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超越少年の『GAME』 解説


『GAME』
2022年 レジンキャスト
(11cm×3.3cm×2.7cm)

はじめに

『GAME』は『第三回江古田のまちの芸術祭2022』に向けて製作した、超越少年のキャラクターフィギュアである。

『江古田のまちの芸術祭』とは、西武池袋線江古田駅周辺のお店やギャラリー、公共施設などで秋頃に開催されるアートイベントのことで、『2022』で3回目の開催となる。そのルーツは『江古田ユニバース』というイベントで、それも含めると11回も開催されていることになる。私は第一回目から参加をしているが、『超越少年』名義では2度目の参加だ。


第一回の出展作品『あの人(或いは、かの人)』

第一回は自分としても江古田で開催されるアートイベントとしても再出発であると考えていたので奇を衒わない作品作りを目指した。大学では彫刻を学んでいたので、自分の中でこれは彫刻だと思えるようなものを作ろうとも考えていた。そしてOILife様にて販売させて頂ける事になったのでそれに合わせてプランを考えた結果、油粘土による塑像をホビーキャストで複製したものを販売することにした。なるべくクオリティにばらつきの少ない彫刻作品を提供したかったからだ。

第二回の出展作品『超越少年の墓標』
参考資料:超越少年vol.243

第二回は超越少年名義での初めての展示であったので、初心に返り「存在しないニセモノの漢字」を作ろうと考えていた(元々超越少年は何もかも存在しないニセモノの漢字を使ったニセモノの言語によるニセモノの連載漫画を作るというところから始まったのだ…)。
そして前回の展示は複数の小さな"彫刻"だったので今回は一つの大きな"(一般的に)彫刻とは呼ばない立体物"を作ることに決め、最終的に「送り仮名つきのニセモノの漢字」の立体作品が完成した。


そして第三回、今回解説する『GAME』は、まず最初に「フィギュアを作って売りたいな」とぼんやり考えたところからアイデアを膨らませていった。
それを煮詰めた結果「秩序立って並べられたものを資本で破壊するゲーム」を来場者(購入者)に行っていただくという、来場者参加型の作品が完成した。

作品解説


展示風景(2点購入された時の写真)

展示概要と解説

このように、全く同じ色・形のフィギュアが6×7で綺麗に並べられている。
来場者は1回1000円で好きな場所のフィギュアを1つだけ取って、その秩序を破壊することができる。取ったフィギュアは記念にプレゼント!というのがこの作品(ゲーム)の一連の流れで、多くの方々がこれに参加すればその分秩序が破壊されていくことになり、4日間の展示期間で最終的にこの6×7の秩序はどのような姿に変貌を遂げるのか?というのが本作の見どころである。

ちなみに何点か頭が無かったり欠けていたりする整形不良のフィギュアもあるが、個人の事情もお構い無しにみんな同じ方向を向いて並んでいる(並ばされている)様がなんとなく社会の風刺っぽくなっていて面白かったので、それらも並べることにした(整形不良品の評判が予想以上によく、早い段階でほとんど売れてしまったのには驚いています…)。

コロナ禍で、昨日はコロナを終息させるために秩序立った行動をお願いされていたのに明日は経済を回すという名目でその秩序を破壊されていく…というような様をこの3年間見続けてきて、この展示方法を思いついた。

フィギュアの仕様


原型(左)と複製(右) ファスナーはシリコン取りの際に取れてしまった…

原型は石粉粘土を中心に、必要に応じて適切な素材を使い分けて製作した。折れやすい前髪部分はタミヤのエポキシパテで作り、服の装飾(胸のワッペンなど)は0.3mm前後の薄いプラ板を使用して工業製品っぽさを出した。台座は平らに作りたかったので1mmのプラ板を積層して作った。

パッケージに入れられたフィギュア
パッケージのデータ
ゲームに参加した後でその意図がわかるようにした。

超越少年は上でも書いたように「存在しない架空の連載漫画」として作っているので、超越少年名義で何かを販売するならば「工場で生産されているキャラクター玩具」のような何かを作ろうと考えていて、なるべくそれに近づけられるようにパッケージも作ることにした。袋の中には作品のキャプション代わりとしてタイトル、材質、サイズ、コンセプトの解説を書いた紙を入れた。コンセプトの部分がフィギュアと重なって見えなくなった事は反省点である。
昔のアメコミのフィギュアみたいにパッケージから出さないでそのまま飾ってもいいし、出して飾ってもいいように作ったつもりだが、いかがだろうか…
今になって思う事は、パッケージの台紙(GAMEと書かれているところ)の上部に穴あけパンチで穴を空けた方が吊るして飾りやすかったのかもしれない。もし、まだ未開封のものをお持ちの方が入ればぜひお試しください(透明なテープで補強した上で空けることをお勧めします)!

