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W杯が100倍楽しくなる「トモにカタールへ!!!」とは|ちょんまげ隊の新たな試み2022

1993年10月28日、Jリーグ史に語り継がれる事件が起こった。2対1と優勢だった日本が、試合終了直前のロスタイムにゴールを決められた。勝てば翌年の本大会に出場できる試合。同点となったことで、日本は初の本戦出場を逃した。

後に「ドーハの悲劇」と呼ばれるこの事件。サッカーファンのみならず、日本中にインパクトを与えた。

そんな試合を見て、サッカーファンになった男がいる。ちょんまげサポーターのツンさんだ。今ではサッカーワールドカップ大会のたびに注目される名物男だが、この時まではサッカーにはちっとも興味がなかったらしい。

そんなドーハの悲劇が起こったカタールで、2022年にサッカーワールドカップが開催される。

実はツンさん、同大会のFIFA公認ファンリーダーとして、東アジアで唯一カタールに招待されている。なんか運命めいたものを感じるのは私だけだろうか。

そしてツンさんはカタール大会に向け、面白いプロジェクトを企画している。今回その計画を取材させてもらった。

被災地の学生たちをカタールに連れていきたい

11年にわたり、日本全国でボランティア活動を続けてきたツンさん。信頼関係が築けた被災地の学生たちを、カタール大会に連れて行こうというのだ。その名も「トモにカタールへ!!!」だ。

各エリアから代表者1名を選出し、計5人の学生たちがカタールへ渡る。期間は一週間。サッカー観戦や現地住民との交流を予定している。

▼対象エリア(順不同)

  • 宮城県女川町(2011年/東日本大震災による津波)

  • 福島県南相馬市(2011年/東日本大震災による津波、原発のため避難)

  • 愛媛県宇和島市(2018年/豪雨による土砂崩れ)

  • 岡山県倉敷市真備町(2018年/豪雨により小田川が氾濫)

  • 熊本県球磨村(2020年/豪雨により球磨川が氾濫)

▼参加者

各エリアから選出された学生1名(合計5名)

  • 高校生~大学生(震災当時に中高生だった、被災経験者)

  • 教育委員会や地元のボランティア団体から推薦され、面談で人柄や参加意思を確認した上で決定しています。

  • 学生たちと同人数の日本人スタッフが同行し、出国から帰国までサポートします。

▼詳細はこちら

震災は終わっていない

東日本大震災の被災地は、見てすぐに「ああ」と納得できたが、他のエリアは正直ピンとこない。その感想を見抜いたように、ツンさんは語った。

「被災当時はニュースで見ますが、すぐにまた次の震災が起こります。今や日本全国が被災地みたいなものです。コロナもあって、ますます他にも気が回らないでしょう。

ただ、東日本大震災のことは結構覚えてますよね。数年経ってからも頻繁に取材されて、テレビで見るからです。定期的に情報共有されるので、みんなの記憶に残るんですね。

しかし球磨村はどうでしょうか。発生から2年経っていますが『過去のこと』『終わったこと』だと思っていませんか」

 確かにここ数年、災害が頻発している印象だ。そしてテレビで見なくなると、平和な日常に戻ったのだと勝手に思っていた。しかし現実は違う。

「球磨村は山間にあって、治水しないと住めないんです。治水するには家を嵩上げしたりダムに頼るしかないかもしれません。東日本大震災時の沿岸部のように、水害が発生しやすい地域です。作業しても、また水害がくる。

だから村全体に建築制限がかかっています。球磨村の人たちは、被災から2年経った今も仮設住宅で暮らしているんです。

でもみんな知らないんですよ。メディアから取材もされません。だから僕はその事実を知ってもらいたいし、伝えたいと考えています」

日本はカタールに恩がある

東日本大震災で甚大な被害を受けた女川町。その復興に、カタールが大きく貢献していることをご存じだろうか。弱っていた女川町に、カタールが何をしてくれたか。その事実を広めたいとツンさんは考えている。

「あの震災で、女川町では約千人──人口の1割を失い、立ち上がる気力を失った人もいました。

そんな中、カタールが大型の冷凍ビルを建設してくれたんです。
それだけでなく、女川小中一貫校もカタールが建設してくれました。完成は2020年。最近のことです。

しかし11年前のことなので、震災のこともカタールのことも、今は忘れているという人も多いのではないでしょうか。

でも、それじゃダメなんですよ。カタールが何をしてくれたか。知ることが大事だし、僕は伝えていくことが大事だと思ってます」

ちなみに、女川町の復興の第一歩となった大型冷蔵冷凍庫「マスカー」について、ドキュメンタリー映画が作られている。「サンマとカタール」というタイトルなので、ぜひそちらもご覧いただきたい。

▼予告編(1分30秒ほどの動画です)


