。 * 最後まで読んでいただいてありがとうございます。 スキ

          コーヒーとチョコ

          ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#12 お風呂

          * 家についてからはお風呂の栓と蓋をしてすぐにお風呂を沸かした。 お風呂が沸くまでの間、私はスマホで撮った写真を眺めていた。 「今日で120枚か。」 ちょっと撮りすぎちゃった気もするけど、思い出として残しておけるから、とつい撮ってしまう。私が写真の整理をしている横でごろうちゃんは持って帰ってきたタンポポの花をじっと眺めていた。 そう、行き道で出会ったタンポポ。帰り道も同じ道を通ったので、持って帰る?と提案したら嬉しそうにしていたから持って帰ってきた。コップに水を注いで

          ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#12 お風呂

          大切な人を失ったあの頃の世界が一番美しかった。

          大切な人を失ったあの頃の世界が一番美しかった。

          届かない手紙

          もう届かないから、出せてない手紙がある。 何時に書いたのかも覚えていない。 どうせ届かないんだから、新しく書き換えた。 ** 春になると、あなたを思い出して寂しくなります。 桜が咲くから。 チューリップが咲くから。 暖かいから。 あなたを思い出します。 あなたと一緒に水族館へ行った帰り、バスを逃して歩いたことも。 大きな公園の梅を見に行ったことも。 会える日が少なくて寂しかったことも。 春になると思い出します。 今、もう一度あなたに会えたなら。 ただ一言だけ。 こん

          届かない手紙

          月とオドリコ

          ↑この動画のコメント欄に「文豪ニキネキ、和風な小説をはよ!」的なコメントがあり、触発されて書いたものです。 流しながら読むと、より雰囲気を楽しめます。 「月とオドリコ」 湯につかった後、暖簾をくぐると少し暗い回廊に出た。 まだ少し檜の香りがする。 自分の出てきた暖簾のかかった横に、薄く壁を隔てて女湯がある。私は誰かに見られているようだったが、それは誰なのか、また、どこからの視線なのかはわからない。少し、胸がざわつくのはその為だろうか。一度息を大きく吸い、深呼吸をした。少

          月とオドリコ

          詩「鯨」 空を見上げると波が立っていた。 それほど大きくないけれど、はっきりとそれが波であることがわかった。 足元にはそんな海が反射している。 「…空は海の鏡なんだ。」 本当に綺麗なものを見た時、言葉を失うと人は言う。 鏡面の中に、私はいなかった。

          詩「鯨」 空を見上げると波が立っていた。 それほど大きくないけれど、はっきりとそれが波であることがわかった。 足元にはそんな海が反射している。 「…空は海の鏡なんだ。」 本当に綺麗なものを見た時、言葉を失うと人は言う。 鏡面の中に、私はいなかった。