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イグナイト・イグニッシヨン・ブレイズアンドG

ブレイズ(ニンジャ)とG(男の中の男)が製菓メガコーポ陰謀に立ち向かうDIY小説です。


「三角形がスゴイ平面」「アナタDNTCsする人」「実際メキシコ」「味 多彩さ」などの魅惑的宣伝文句がショドーされたノボリが、囚われた男の背中に突き立てられる! 「アバーッ!」両手に鎖をかけられ、バンザイ姿勢で天井から吊られた男が、叫び身悶える。

……製菓メガコーポが擁する巨大菓子工場の中、秘密裏に設けられた研究室での光景である。既に背から三本のノボリを直に生やして苦しむ男の周りには、血塗れ白衣のナース研究員が三名、そして……「イヤーッ!」まさに今、四本目のノボリを男の背に突き刺したメキシカンハット人物は……ナムサン、企業ニンジャである!

「アばッ……」ナースが男の首にすかさず何か薬物注射! 遥かに良い。苦悶が快感の痙攣に変わってゆく。しかし目を背けないでいただきたい……ノボリは男の背に対してほぼ平行角度で刺さっており、まるで戦国武将だ。一本は心臓に実際達しており、ゾンビーでもない限り即死ものである。

ニンジャがメキシカンポンチョ装束をマントめいて翻し、一閃! 平面三角形スリケンが拘束鎖を断ち切り、ノボリ男の両腕が解放される! すると、おお……男の身体はニンジャとお揃いのメキシカンハットとメキシカンポンチョを纏って変身した!

「おめでとう! 君は生まれ変わり、1/1スケール稼働式ドンタコス人間66号として甦った!」ニンジャが拍手! 「ワースゴーイ!」「カワイイ!」「ドンタコスヤッター!」ナース研究員たちも拍手!

ノボリ男はゾンビーめいて一歩、一歩、ふらふらと歩むと、裏返って白目を剥いた目元をメキシカンハットのつばに隠した。

「次のマケグミ労働者さん、ドーゾー」「ヤメロー! ヤメロー! ヤメ……」ツナギ姿の菓子工場労働者が研究室へと新たに引きずられてくる……ナムアミダブツ!

イグナイト・イグニッシヨン・ブレイズアンドG

「……あン?」ケミカルな焦げ臭さを感じて、ブレイズは小さな鼻をヒクつかせた。裏路地から通りへ出ると、道端でたき火ほどの炎が爆ぜている。しかもコンビニの店先だ。ぽつぽつと路面を打ち始めた重金属酸性雨をものともせず、たき火は炎を上げる。男が、炎のかたわらで石像めいて微動だにせず立ち尽くしている。

ブレイズは足を止め、その屈強な男を凝視した。黒いレザーパンツと、メキシコの大地めいてひび割れの走ったカウボーイブーツの他には何も身に着けていない。つまり上半身はハダカだ。鋼じみた筋肉で盛り上がった肌には古い切り傷や銃創。しかしニンジャではない。ただ、荒野のアトモスフィアがあった。

風。古のロックバンドめいたパーマの長髪がそよぎ、男の背を撫でる。ブレイズの襟元では「地獄お」の字が翻る。路上の炎が唸る。

「ちょっとやめないか!」ボーを手にした店員が店から飛び出てくるなり、男を打擲した! 激しい打擲音、だが男は小揺るぎもしない! 店員は一瞬、呆気にとられたように男を見上げたが、すぐ我に返って再度ボーで叩く! より激しい打擲音! 男は小揺るぎもしない! ボーが叩く! 微動だにしない! ボーで打擲! 不動!

ブレイズは男の顔を窺い見ようとして、少し歩んだ……そして目撃したのは、おお……涙! なんたるミスマッチ意外性! 彫りが深く日に焼けた男の異国的顔立ちを涙が伝っていた。一体いかなる悲しみが、ボーの打擲に小揺るぎもしないこの男に涙を流させているのか?

同時に、ケミカルな焦げ臭さに混じって、何か香ばしい匂いが鼻をくすぐった。改めて見てみれば、たき火にくべられているのは大量のスナック菓子袋であり、中身は入ったままだ! とすると、このたき火はメガコーポ抗議運動などの新手のウチコワシ・パフォーマンスか?

そんなはずはない! 男の涙、そして寡黙と無抵抗が、ブレイズの安易な推測を否定する。しかしだとしたら、これはいかなる状況なのだろう?

