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【本の紹介】パラ・スポーツ小説

 みなさんこんにちは、こんばんは、そしておはようございます。
 人生のB面に入ってから読書に目覚めたオヤジ、タルシル📖ヨムノスキーです。

 2023年1月22日。日本のレジェンドがSNS上で引退を発表しました。
 その人の名は「国枝慎吾」選手。プロの車椅子テニスプレイヤーです。
 私がごちゃごちゃ書くよりも…。

国枝慎吾選手の引退に関する記事はこちら☟☟

 国枝選手は、彼個人の活躍はもちろんですが、それまで車椅子テニス、いや障害者スポーツ全体に対して関心の薄かった日本人の目を開かせたという意味で大きな功績を残した人物だど私は思います。

…ということで、今回はこんなテーマの本をご紹介!

【パラ・スポーツがテーマの小説】

●1種目目 カヌー

水上のフライト
著者 土橋章宏
【内容紹介】
 大学三年生の藤堂遥は、オリンピック出場が有力視される走り高跳びの選手だった。しかし、不慮の事故で脊髄を損傷し、下半身が麻痺してしまう。もう二度と跳ぶことはできない…。絶望に沈む遥だったが、カヌーとの出会いが彼女の人生を変えた。新たな目標、パラリンピック出場を目指し遥はもう一度走り始める。実在するパラカヌー選手に着想を得た奇跡の感動物語!
裏表紙より

【感想】
 2020年公開の同名映画のノベライズです。
 ウイキペディアによれば、この物語は映画の脚本を担当した土橋章宏さんとパラ・カヌー選手の瀬立モニカ選手の交流から生まれた物語だとか。
 この中で語られていた「オリンピックとパラリンピックを分ける必要はない」というのは自分も常々思っていたこと。競技だけ分ければ大会は一つで問題ない気がするのですが。

●2種目目 陸上(短距離走)

翼がなくても
著者 中山七里
【内容紹介】
 陸上200m走でオリンピックを狙うアスリート・市ノ瀬沙良を悲劇が襲った。交通事故に巻きこまれ、左足を切断したのだ。加害者である相楽泰輔は幼馴染みであり、沙良は憎悪とやりきれなさでもがき苦しむ。ところが、泰輔は何者かに殺害され、5000万円もの保険金が支払われた。動機を持つ沙良には犯行が不可能であり、捜査にあたる警視庁の犬養刑事は頭を抱える。事件の陰には悪名高い御子柴弁護士の姿がちらつくがー。
裏表紙より

【感想】
 女子200m走でオリンピック出場を目指す沙良は交通事故により左足を切断。なんとその加害者は沙良の幼馴染みの泰輔だった。絶望の淵から這い上がりパラリンピックを目指す沙良。  
 ここまでだといわゆる障害者の頑張り感動ストーリーみたいな物語を想像しますが、著者はどんでん返しの帝王こと中山七里さん。なんと加害者である泰輔は何者かに殺害されるし、沙良は義足を付けてアスリートとして復帰を目指すが、一般の義足と違いスポーツ用の義足は驚くほど高額で…。とまさかのミステリーな展開。
 そういえば余談ですが、「戦争があると義足や義手の技術が進歩する」と何かで読んだ気がします。。

●3種目目 マラソン/スキー

伴走者
著者 浅生鴨
【内容紹介】伴走者とは、視覚障害者と共に走るランナーである。「速いが勝てない」と言われ続けた淡島は、サッカーのスター選手として活躍しながら事故で視力を失った内田の伴走者として、パラリンピック出場をかけ国際大会で金メダルを狙う。アルペンスキーのガイドレーサーを描く「冬・スキー編」も併録。
裏表紙より

【収録作品】
夏・マラソン編
冬・スキー編

【感想】
 これは障害当事者ではなくて、マラソンやスキーで選手をサポートする伴走者に焦点を当てた、少し珍しい切り口の物語です。
 中編が2編収録されていて、どちらも競技の説明と伴奏者の役割から、選手の置かれた状況。そして障害当事者の気持ちや、いわゆる健常者が陥りがちな勘違いまで、綿密な取材の元にしっかり描かれている物語です。

素心に残ったフレーズを二つご紹介します。

強者が弱者を切り捨てるのではない。いつだって弱者の力を知ろうとしない者が弱者を切り捨てているのだ。
p.240
伴走者、それは誰かを助けるのではなく、その誰かと共にあろうとする者、互いを信じ世界を共にしようと願う者だ。
p246

●4種目目 テニス

パラ・スター(Side百花)
著者 阿部暁子
【内容紹介】
 車いすメーカーで働く百花の夢は、親友で車いすテニス選手の宝良のために最高の競技用車いすを作ること。高校2年の時、交通事故で脊髄損傷し、車いすでの生活を余儀なくされた宝良を救ったのは、百花が勧めた車いすテニスだった。宝良が日本代表チームに選出され華々しく活躍しているのに対して、新米エンジニアの自分に焦りを感じている百花は、はじめて顧客との面談を担当することになり…。
裏表紙より

【感想】
 正直障害者モノは、障害当事者とその家族が書いた〝ガンバリ本〟や、過剰に涙腺を刺激しようとするいわゆる〝感動ポルノ〟が多くて手に取ることはほとんどありませんでした。しかしこの本〝パラ・スター〟の上巻、side百花〟の主人公・百花は、車椅子制作会社の新米エンジニアの女性です。彼女は交通事故で下半身不随となった親友のために、最高の車椅子を作りたいという夢を描き奮闘します。この視点がとても新鮮、というか斬新。
 夢や憧れだけではどうにもならない現実に押しつぶされそうになりながら、それでも一歩ずつ前に進んでいく百花がとてもカッコいいし清々しい物語です。

パラ・スター(Side宝良
著者 阿部暁子)
【内容紹介】
 東京パラリンピックまで、あと数ヶ月。車いすテニス選手の宝良は女子の代表候補として注目を集めるが、昨年末から不調が続き苦しんでいた。勝利を掴むため、宝良は親友の百花が働くメーカーの競技用車いすを採用。夢に向かい努力する百花や小学生みちるとの交流を経て、競技への思いを強くする宝良。そして、世界の強豪選手が勢揃いするアジア最高峰の大会ジャパンオープンの幕が上がるー!感動の青春スポーツ小説!
裏表紙より

【感想】
 下巻〝side宝良〟は車椅子テニスプレイヤーの宝良がスランプに陥るところから物語が始まります。
 ずっと二人三脚でやってきたコーチが体調不良で離脱、新しいコーチとはなんとなくギクシャク。そんな宝良を救ったのは、親友、ライバルたち、そして母親。ジャパン・オープンの準決勝、憧れの七条選手との試合はとにかく手に汗握ります。
 この物語には冒頭で触れた国枝慎吾選手や、女子車椅子テニスプレイヤーの上地結衣選手がモデルであろうキャラクターも登場します。

 2冊通してみると青春小説であり、スポーツ小説でもあり、お仕事小説でもあり。読み応え抜群の物語です。
 おまけに企業の障害者の法定雇用率の話まできちんと触れているあたりはもう脱帽です。
 是非たくさんの人に読んでいただきたい一冊、いや二冊です。

【まとまらないまとめ】

 パラ・スポーツというと、どうしても社会復帰のためのリハリリや、趣味活動的なイメージが強く、競技としての認知度は低い印象を受けます。それは東京パラリンピック開催後の今でもそう大きくは変わっていない気がします。
 認知度を上げ障害者に対する理解を深めるためにはどうしたらいいのか、我々には何ができるのか。それを考えるきっかけになる一冊がここに。

最期に
読書っていいよね。


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