参考資料:アーミーメン(組み立て不要の一体成型)
前髪とそれ以外の2パーツ構成。

これは本当に細かい話なのだが、フィギュアのパーツ分けについても解説したい。兵隊のフィギィア(アーミーメン)をイメージして作ったので本当は一体成型で型を取れるようにしたかったのだが、そうすると前髪のサイドの部分で引っかかって抜けなくなる。なので本体と前髪の2パーツで作ることになった。

目(瞳)には色々な表現手法があるが、今回は無彩色前提だったのでこの手法を採用した。

目の処理については特に工夫をした。無彩色でものっぺらぼうに見えないように瞳の部分を深く彫り込んで、陰影の強弱で瞳とハイライトを表現する手法を用いた。これは昔の大理石彫刻などに見られる手法である。

クサカベ社のピグメント(着色料は液体より粉の方が着色しやすい)

前述の通り、アーミーメンを参考にしているのでどうしても白以外の成型色で作りたかった。そして第一回の時の経験から蛍光色で成型した方が色が綺麗だと考えたので、今回も蛍光色で色をつけることにした。
色はホビーキャストに粉の顔料(クサカベのルミナスオレンジピグメント)を混ぜて着色した。配分は、樹脂に対して5~6%程。10%までなら混ぜても平気らしいが、ギリギリを攻めると顔料にほんのわずかに含まれる湿気によって樹脂が泡立ってしまうので、この配分率にした。
樹脂は主剤と硬化剤の二液を混ぜ合わせて作るのだが、混ぜた後にピグメントを入れると型への流し込みに絶対に間に合わなくなるのであらかじめ主剤の方にピグメントを入れて着色してから二液を混合した。
樹脂の着色とは、「本来の樹脂の色(今回は白)に着色料の色を足して2で割っている」という事であるのでピグメント本来の色より薄くなってしまう点には注意が必要である。


フィギュアのデザインコンセプト


デザイン案

同じ形のフィギュアを整列させて展示しようと決めた時、「シティポップ兵馬俑」という言葉がぼんやりと思い浮かんだ。それがどういう意味なのか、なぜそう思い浮かんだのかは今となっては忘れてしまったが、とにかく最初はその「シティポップ」のイメージでフィギュアを作ろうと思った。

画像の一番左が一番最初に考えたデザインである。オーバーオールがシティポップなのかどうかはさておいて、最初はカジュアルな格好のフィギュアを作ろうとしていた。ただ、そうすると何故同じ形のフィギュアを綺麗に並べる必要があるのかという意味が弱い(というか解らない)ような気がしたので、綺麗に並べるという行為の意味について改めて考えてみることにした。

その結果、カジュアルな格好にするよりも「統一された規格による秩序」というニュアンスを込めて「ユニフォームに身を包んだフィギュアを並べる」という方向にデザインを考え直すことにした。そこでできたのが画像のオーバーオール以外のデザイン3点である。
それぞれ囚人服、未来の軍服、野球のユニフォームをイメージして考えたのだが、未来の軍服がキャッチーだったのと、その他のは立体にした時にいまいち分かりづらそうだったので、最終的に左から3番目のデザインに決定した。

展示風景


展示と『GAME』のルール説明
受付

改めて『GAME』の流れを説明すると、まず不審者に扮した超越少年の作者が受付をしていて、ゲームに参加したい時に声をかけて1000円を前払いするとゲームが開始される。
フィギュアを一つ取ったら不審者がタブレット端末からレゲエホーンの音を爆音で鳴らしてゲームクリアをお祝いしてくれる。
その後、フィギュアをパッケージに入れて参加者に渡して終了。

不審者に扮したりレゲエホーンの音を爆音で鳴らしたりした理由は参加する際のとっつきづらさや気まずさのようなものを避けるためなのだが、これは本当に上手く行ったのか!?!?!?!?というのが正直な感想である……。
パッケージにフィギュアを入れる作業は緊張のあまり少し手元が狂う場面が多かった所も次回への反省点としたい。

以下、展示風景の写真。

※大変有難いことに、展示初日に早くも参加してくださる方がいたのでここから写真撮影を開始しています
最終的にこのような形になった。

展示を終えて

正直なところ今回はうまくいく自信がなかった。展示初日にも作業をしなければならない程スケジュールがギリギリだったし、製作途中でコロナに感染して2週間程作業に着手出来ない事もあった。独りで販売をするのも初めてだったので色々とおぼつかない点があったかもしれない。今まで経験した事がない程に不安要素が多く、無事に終えられるというビジョンがまるで見えなかったのだ。
しかし、いざ展示が始まってみるとその不安も吹き飛ぶほどになんとかうまく行ったように思えた。たくさんの方々にフィギュアを買ってくださって個人的には大満足だ。普段お世話になっている方も観に来てくださったし、大学時代の先輩や後輩にも再び会う事ができて嬉しかった。再び出会える場としての展示、これはとても興味深い事であり今後も研究をする余地は大いにあると思う。
第一回出展時から「彫刻・エンタメ・サプライズ」というテーマ(これはらあめん花月嵐のパクリ)をこっそり掲げている。実は第二回出展作品の台座の裏に自作の映像のQRコードを仕込んでいたのだが、それもこの一環であった。今回はそれを更に飛躍させて展示・販売のエンタメ化をしようと試みていた。
まだまだ至らない点はたくさんある(特に不審者役に徹するのは難しかった…)が今回のうまくいった点、改善点は次回にフィードバックしていきたいところだ。

後日、備忘録も兼ねてシリコン取りについても解説記事を作りたいと思っているのでご期待ください……

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@Superboyskosiki

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OILife様にて絶賛販売中!(1300円)

2023年3月24日より、OILife(オイルライフ)様にてフィギュア塗装verを販売させて頂ける事になりました。5点の販売となりますので、欲しい方はお早めに!
特集記事を書きましたので、そちらも合わせてお読みください!
特集記事はこちら!


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