やがて、繰り返し叩きつけられたボーが弱り、軋みを立て始めた……それを合図に、男は不意に踵を返し歩き出した。逃げるふうでもなく、ただ、行く宛を見出した戦士のごとき足取りで堂々と歩き出したのだ。その手には、燃やしきれなかった菓子を詰めたビニール袋を提げて。

店員はなおも男に追い縋ろうとしたが、突然、たき火が勢いを上げて燃え出したために消化行為を重点せざるをえない。遠くでサイレンが鳴り出す。男の背が遠ざかっていく。ブレイズはその後について歩き出した。こんなことをするやつは、活動家でないとしたらミュージシャンぐらいだ。おそらくこの足でバーかどこかへ向かい、一曲ぶつに違いない。ものの試しに聴いてやろう……そんな暇つぶしほどの考えで、彼女は男の後を歩いていった。

……そうやって歩き出してからさほども進まぬ内に、ブレイズは気付いた。男はコチラの尾行を悟っている。にも関わらず、振り向きもせず堂々たる足取りで歩み続けていく。無視されているようで、少し気に入らなかった。ワカッてンならアイサツぐらいしてもいいだろ、そんなふうに思い始めるとますます気に入らない。だから、自分からは絶対に声かけねェと決めた。イバラタトゥーの眉を吊り上げて。

すれ違う人々は奇異の眼差しを男に向けていた。上半身がハダカのやつなどは実際珍しくもない。ここはネオサイタマだ。ただ、男のストイックな足取り、完全に覚めたアトモスフィアが、ヨタモノにも似たファッションとミスマッチすぎるのだった。

……やがて、尾行は唐突にゴールを迎えた。男が道端のアパート敷地内へと曲がったのだ。帰宅である。ブレイズの予想は外れたが、ここまでコケにされて黙っては引き下がれない。とにかくついていくことにした。ゴミの散らかった階段をのぼり、3階のフロアを進んだ突き当たり、そこが男の部屋だった。

男はカウボーイブーツを履いたまま玄関を抜けた。ブレイズも土足で部屋に上がった。そして拍子抜けした。まるで平凡な室内光景だったからだ。テーブルにはパソコンとワイン、映画のチラシ、壁には爆炎を背にする男女のポスターが貼られているがブレイズにはピンと来ない。

パルプマガジンや江戸川乱歩が無造作に並ぶ書架を横目に、男は立ち止まることなくワンルームを突っ切り、窓を開けてベランダに出たところでようやく足を止めた。狭いベランダだ。ブレイズは室内、窓ぎわで仕方なくしゃがみ、男が手提げ袋の中の菓子をベランダにぶちまけて火をつけるのを眺めた。

「アー……焼却ナンデ?」耐え切れなくなったブレイズがついに訊ねた。まさか、自分の口からこんな問いが出る日が来ようとは。イグナイトがナラクめいて近くにいたら、笑い転げたであろう。

炎が音もなく爆ぜる。菓子袋にデザインされたメキシカンハットのカワイイなマスコットが溶けて醜く歪む。男はブレイズに顔を向け、目を見据え言い放った。「おれはレジスタンシアだ」

目線はたき火へと戻る。「それって、エート、アンタイセイみたいなもん?」もどかしげに頭を掻くブレイズ。男が再びブレイズを見据える。今度は何も言わずにまたたき火へ戻る。声なき禅問答か? 否。

炎を絶やさぬこと。それが唯一の答えであることは、誰よりもブレイズ自身が知っている。男はブレイズを見据えた時にそれを察していたのだ。だから、互いにかわす言葉はもう尽きている。菓子が消し炭になるまで、ニンジャと男はたき火を燃やし続けた。

やがて、男は室内へ戻るとキッチンに向かい、赤い菓子袋を出してきてテーブルについた。ブレイズも近づき、椅子は無かったのでテーブルに座った。開かれる菓子袋、タコスの香り。男は中身を机上にぶちまけるとまずは自分が三角形コーン菓子を食べた。ブレイズも手を出し、一度に四つ食べた。イバラタトゥーの眉が戸惑う。

「……ウマイ、なのか?」咀嚼しながら首を傾げる。コーンの優しさとケミカルなタコス刺激。疑問を確かめるようにまた一つ、さらに一つと口に放り込む。男はワインをボトルからダイレクトに飲みながら食べ続けた。そして唐突に吼えた。「ウオォーーーッ!!」