なぜ学生たちをワールドカップ大会に連れていくのか

「震災を忘れてほしくない」というツンさんの想いは理解できた。しかしなぜ今? それもワールドカップ大会に? 「ツンさんは本当にサッカーが好きなんだな」と思っていたが、そんな軽い理由ではなかった。

「僕には確固とした下心があります。世界が注目する祭典であるワールドカップを使って、大々的に取り上げてもらおうとしているんですね」

ここからはツンさんの思惑……ではなく、大会へ行くことへの3つの狙いをご紹介したい。

世界を知る

「ワールドカップには世界32カ国の人々が一堂に会します。一週間で、それほど多くの国の人と触れ合える機会は滅多にないですよね。

学生たちには、多様性や異文化を学んでほしいです」

新しい絆を作る

「一週間の旅を通して、被災地の学生たち同士の繋がりが生まれます。被災エリアによってはまだ深刻な事態だったり、一方で被災から立ち直りつつある地域もあります。

そんな立場や境遇の違いを知って『自分だけがつらいわけじゃないんだ』『復興した未来は、こんな感じになるんだ』といったことを学んでほしいです」

思いを伝える

「メディアもワールドカップ大会に関するネタを積極的に探しています。そこで僕たちの取り組みを取材してもらうという計画です。

世界各国のメディアに紹介されることで、被災地のことを広く世界へ発信できます。すると世界で報じられた様子が日本のメディアで紹介されて、逆輸入する形で日本の人たちに知ってもらうことができるんです」

学生たちも責任を負っている

これまで読んで、こう思った方もいるかもしれない。「なんかいい感じの理由をつけて、他人の金で遊びに行くだけじゃないか」と。

確かに「日本中に元気を届けたい」のお題目のもとにクラウドファンディングで資金を集め、スタディといいつつ観光ばかりする某中二男子がいるが……。

「『タダより高いものはない』じゃないですが、学生達には動いてもらいますよ!
滞在する一週間はビッチリ予定が入っているので、遊んでいる暇はないです」

ツンさんは今回の計画で、学生たちに次のような願いを込めている。

世界と日本を結ぶアンバサダー(親善大使)となる

数々の震災で、これまで日本は世界中から支援を受けています。まずはその感謝を伝えてほしいんです。そして被災地が今どうなっているかを伝えて、復興したら観光に来てほしいと宣伝する。

被災地の学生たちに親善大使になってほしいんですね。

おもてなしの心を育む

もし復興後の被災地に観光客が訪れたら、自分たちがどんなおもてなしができるか。座学ではなく、直接見て考えてほしいんです。

カタールに行ったら、現地でおもてなしを受けますよね。それを受けて、自分たちにできることを考えてほしいんです。

異文化交流をする

中東といえばテロとか、怖いと思う人も多いですよね。でもカタールは危険な国ではありません。

ぜひ中東に暮らす人々と意見交換して、相手を理解することを学生たちに学んでほしいんです。

筆者注:世界133カ国を対象とした最新の犯罪指数・安全指数ランキングで、カタールは1位。日本は10位なので、むしろカタールの方が安全なのかもしれない。(2022年調査)

不平等ではないのか

今回のプランで、行けるのは最大5人。しかも各エリアから1人だけなので、選ばれなかった学生たちは不平等さを感じるだろう。実際、ツンさんの元には厳しい意見が届く。

「不平等といわれますが、それでもいいんです。それにもし『公平を担保しないとダメ』と言われたら、僕ら民間のボランティアは何もできなくなります。何千という被災者に一律のサービスを提供する事はできませんからね。

結局『何もしないのが一番いい』ってことになってしまうんですよ」

そんな意見を踏まえた上で、ツンさんはこう語った。

今回の計画では『うちの村からカタールに行った』というのが大事なんです。

閉じた環境にいると、どうしても『村の外に出るなんて無理だ』と思いがちですよね。

でもみんなで力を合わせれば、地球の裏側にだって行けるんです。そのことは地域全体の励みになると思うんです」

さらに「行けなかった」という思いは、残された学生たちにプラスに働くという。

「もし今回行けなかった学生たちの中に、行った学生たちに対して『羨ましい』とか『妬ましい』と思ってくれる子がいたら本望です。だってその悔しい気持ちは消えませんから。

いったいどういうことだろうか。ここだけ聞くと、ツンさんが意地悪にみえるが、その真意を聞いて唸ってしまった。

「悔しい思いを抱えたまま学生たちが成長して、ある日学校の廊下で『留学生募集』のチラシを見たとします。
以前だったら気にもとめないでしょう。もしくは『自分には無理だ』と諦めるはずです。

しかし『あの子は行った』という経験があれば『自分も申し込んでみよう』と思えます。以前だったら目に入らない情報に気づいて、次のチャンスを掴めるようになるんです

カタールに行ったという事実だけ見れば、確かに不平等だ。しかしカタールに行った代表者を通して、行けなかった学生たちもまた学ぶのである。

ちなみに今回のプランでは、被災地でのパブリックビューイングを予定している。大画面で地域住民が一丸となってサッカーを観戦する。そんな中で「知り合いの子」が映ったら……どんな名場面よりも、会場は盛り上がるだろう。

