🅿️16。🅿︎17〜34・🅿︎47参照。
裏プロフィールを主軸に、公式プロフィールを補助として創作してます。

白木徹の口から、鈴木萌歌を嫌っている話しを聞いた事がない早坂相（たすく）は、彼女の言葉から不器用な漢（おとこ）の指導方針を感じ取るのでした。

「そして三つ目だが、岩崎志保の I-１club脱退に伴い、君が新たに選抜ユニットのセンター候補に選ばれたのだよね…。何故だい？おかしいじゃないか。エントリーの数合わせとしても、君が不適格なら候補の一人に選ぶ理由がないよね…。もう一度言うけど『岩崎志保の代わりに、鈴木萌歌が新たなセンターユニットのセンター候補』となり、事実、正式なセンターに選ばれた…。この三点を客観的に振り返り、君はどう思う？」

何を言われているのか全く理解出来ない萌歌は、ただ茫然と早坂の顔を見る事しか出来ません。

…どれ、もう少しかな…
「私は以前、君らのセンター交代で白木さんに訊ねた事がある。『まさか岩崎志保まで手放すとは思わなかった（新・劇場版　後編）』とね。その答えの代わりに、私とＷＵＧとの関わりを皮肉られたので『こだわっていると言うなら、それは白木さんの方じゃないのですか、だからアイドルの祭典で I-１をエントリーさせＷＵＧにぶつけるんでしょう』とね。その質問には無言だったので、更に『鈴木萌歌は、まだセンターには早いんじゃないのですか』と伝えたら、これも無言で立ち去って行ったのだよね。どう？分かりやすいだろう？」

早坂の話しが過去に及んだ事で、益々理解不能に陥った萌歌ですが、どうやらその当時の自分は未熟だと言われているように感じたのです。

「なあ鈴木萌歌…。君は岩崎志保を破りセンターの座に就いてから、何か変わらなかったかい？いや、何を思ったのかな」

少し間が空き、
「負けたくないと思いました」

「何に負けたくなかったんだい」
透かさず切り返された言葉に、

「？・・・あれ？…何だったんでしょう」
困惑していると、

「君はステージではファンを見ていなかった、後ろばかり見ていたんだよ。
それを恐怖と言うのだが、身に覚えはないかい」

その指摘に血の気が引くのを感じた萌歌は、自分の手が震えている事に気付いたのです。

「その影響だろうけど、残念ながらセンターに就いた君は、魅力的な個性を失っていたのだが、自覚はあったかな」

「いいえ、そうだったのですか？」
漠然と首を横に振りながら打ち消す素振りを見せます。

「センターの座を追う立場から、追われる存在に変わった事で、君はメンバーを必要以上に意識し、連携を重視すると言う『らしからぬ』パフォーマンスで萎縮してしまった…。アイドルの祭典でＷＵＧに勝利を持っていかれ、獲得ポイントではネクストーム（ネクスト・ストーム）に迫られたのは、センターとしての君の存在感が薄かったからだね…。ファンはしっかり見ているんだよ…。もっとも、その時の敗因はＷＵＧが特別良かったからではない。チーム I-１とネクストームの合計獲得ポイントでは、圧倒的に I-１clubが凌駕していたのだから、票割れした結果だけどね」

［票割れ］と聞いた萌歌は、思わず大声を上げ肩を落としました。

「今まで気が付かなかったのかい…。なのにその後の君は責任を感じてナイーブになり、益々らしくなかったんだよ…。あの頃は、まだまだ岩崎志保の人気は衰えていなかったのだから、なぜ白木さんは鈴木萌歌の投入を早めたのか、私には理解出来なかったけどね」

ここで何か呪縛が解けたのか、漸く早坂相の話しを理解出来るようになった萌歌。
「そのおぉぉ！・・・私の投入って、何ですか⁈どう言う事なんですか？」

…やれやれ、やっと枷が外れたか…
「そもそも君達二人は、シングルの売り上げ競争でセンター交代などする必要は無かったんだ。白木さんの構想では、岩崎志保の後任は鈴木萌歌と決めていたのだよ」

思わず声を張り上げて席を立った萌歌は、急激に胸が波打つのを感じ、同時に喉の渇きを覚えます。
用意された飲み物を、口元から少し溢し胸を濡らしながらも一気に飲み干すと、力が抜けて行くように座りました。

呼吸が荒くなった萌歌の安全を確認すると、話しを続ける早坂です。
「まぁ当時の君は、まだ粗削りな存在だったから、不安要素が取り除けるまでは成長を見守る筈だったのだけど、何らかの事情が有ったのだろうね」

“ダルマ氏”の思惑かと勘繰りながら、
…それなら事情が頷ける…
と確信して言葉を続けます。
「鈴木萌歌…。君が怪我をした時、白木さんが岩崎志保にセンターを務めさせた理由は二つ有ると思う。一つ目は、何らかの理由でセンターから外した岩崎を、再び呼び戻す布石としたのだろう…。二つ目は、二人以外のセンター構想が全く無かった為だろう。白木さんは『埋め合わせ』的な人選は決して行なわない方だからね。もし他の者に一度でも務めさせたら、新たなセンター候補乱立で、メンバー間の軋轢が生じるだろうからね」

テーブルに手を付き、食い入るように話しを聴く萌歌に更に続けます。

「センターを降ろされて『運が無かった、それだけだ』との言葉は、ステージから転落した事じゃないよ。考え過ぎて一杯一杯だった君の身に、丁度良いタイミングでアクシデントが起こったので、これ幸いとクールダウンの機会を与えたのだよ。これは推測ではなく、私でもそうするからね」

「なんで！なぜ白木さんはハッキリと理由を言ってくださらなかったのですか」

迫るように訊ねる萌歌です。

page29に続く。