次の一枚をつまもうとしていた手を思わず引っ込め、ブレイズは反射的に警戒心を働かせた……しかし杞憂。男は一度深呼吸すると、すぐにもとの寡黙に戻って食事を再開した。

(((ナンデ!? 咆哮? もう酔ッ払っちまッたのか? 菓子を…食べ過ぎるな? いや、そんなみみッちいタマじゃねェ、アトモスフィアでわかる。なんつーか……そうだな、アタシが引き上げ時か)))

ブレイズはテーブルから降り、マフラーを締め直した。男はチラとだけ「地獄お」を見やるが、何も言わない。ブレイズはふと思いつき、キツネサインを作った手をテーブルに乗せ、三角形菓子を指先の口で咥えた。

キツネは獣だ。人間に対しては侮辱となるが、この男は飢えた獣だ。レジスタンシアとアンタイセイ、人間が上書きした意味など知ったことではない。キツネはただどこまでもキツネであるのみ。獣であるのみ。

男は不思議そうにキツネを一瞥し、次いで自身の太い指でもそれを真似ようと試みたがうまくいかない。諦めて、新品のワインをブレイズに差し出した。彼女は遠慮なく受け取り、退出した。

コンビニの前を通ると、たき火は今や跡形もなく片付いていた。ご丁寧に水までかけたのだろうか。愛社精神。ペッ。ブレイズは振り向きもせずに通り過ぎ、ビルの隙間のカドを曲がり裏路地に踏み込んだところで足を止めた。先ほどのコンビニ店員が血溜まりの中で惨たらしく死んでいた。

「アイエエエエ!」薄汚れた路地奥から悲鳴! それも、幼い子供の声だ。ブレイズは血溜まりのそばの壁に書き殴られた「好きですメキシコ」の血文字を一瞥し、再び歩き出した。

戦国武将めいて背からノボリを生やしたドンタコス人間三体に追い詰められ、泣く子供! 「新発売が今」「農薬が一切ない」「味どれも素敵」カンジのまだ読めない子供からすれば、ノボリのショドーすらが未知の恐怖を煽り立てる! コワイ!

「ドンタコス、怖くない……インタービュウ、したい、だけ」生気のない嗄れ声を発し、ドンタコス人間が一枚の写真を子供に見せる。「悪いヤツ、すごく……この近く、存在可能性」

おお……ナムサン! 写真にうつるのは他でもない、レジスタンシアの男だ! 少年は首を横に振って無関係を主張! 先ほど目撃したコンビニ店員虐殺光景を思い出して失禁! ドンタコス人間のデスマスクじみた顔が恐ろしすぎて、俯き続けるしかないのだ。人間が手を伸ばし、少年の顔を上げさせようとした、その時……

ボウ……! レジスタンシア写真がいきなり発火、瞬く間に灰に帰して散る! 「イヤーッ!」「アバーッ!」ブレイズが飛び蹴りでエントリーし、ドンタコス人間の首を刎ねた! 「アイエッ!?」「ニンジャナンデ?」動揺する人間二体の間にブレイズが割って入り、一方の顔面へ拳を、もう一方へはキックを突き出して心臓を蹴り抜く! 「イヤーッ!」「「アバーッ!」」即死!

子供の前でザンシン、宙を踊っていたマフラーが遅れてひらりと背にかかった。死体は血の代わりにコーンめいて黄色な汁を撒いた後、溶け出して消えた。宣伝ノボリだけが路上に残されてカランと鳴る。「あン? 新手のゾンビーか何か……」思案しかけるが、畳み掛けるように頭上から新たな宣伝ノボリがその切っ先を下にして降り注ぐ!

「イヤーッ!」ブレイズは子供を抱いて跳躍! 直後、ふたりがいた場所のアスファルトにノボリが次々突き刺さる! 泣く子供! そしてニンジャが頭上からエントリー! メキシカンハット・ポンチョ装束のニンジャは突き立ったノボリの上に着地し、アイサツした。

「ドーモ、ハジメマシテ。ドリトスキラーです」「アー……ブレイズ、だ!」ブレイズは子供を抱いたまま、近くのポリバケツを蹴り飛ばす! バケツは空中で発火し、バイオネズミを振り落としながらドリトスキラーに迫る!「イヤーッ!」ジャンプして回避、そのままブレイズの逃げ道を塞ぐように路上へ着地!