だけど今回は連れて行けないかもしれない……

聞けば聞くほど素晴らしいプランだが、実はかなり難航している。資金が集まらないのだ。

「2014年のブラジル大会、2018年のロシア大会にも、被災地の学生たちを招待しました。その時はなんとか全額集まったのですが、今回は全然ですね」

チャリティイベントやクラウドファンディングサイトを立ち上げているが、コロナのせいだろうか。渡航2カ月前にしても成果は思わしくない。

「今回の渡航費用は、一人52万円です。円安の影響で10万円以上値上がりしています。

かなりの金額になるので、『学習支援に使え』や『ウクライナ支援しないと』とも言われます。

しかし99%の人がNOでも、1%の人が今回の企画を「そういう形の支援もあり」と思ってくれるかもしれない。そんな人たちに支えられれば、この企画はできると思うんです。

ワールドカップ大会のイメージが強いと思いますが、僕らは普段からボランティア活動しています。いつもは地道に泥出ししたり、炊き出しで被災地に寄り添っているので、とても地味な活動に見えると思います。でも4年に1度だけ大きなアドバルーンを上げる。そうすれば、人目につきます。支援の最大の敵は無関心だと思います。過去2大会では、20誌以上のメディアに掲載されました。

被災地を風化させないためにも、学生たちをカタールに連れていきたいです」

安心安全な旅にするため、ツンさんは様々な取り組みをしている。旅行は大手旅行代理店に依頼し、カタールの日本人会や学校、FIFAからの協力を得ている。もちろん学生たちと同じ人数のスタッフが同行し、彼らをサポートする。ツンさん自身も何度もカタールへ足を運び、何度も調整を図ってきた。

現地でしか得られない感動があります。だからやっぱり旅することが大事なんです」

過去2大会も資金集めには苦労したという。それでもなんとか全額集め、最後は全員を招待できた。簡単ではなかったが、目標を達成した。

しかし今回は本当に集まらないと苦悶の表情だ。

「世間の無関心……いや、コロナとか、より重要なことがありますからね。その波に打ちひしがれているって感じです。連れて行けなかったどうしようって困ってます」

現段階では、3人連れて行けるかどうか。(※筆者注:2022年9月19日時点での話)

今回も最後まで諦めずに続けるつもりだが、出発二ヶ月前にして「順調」とは言い難い。

5人全員は無理でも、1人でも多くの学生を現地に連れて行く。そう語るツンさんだが、苦渋の決断といわんばかり。やはり全員で行ってこその成功だといえる。

支援したいと思ったら……

①イベント参加と②物販購入で、ツンさんを支援しよう。

ツンさんの計画を支援する方法は2つある。

1つめは、チャリティイベント。ツンさんのSNSで随時告知しているので、ぜひフォローして動向を見守ってほしい。対面イベントもあるから、熱血男に会いたい方は必見だ。遠方住まいや当日行けない人は、情報をシェアして応援しよう。

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2つめは、専用サイトからの申込み。グッズを買うことで、売上金が渡航費用として使われるクラウドファンディングの仕組みなっている。

「一般的なクラウドファンディングサイトではありませんが、支援の流れは同じです。グッズは、返礼品やリターンだと思って受け取ってください

FIFAに法人で協賛した場合、普通なら何百億もの資金がかかります
でもこの取り組みでは、法人は1万円から、個人は7000円から参加できます。

現地に行く学生たちのスポンサーになって、そして『この金額で、こんなに大きなプロジェクトに参加できた』という気持ちを味わってほしいです」

もし「もっと少額なら支援できる」や「ドカンと大口で支援したい!」をいう人がいたら、ツンさんに連絡をしてみよう。専用サイトのCONTACTから問い合わせてもいいし、SNSでメッセージを送るのも手だ。いきなりメッセージを送るのが不安な人は、まずはコメントして交流してみよう。

もしかしたら、ツンさんからそっけない返事がくるかもしれない。でもそれはツンさんが書くのが苦手なだけ。あなたの思いは伝わっているし、ちゃんと喜んでくれる。だから安心して連絡してほしい。

最後に……

カタールワールドカップ大会は、今年11月20日に開幕する。あと2カ月しかない。思っているよりもギリギリな状態だ。

もし支援したいという方がいたら、どうかお早めに。「すでに各種手配が完了しており、泣く泣く一人に諦めてもらった」なんてことになったら目も当てられない。

ワールドカップ大会だけでなく、ツンさんの戦いにも注目だ!


私も支援します

取材を通して、私もツンさんの思いに心打たれた。だからnoteのサポートを通して得た収益は、全額ツンさんへ寄付する
※ただしnoteや銀行の手数料などの実費は引かせてもらうことをご了承願いたい。


こんなところまで読んでくださって、ありがとうございます!