「臭う、臭うぞ、まがい物の化学メキシコ臭がお前の口からプンプン臭うぞ……滅菌農薬イヤーッ!」ポンチョ装束を広げると、サボテンめいて緑の節だった身体、そこに無数に穿たれた小さな穴から毒ガスめいて霧状の特製農薬を噴射!

いつものブレイズであれば、すぐにカトンで応戦、その噴射口へと炎を逆流させてドリトスキラーをたやすく爆発四散させていただろう。しかし彼女は未だ、子供の保護を重点して抱えているのだ! なんたるドリトスキラーのフーリンカザン! 咳き込む子供!

ブレイズは後ろへ飛び退きながら己のマフラーを外し、子供の目鼻口を覆うために巻き付けた! 自分のフジキドめいた行為に対し、一抹の疑問が過ぎる。「はッ……アタシはッ、アタシだろッ!」振り切るように叫び、着地点で待ち受けていたドンタコス人間増援をキック殺! 「アバーッ!」

ビルの壁に囲まれて迷路めいた裏路地、正面には毒霧ドリトスキラー、一方にはノボリを生やしたドンタコス人間がクローンヤクザめいて群れる! ブレイズは着地と同時に子供のマフラー覆面を緩め、目だけを出させた。「走れ、とにかく走れッ」子供の背をドンタコス人間の群れへと突き飛ばし、自分も群れの頭上へ跳ぶ!

注意は空中のブレイズへと集中! 子供はドンタコス人間たちの脚の間をひたすら駆け抜ける! ブレイズは宙空に留まりながら、自らの周囲に火の玉を浮かばせていった……しかしまだだ、これを流星群めいて叩きつけるのは子供が充分に離れてからだ。「イヤーッ!」ドリトスキラーのシャウトと共にノボリがヤリじみて飛んでくる! 「イヤーッ!」蹴り落としてドンタコス人間串刺し殺! 「イヤーッ!」ノボリ飛来!「イヤーッ!」串刺し殺!

やがて子供が遠ざかり、いよいよザコ一掃の好機! ブレイズは握っていた両の手を開き、握り締めて、力を……込められない! (((ア……ナンデ?))) 浮かんでいた火の玉が萎んで消滅、ブレイズもドンタコス人間の群れへと落下した。「殺すな、捕獲重点!」ドリトスキラーの嬉々とした怒声。噴射され続けている農薬霧。痲痺。デジャヴ。

改善。インプルーブド。変わること。変わらないもの。変えられないこと。変えたかったもの。アタシはアタシだ。ダセェ暴力だけが取り柄。それでいい。それだけで、いい。今までは、たぶん今も、まだ、できてないから。

路上でうつ伏せになったブレイズの脇腹へ、左右から人間のつま先が蹴り込まれる! 「オエーッ!」嘔吐! 「俺の霧農薬は実際効く」ドリトスキラーが吐瀉物を見下ろし、ブレイズの顎下につま先を入れて顔を上げさせた。霧農薬噴射は止まらない。

「喜ぶがいい。お前はこれから洗脳を受け、栄えある1/1スケール稼働式ドンタコス人間100号に生まれ変わるのだ」「ペッ!」唾を飛ばすが、ドリトスキラーは首を傾げて回避! ドンタコス人間のつま先が脇腹を再度抉り、意識がますます薄れる。「46号と43号はガキを追え。生きて返すな。他は引き続き宣伝パフォーマンス実行!」「「「ハイヨロコンデー!」」」声だけが遠ざかっていく。引きずられ始める身体。車のアイドル音。意識がぷつりと切れた。

男はまた別のコンビニに出かけ、店前でたき火の後、帰路を堂々と歩んでいるところだった。ボーでしこたま叩かれたが、ハダカの上半身に残るのは古傷だけだ。

「アイエエエ!」突然、どこかで泣く子供! カドを曲がったところで、男は目撃した! 路傍の塀際、ノボリを生やしたドンタコス人間二体、うずくまる子供!

「ウォーッ!!」男は吼え、垂直にジャンプした。クォータービュー視点から世界を見渡す。塀に追い詰められた少年の口元を覆うマフラー、「地獄お」の文字が、飢えた獣の心を爆発させる!

「アイエッ?」ドンタコス人間が咆哮を聞いて顔を向けたとき、男はもう目の前に迫り来ていた。

【完結篇につづく】

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